仇討浪人と座頭梅一

克全

文字の大きさ
上 下
88 / 88
第四章

第八十八話:討伐

しおりを挟む
「殿、おめでとうございます。
 いよいよご出陣でございますね」

 本家にいた時から可愛がってくれていた元下男、今では三千石旗本となった大道寺家の侍となった寺岡元蔵忠義が長十郎に声をかけている。
 徳川家基殺しの主犯と目される、立石新次郎を捕らえる役目を与えられた長十郎は、三千石に相応しい軍役の供を連れて探索の旅に出るのだ。

 当主の長十郎は当然騎乗しているが、付き従う家臣にも二騎の騎馬武者がいて、徒士侍八人、押足軽三人、若党二人、弓足軽二人、立弓足軽一人、鉄砲足軽三人、長刀足軽一人、甲冑持二人、槍持五人、馬印持二人、馬の口取り四人、手明一人、手替二人、雨具持一人、草履取一人、挟箱持二人、沓箱持二人、箭箱持一人、玉箱持一人、小荷駄四人、都合五十六人という堂々とした軍勢だった。

「屋敷の護りは爺に任せた。
 爺がいてくれるから安心して探索に出かけられる」

 長十郎の家臣は付き従う者たちばかりではなかった。
 付き従う者たちと同じだけの腕自慢が屋敷を護るのだ。
 情けない事だが、長十郎を逆恨みする者がいる。
 処罰された一橋家や両松平家はもちろん、評定の場で大恥をかかされたと逆恨みした、目付の小原を始めとした面々が足元をすくおうとしている。
 何より恐ろしかったのは、薩摩藩の逆恨みだった。

「お任せください、殿。
 この命に代えましても、奥方様とお子様方をお守りいたします」

「うむ、任せたぞ」

 長十郎は心配はしていたが、同時に必ず護りきってくれるとも信じていた。
 下男の爺を本家から譲り受けて留守居役に抜擢しようとした時、自分は下男に過ぎないと言い張り、頑として聞き入れてくれなかった。
 だが長十郎が武士としての腕前や生まれ育ちではなく、非常時に命を捨てて妻子を護ってくれる者を留守居役にするのだと言って、ようやく役についてくれたのだ。
 妻子が害されそうになっても、爺が盾になってくれると信じられた。
 同時に密かに連絡を取り合っている梅吉が、家族の警護を確約してくれてもいる。

 自分に目付を始めとした敵の監視がついている事を自覚している長十郎は、間に何人もの人間を挟んで梅一と連絡を取っていた。
 そして敵を排除することにしたのだ。
 役目についている敵に対しては、役目を利用した不正を暴き失脚させる。
 探索に出陣した後は、つきまとう者を薩摩藩の手の者と断じて斬り殺す。
 梅一がそれに全面協力してくれるのだ。
 
 そして何よりありがたかったのが、影武者を用意してくれる事だった。
 出陣中に影武者と入れ替わり、会津白河に送られる一橋治済を斬り殺すのだ。
 もう何時入れ替わるかも決まっている。
 梅吉、いや、桜小僧が協力してくれるのなら、必ず仇討ちが成功すると長十郎は信じていた。

「出陣じゃ」

「「「「「おっおおおおお」」」」」

 出陣する長十郎はを妻子と家臣が見送っている。
 その中には、奥女中として召し抱えられたおりょうと、児小姓に召し抱えられた虎太郎も混じっていた。
しおりを挟む
感想 0

この作品の感想を投稿する

あなたにおすすめの小説

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

猿の内政官の孫 ~雷次郎伝説~

橋本洋一
歴史・時代
※猿の内政官シリーズの続きです。 天下泰平となった日の本。その雨竜家の跡継ぎ、雨竜秀成は江戸の町を遊び歩いていた。人呼んで『日の本一の遊び人』雷次郎。しかし彼はある日、とある少女と出会う。それによって『百万石の陰謀』に巻き込まれることとなる――

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

徳川家基、不本意!

克全
歴史・時代
幻の11代将軍、徳川家基が生き残っていたらどのような世の中になっていたのか?田沼意次に取立てられて、徳川家基の住む西之丸御納戸役となっていた長谷川平蔵が、田沼意次ではなく徳川家基に取り入って出世しようとしていたらどうなっていたのか?徳川家治が、次々と死んでいく自分の子供の死因に疑念を持っていたらどうなっていたのか、そのような事を考えて創作してみました。

処理中です...