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第四章
第八十五話:密約
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「噂では色々と聞いていますが、結局どういう事なんです。
旦那の口から詳しく聞かせててくださいよ」
梅一はそう言葉をかけると天井裏から飛び降りてきた。
長十郎が抜き打ちをしかけても避けられるぎりぎりの場所に座った。
膝詰めの談判とはとても言えないが、話し合うつもりでいた。
噂は色々と流れていたが、確かな話しが分からない。
特に徳川家基殺しに係わった者たちの処分が分からなかった。
梅一としては、仲間を殺した薩摩藩の処分が気になっていた。
「ならば聞かせてやろう。
一橋治済は大納言様を暗殺したのは家臣が勝手にやった事だと言っている。
自分は何も知らなかったと言い張っておる。
家老も幕府が選んだ者で、自分が選んだ者ではないと言って、主として責任を取る必要もないと、愚にもつかない事を口にしている。
全ては家老の水谷勝富と用人の立石典辰が勝手にやった事だと言っておる。
他の家老も重役も同じ事を言い張っておる。
どいつもこいつも武士の風上にも置けない卑怯者だ」
大道寺長十郎は普段の彼とは思えない悪態をついた。
長十郎が主筋の一橋公を諱で呼び捨てにするのを聞いて、我慢の限界なのだろうと梅一は思った。
それくらい一橋家に仕える者たちは卑怯下劣なのだろうも梅一は思った。
「それがまかり通っちまうんですかい。
一橋治済の家臣どもも無罪放免になっちまうんですかい」
「いや、さすがに無罪放免にはならん。
薩摩藩の家老が、病死した主君が一橋治済から徳川家基殺害を持ち掛けられたが、武士道に反すると断ったと証言した。
某も、一橋治済と水谷勝富が大納言様を暗殺させたと話しているのを、天井裏に潜んで聞いたと嘘の証言もした。
だが、本人と家臣どもが口をそろえて水谷勝富と立石典辰が勝手にやった事と言い張るので、自供を従事する幕府の判例に従い、死刑ではなくお家断絶と流罪と重追放になってしまった」
「それは、一橋家を潰して当主と子弟をどこかに預けるという事ですかい」
「そうだ、江戸に住むことは許されず、どこかに藩で幽閉されることになる。
薩摩藩と結託して謀叛を起こされては困るので、奥羽の藩に流されるだろう。
恐らくだが、奥州白河藩で松平定信と一緒に幽閉されるだろう」
「だったら、流罪にされる時には駕籠で移動するのでしょう。
犯罪者なのですから、立派な大名行列でお国入りするわけでもないのでしょう。
なら当初の計画通り、襲撃して殺してしまえばいいじゃないですか。
それなら千代田の御城や一橋家の上屋敷に忍び込んで殺すよりも簡単ですぜ。
それとも旦那は加増されて覚悟が変わりましたか」
「無礼者、言わしておけば好き勝手申しおって。
某の決意には何の変りもないわ。
ふん、だが、梅吉のお陰で目が覚めた。
そうだな、流罪に送られる時に襲えばいいだけの事だった。
だが、正直に申せば、梅吉の申す通り、某にも欲が出た。
三千石に加増された家を息子に継がせたい。
虫のいい話だが、一橋治済を殺して家も残したい。
何かいい方法はないか、梅吉」
「だったらこうしませんか、旦那」
旦那の口から詳しく聞かせててくださいよ」
梅一はそう言葉をかけると天井裏から飛び降りてきた。
長十郎が抜き打ちをしかけても避けられるぎりぎりの場所に座った。
膝詰めの談判とはとても言えないが、話し合うつもりでいた。
噂は色々と流れていたが、確かな話しが分からない。
特に徳川家基殺しに係わった者たちの処分が分からなかった。
梅一としては、仲間を殺した薩摩藩の処分が気になっていた。
「ならば聞かせてやろう。
一橋治済は大納言様を暗殺したのは家臣が勝手にやった事だと言っている。
自分は何も知らなかったと言い張っておる。
家老も幕府が選んだ者で、自分が選んだ者ではないと言って、主として責任を取る必要もないと、愚にもつかない事を口にしている。
全ては家老の水谷勝富と用人の立石典辰が勝手にやった事だと言っておる。
他の家老も重役も同じ事を言い張っておる。
どいつもこいつも武士の風上にも置けない卑怯者だ」
大道寺長十郎は普段の彼とは思えない悪態をついた。
長十郎が主筋の一橋公を諱で呼び捨てにするのを聞いて、我慢の限界なのだろうと梅一は思った。
それくらい一橋家に仕える者たちは卑怯下劣なのだろうも梅一は思った。
「それがまかり通っちまうんですかい。
一橋治済の家臣どもも無罪放免になっちまうんですかい」
「いや、さすがに無罪放免にはならん。
薩摩藩の家老が、病死した主君が一橋治済から徳川家基殺害を持ち掛けられたが、武士道に反すると断ったと証言した。
某も、一橋治済と水谷勝富が大納言様を暗殺させたと話しているのを、天井裏に潜んで聞いたと嘘の証言もした。
だが、本人と家臣どもが口をそろえて水谷勝富と立石典辰が勝手にやった事と言い張るので、自供を従事する幕府の判例に従い、死刑ではなくお家断絶と流罪と重追放になってしまった」
「それは、一橋家を潰して当主と子弟をどこかに預けるという事ですかい」
「そうだ、江戸に住むことは許されず、どこかに藩で幽閉されることになる。
薩摩藩と結託して謀叛を起こされては困るので、奥羽の藩に流されるだろう。
恐らくだが、奥州白河藩で松平定信と一緒に幽閉されるだろう」
「だったら、流罪にされる時には駕籠で移動するのでしょう。
犯罪者なのですから、立派な大名行列でお国入りするわけでもないのでしょう。
なら当初の計画通り、襲撃して殺してしまえばいいじゃないですか。
それなら千代田の御城や一橋家の上屋敷に忍び込んで殺すよりも簡単ですぜ。
それとも旦那は加増されて覚悟が変わりましたか」
「無礼者、言わしておけば好き勝手申しおって。
某の決意には何の変りもないわ。
ふん、だが、梅吉のお陰で目が覚めた。
そうだな、流罪に送られる時に襲えばいいだけの事だった。
だが、正直に申せば、梅吉の申す通り、某にも欲が出た。
三千石に加増された家を息子に継がせたい。
虫のいい話だが、一橋治済を殺して家も残したい。
何かいい方法はないか、梅吉」
「だったらこうしませんか、旦那」
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