68 / 88
第三章
第六十八話:尾行
しおりを挟む
「ええい、薩摩藩に無能は不用じゃ。
失敗した者は追放じゃ。
情けなく斬り殺された者の家族も放逐せよ」
「殿、それはいくなんでも酷過ぎます。
彼らは最初からこの策が危険だと諫言しておりましたぞ。
それを強硬されたのは殿でございます。
殿の為に失敗が分かっている策に従い、忠義に殉じた者や残された家族を処分などすれば、殿の悪事を幕府に直訴する者が現れますぞ」
薩摩藩上屋敷の御殿天井裏に潜んだ盗賊が、身勝手な島津重豪と諫言する家老の会話に聞き耳を立てていた。
本来なら常在戦場の精神で幕府を警戒している薩摩藩邸は、盗賊団の腕利きでも侵入するのは不可能な場所だった。
だが今回の失敗で激怒した島津重豪が、薩摩忍者を処分しようとしているので、上屋敷を守る忍者がいなくなっていた。
「ふん、やはり武士の風上にも置けぬ不忠者ではないか。
自分たちの未熟が原因で失敗したのを、余の責任として処分を逃れようとする。
しかも処分されたら主家を裏切って幕府に訴えるという。
そのよう無能で不忠な屑など斬首にすればよいのだ。
これ以上余に逆らうのなら、お前一緒に処分するぞ」
「殿、なんと情けない事を口にされるのですが。
山くぐり衆をすべて処分されてしまったら、幕府の密偵から藩邸を守る者がいなくなってしまいますぞ」
「何を申すか、愚か者。
薩摩藩には多くの薩摩隼人がいるではないか。
山くぐり衆がいなくなろうと、幕府密偵などに侵入を許す藩士たちではない。
それともお前は幕府密偵に後れを取る未熟者か」
「殿がそこまで申されるのなら、彼らの処分に関してはもう何も申しますまい。
ですがこの策に参加していない山くぐり衆まで処分するのはお止めください。
そして一日でも早く本国から新たな山くぐり衆を呼び出し、藩邸の守りを固めるようにしてください。
伏してお願い申し上げます」
天井裏に潜む盗賊は、島津重豪の身勝手と愚かさに腹で笑っていた。
だが島津重豪が身勝手で愚かなのは、盗賊団には幸いな事だった。
仲間を無残に殺された盗賊団は必ず復讐を行う。
島津重豪を殺すためなら、どのような犠牲も厭わない。
それが本格と自負する盗賊団の矜持なのだ。
だがその邪魔をする存在が薩摩忍軍だった
その薩摩忍軍を自ら遠ざけると言うのだから、笑うしかない。
天井裏に潜む盗賊は慌てる事無く気配を消して会話を聞き続けた。
彼には絶対にやらねばならない大切な役目があった。
本当の敵が島津重豪と一橋だけなのか、それとも田沼意次も加わっているのか、それを確かめなければいけなかった。
今までは梅一の友人為にやる頼まれ仕事だった。
だが今は仲間の仇を討つ当事者として、命懸けで探り出さなければいけない、とても重大な役割となっていた。
失敗した者は追放じゃ。
情けなく斬り殺された者の家族も放逐せよ」
「殿、それはいくなんでも酷過ぎます。
彼らは最初からこの策が危険だと諫言しておりましたぞ。
それを強硬されたのは殿でございます。
殿の為に失敗が分かっている策に従い、忠義に殉じた者や残された家族を処分などすれば、殿の悪事を幕府に直訴する者が現れますぞ」
薩摩藩上屋敷の御殿天井裏に潜んだ盗賊が、身勝手な島津重豪と諫言する家老の会話に聞き耳を立てていた。
本来なら常在戦場の精神で幕府を警戒している薩摩藩邸は、盗賊団の腕利きでも侵入するのは不可能な場所だった。
だが今回の失敗で激怒した島津重豪が、薩摩忍者を処分しようとしているので、上屋敷を守る忍者がいなくなっていた。
「ふん、やはり武士の風上にも置けぬ不忠者ではないか。
自分たちの未熟が原因で失敗したのを、余の責任として処分を逃れようとする。
しかも処分されたら主家を裏切って幕府に訴えるという。
そのよう無能で不忠な屑など斬首にすればよいのだ。
これ以上余に逆らうのなら、お前一緒に処分するぞ」
「殿、なんと情けない事を口にされるのですが。
山くぐり衆をすべて処分されてしまったら、幕府の密偵から藩邸を守る者がいなくなってしまいますぞ」
「何を申すか、愚か者。
薩摩藩には多くの薩摩隼人がいるではないか。
山くぐり衆がいなくなろうと、幕府密偵などに侵入を許す藩士たちではない。
それともお前は幕府密偵に後れを取る未熟者か」
「殿がそこまで申されるのなら、彼らの処分に関してはもう何も申しますまい。
ですがこの策に参加していない山くぐり衆まで処分するのはお止めください。
そして一日でも早く本国から新たな山くぐり衆を呼び出し、藩邸の守りを固めるようにしてください。
伏してお願い申し上げます」
天井裏に潜む盗賊は、島津重豪の身勝手と愚かさに腹で笑っていた。
だが島津重豪が身勝手で愚かなのは、盗賊団には幸いな事だった。
仲間を無残に殺された盗賊団は必ず復讐を行う。
島津重豪を殺すためなら、どのような犠牲も厭わない。
それが本格と自負する盗賊団の矜持なのだ。
だがその邪魔をする存在が薩摩忍軍だった
その薩摩忍軍を自ら遠ざけると言うのだから、笑うしかない。
天井裏に潜む盗賊は慌てる事無く気配を消して会話を聞き続けた。
彼には絶対にやらねばならない大切な役目があった。
本当の敵が島津重豪と一橋だけなのか、それとも田沼意次も加わっているのか、それを確かめなければいけなかった。
今までは梅一の友人為にやる頼まれ仕事だった。
だが今は仲間の仇を討つ当事者として、命懸けで探り出さなければいけない、とても重大な役割となっていた。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
徳川家基、不本意!
克全
歴史・時代
幻の11代将軍、徳川家基が生き残っていたらどのような世の中になっていたのか?田沼意次に取立てられて、徳川家基の住む西之丸御納戸役となっていた長谷川平蔵が、田沼意次ではなく徳川家基に取り入って出世しようとしていたらどうなっていたのか?徳川家治が、次々と死んでいく自分の子供の死因に疑念を持っていたらどうなっていたのか、そのような事を考えて創作してみました。
三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河
墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。
三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。
全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。
本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。
おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。
本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。
戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。
歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。
※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。
※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

猿の内政官の孫 ~雷次郎伝説~
橋本洋一
歴史・時代
※猿の内政官シリーズの続きです。
天下泰平となった日の本。その雨竜家の跡継ぎ、雨竜秀成は江戸の町を遊び歩いていた。人呼んで『日の本一の遊び人』雷次郎。しかし彼はある日、とある少女と出会う。それによって『百万石の陰謀』に巻き込まれることとなる――
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる