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第四章
第七十二話:奸臣佞臣
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徳川家治が父親と将軍の狭間で苦悩している頃、ある男が逃げだしていた。
元凶が息子を将軍の据えようとした一橋治済なのは間違いない。
だがその大逆を実行に移せるようにしたのは、立石新次郎だった。
立石新次郎は悪党そのものだった。
女を騙し商家を襲い金を貯え、その金で小身旗本の三男の戸籍を買った。
更に残った金を使って立石家に養子に入ったのだ。
幼少の頃から本能のまま悪事を働いてきた立石新次郎は、同じ悪党の匂いがする一橋治済に上手く取り入り、信用されるようになった。
そして一橋治済の野心を見抜いて、徳川家基暗殺の絵図を書いた。
その一環として島津家との縁組を整え、琉球経由の密貿易で南蛮渡りの毒薬を手に入れ、池原雲伯を博打と女で籠絡して味方に引き込んだ。
家老の水谷など立石新次郎の操り人形でしかなかった。
そんな才覚のある立石新次郎だからこそ、逃げるべき時も間違えない。
一橋家の用人として個人的に蓄えた裏金と、一橋治済から与えられていた工作資金、更には島津家から渡された工作資金に加え、一橋家の公金まで盗んで逃げた。
悪党三昧で生きていた頃の生き残りを率いて、御府内どころか関八州からも遠く離れた場所に逃げ出した。
最悪の場合を想定して、隠れ家を確保していたのだ。
最初は誰も立石新次郎が逃げた事に気がつかないでいた。
主君である一橋治済も全く気がついていなかった。
立石新次郎が「薩摩守様の暴走に対処すべく、処方に手配りいたします」と言っていたので、一橋治済は更なる工作資金が必要だと手許金を渡すほどだった。
二日三日と姿を現さなくても、工作に忙しいのだと思っていた。
だがその二日三日の間に、一橋治済を取り巻く環境は悪化の一途をたどっていた。
まず最初に動いたのは梅一率いる盗賊団だった。
仲間を殺された復讐心にたぎる盗賊団は、次期頭目である梅一が直接率いて報復することになった。
赫々たる武名を誇る薩摩藩の上屋敷に忍び込み、藩主を殺すことができれば、梅一の次期頭目としての座はゆるぎないものになる。
梅一自身にそんな気持ちはないが、養父や古参幹部は梅一の次期頭目の座を安泰にすべく、全力を投入して島津重豪を殺す気だった。
「急ぐのだ、島津重豪が愚かな考えを改めて山くぐり衆を帰参させる前に殺す。
領国から新たな山くぐり衆が集まる前に、何としてでも島津重豪を殺すのだ。
仲間の仇を討つためには、一刻の遅れが失敗につながる。
強硬策になろうとも、今晩中に島津重豪の首を取れ。
必要ならば単筒や吹き矢を使っても構わぬ。
敵は悪逆非道な大名だ、今回だけは掟を緩める」
梅一の養父は島津重豪が考えを改めて生き残りの山くぐり衆を許す事を恐れた。
だがその心配は杞憂だった。
身勝手な島津重豪の周りには、身の安泰を図る佞臣しか残っていなかった。
島津重豪に諫言した家老はすでに遠ざけられていた。
島津重豪は自ら死地に向かって行ったのだ。
元凶が息子を将軍の据えようとした一橋治済なのは間違いない。
だがその大逆を実行に移せるようにしたのは、立石新次郎だった。
立石新次郎は悪党そのものだった。
女を騙し商家を襲い金を貯え、その金で小身旗本の三男の戸籍を買った。
更に残った金を使って立石家に養子に入ったのだ。
幼少の頃から本能のまま悪事を働いてきた立石新次郎は、同じ悪党の匂いがする一橋治済に上手く取り入り、信用されるようになった。
そして一橋治済の野心を見抜いて、徳川家基暗殺の絵図を書いた。
その一環として島津家との縁組を整え、琉球経由の密貿易で南蛮渡りの毒薬を手に入れ、池原雲伯を博打と女で籠絡して味方に引き込んだ。
家老の水谷など立石新次郎の操り人形でしかなかった。
そんな才覚のある立石新次郎だからこそ、逃げるべき時も間違えない。
一橋家の用人として個人的に蓄えた裏金と、一橋治済から与えられていた工作資金、更には島津家から渡された工作資金に加え、一橋家の公金まで盗んで逃げた。
悪党三昧で生きていた頃の生き残りを率いて、御府内どころか関八州からも遠く離れた場所に逃げ出した。
最悪の場合を想定して、隠れ家を確保していたのだ。
最初は誰も立石新次郎が逃げた事に気がつかないでいた。
主君である一橋治済も全く気がついていなかった。
立石新次郎が「薩摩守様の暴走に対処すべく、処方に手配りいたします」と言っていたので、一橋治済は更なる工作資金が必要だと手許金を渡すほどだった。
二日三日と姿を現さなくても、工作に忙しいのだと思っていた。
だがその二日三日の間に、一橋治済を取り巻く環境は悪化の一途をたどっていた。
まず最初に動いたのは梅一率いる盗賊団だった。
仲間を殺された復讐心にたぎる盗賊団は、次期頭目である梅一が直接率いて報復することになった。
赫々たる武名を誇る薩摩藩の上屋敷に忍び込み、藩主を殺すことができれば、梅一の次期頭目としての座はゆるぎないものになる。
梅一自身にそんな気持ちはないが、養父や古参幹部は梅一の次期頭目の座を安泰にすべく、全力を投入して島津重豪を殺す気だった。
「急ぐのだ、島津重豪が愚かな考えを改めて山くぐり衆を帰参させる前に殺す。
領国から新たな山くぐり衆が集まる前に、何としてでも島津重豪を殺すのだ。
仲間の仇を討つためには、一刻の遅れが失敗につながる。
強硬策になろうとも、今晩中に島津重豪の首を取れ。
必要ならば単筒や吹き矢を使っても構わぬ。
敵は悪逆非道な大名だ、今回だけは掟を緩める」
梅一の養父は島津重豪が考えを改めて生き残りの山くぐり衆を許す事を恐れた。
だがその心配は杞憂だった。
身勝手な島津重豪の周りには、身の安泰を図る佞臣しか残っていなかった。
島津重豪に諫言した家老はすでに遠ざけられていた。
島津重豪は自ら死地に向かって行ったのだ。
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