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第四章
第七十六話:報復
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下城時間が過ぎても真剣に激しく話し合っていた田沼意次と大道寺長十郎が、今一度屋敷に戻って考えようとしたその夜、梅一たちが動いた。
薩摩藩が屋敷を護る体制を立て直す前に復讐、報復を行った。
見事に薩摩藩上屋敷に侵入した男、梅一と巳之介と並び称される盗賊。
鳶銀と綽名される銀次郎が見事にやってのけた。
本当は仲間が殺される原因を作った梅一が自らの手で報復したかった。
それができるだけの忍び込みの技も身につけていた。
だが、次期頭目に決まった事で身勝手は許されなくなった。
よほどのことがない限り、危険な事ができなくなってしまった。
少なくとも、大名屋敷に忍び込んで当主を殺すような荒事はさせてもらいない。
そこで暗殺を託されたのが鳶銀だった。
普段は江戸で鳶職をしている鳶銀だ。
火事が起きれば火消の纏振りとして活躍する漢でもある。
毎日忍び込みの鍛錬を繰り返しても誰にも疑われない。
自らの能力が落ちてきた場合も正確に知ることができる。
そして今の鳶銀は最高の技を振るうことができる。
再び薩摩藩上屋敷の御殿天井裏に忍び込んだ鳶銀は、易々と島津重豪の寝所の上に移動し、不寝番に気配を悟られることなく部屋に降りた。
本職の忍者ならば、寝ている所を殺すのは卑怯と考える。
一度枕を蹴飛ばして敵が目を醒ました後で殺す。
ほんの一瞬の差でしかないが、形式美として行われる。
だが鳶銀は忍者ではなく盗賊なのだ。
鳶銀は島津重豪を起こすことなく鎧通しで心臓を一突きした。
悲鳴をあげさせないように、口を押えて一突きした。
鎧のすき間から突き殺すことに特化した武器、それが鎧通しだ。
刃の幅が狭くて手元部分の重ねが極端に厚く先が薄い、実戦を重視した武器だ。
肋骨をものともせずに突き刺せるように造られている。
その鎧通しで上手く肋骨のすき間をついて心臓を刺し貫いたのだ。
「うっぐ」
一瞬くぐもった悲鳴をあげそうになった島津重豪だが、口を幾重にも手拭いを巻いた鳶銀の左手で押さえられているので、何の音も漏れなかった。
人が死に時に放つ気配は独特のものがある。
剣術の達人、ひとかどの剣客が不寝番を務めていればその気配に気がつく。
当然だが常在戦場の精神で幕府の忍者に備えている薩摩藩邸は、示現流を極めた藩士を不寝番に選んでいた。
「殿、大丈夫でございますか、殿」
控えの間にいた不寝番が島津重豪に声をかける。
鳶銀は瞬時に障子を開けて逃げ出した。
天井裏に跳んで隠れては逃げきれなくなると判断したのだ。
不寝番が警備している庭を走り抜けてできるだけ早く屋敷の外に出る。
それが生き残るための唯一の方法だと一瞬で考え実行に移した。
「出会え、狼藉者だ、斬って捨てよ。
医者を呼べ、殿が襲われた。
直ぐに医者を呼ぶのだ」
薩摩藩が屋敷を護る体制を立て直す前に復讐、報復を行った。
見事に薩摩藩上屋敷に侵入した男、梅一と巳之介と並び称される盗賊。
鳶銀と綽名される銀次郎が見事にやってのけた。
本当は仲間が殺される原因を作った梅一が自らの手で報復したかった。
それができるだけの忍び込みの技も身につけていた。
だが、次期頭目に決まった事で身勝手は許されなくなった。
よほどのことがない限り、危険な事ができなくなってしまった。
少なくとも、大名屋敷に忍び込んで当主を殺すような荒事はさせてもらいない。
そこで暗殺を託されたのが鳶銀だった。
普段は江戸で鳶職をしている鳶銀だ。
火事が起きれば火消の纏振りとして活躍する漢でもある。
毎日忍び込みの鍛錬を繰り返しても誰にも疑われない。
自らの能力が落ちてきた場合も正確に知ることができる。
そして今の鳶銀は最高の技を振るうことができる。
再び薩摩藩上屋敷の御殿天井裏に忍び込んだ鳶銀は、易々と島津重豪の寝所の上に移動し、不寝番に気配を悟られることなく部屋に降りた。
本職の忍者ならば、寝ている所を殺すのは卑怯と考える。
一度枕を蹴飛ばして敵が目を醒ました後で殺す。
ほんの一瞬の差でしかないが、形式美として行われる。
だが鳶銀は忍者ではなく盗賊なのだ。
鳶銀は島津重豪を起こすことなく鎧通しで心臓を一突きした。
悲鳴をあげさせないように、口を押えて一突きした。
鎧のすき間から突き殺すことに特化した武器、それが鎧通しだ。
刃の幅が狭くて手元部分の重ねが極端に厚く先が薄い、実戦を重視した武器だ。
肋骨をものともせずに突き刺せるように造られている。
その鎧通しで上手く肋骨のすき間をついて心臓を刺し貫いたのだ。
「うっぐ」
一瞬くぐもった悲鳴をあげそうになった島津重豪だが、口を幾重にも手拭いを巻いた鳶銀の左手で押さえられているので、何の音も漏れなかった。
人が死に時に放つ気配は独特のものがある。
剣術の達人、ひとかどの剣客が不寝番を務めていればその気配に気がつく。
当然だが常在戦場の精神で幕府の忍者に備えている薩摩藩邸は、示現流を極めた藩士を不寝番に選んでいた。
「殿、大丈夫でございますか、殿」
控えの間にいた不寝番が島津重豪に声をかける。
鳶銀は瞬時に障子を開けて逃げ出した。
天井裏に跳んで隠れては逃げきれなくなると判断したのだ。
不寝番が警備している庭を走り抜けてできるだけ早く屋敷の外に出る。
それが生き残るための唯一の方法だと一瞬で考え実行に移した。
「出会え、狼藉者だ、斬って捨てよ。
医者を呼べ、殿が襲われた。
直ぐに医者を呼ぶのだ」
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