仇討浪人と座頭梅一

克全

文字の大きさ
上 下
65 / 88
第三章

第六十五話:剣客盗賊

しおりを挟む
 梶清三郎は腹をくくっていた。
 敵が薩摩示現流の使い手だという事は、助太刀してくれた辻番所の番人が、一刀のもとに斬り殺されるのを見て分かっていた。
 逃げてきた方角からの怒声と絶叫で、他にも助太刀が来てくれたことも分かった。
 だが自分が正面で対峙している敵の状況は変わらない。
 命懸けの助太刀も大勢に影響はなかった。

「俺の戦い方を見ておけ」

 最後まで池原雲伯を守って逃げた用心棒は七人だった。
 盗賊団の中でも剣術に優れた者たち。
 万が一町奉行所や火付け盗賊改方の襲撃を受けた時に迎え討つ役割の者たち。
 盗み先で殺傷や強姦も厭わない外道働きの盗賊団とかち合った時に、畜生共を殺す役割の者たちだった。
 彼らを束ねる梶清三郎が、一人薩摩忍軍に向かって行った。

「ちぇすとぉおおおおおお」

 薩摩忍軍の先方が梶清三郎に必殺の一撃を振り下ろす。
 だが梶清三郎は薩摩忍者の刀を受けようとはしない。
 全神経を集中して、薩摩忍者の初太刀を外して抜き打ちに腹を斬り裂く。
 これが示現流に対する最善の受けだった。
 刀で受けても絶対に受けきれない示現流の初太刀は避けるに限るのだ。
 初太刀に全力を傾ける示現流は、初太刀を避けられれば勝てるのだ。

「我らも続け」

 残る六人のうち、最後まで池原雲伯を守る役目以外の者が斬り込んでいった。
 薩摩忍軍の中でも凄腕だった先鋒を斬られた事に、薩摩忍軍が驚き一瞬の隙が生まれていた時に、盗賊団の五人が斬り込んできたのだ。
 上段に構える時間のなかった薩摩忍者は慌てて刀を合わせて乱戦となった。
 何とか上段に構えて初太刀を振り下ろした忍者も、全員初太刀をを避けられ抜き打ちに腹を斬られたり手首を斬り落とされたりした。

 一瞬優勢になった盗賊団の剣客たちだが、多勢に無勢を覆すことはできなかった。
 二人目三人目の薩摩忍者と戦ううちに、徐々に傷を受けるようになっていた。
 豊臣秀吉の九州征伐で領地を大きく削られた薩摩藩だが、家臣をほとんど召し放たなかったので、全領民に占める武家の割合が異常に高い。
 何と六万も家臣の家があり、その分だけ山伏兼務の忍者が多い。
 その分兵農分離が進んでおらず、半農半武の郷士と変わらない藩士が大半だ。

 そんな数を誇る薩摩忍軍だからこそ、江戸近郊にいた者たちだけでも三百はいた。
 薩摩領内が貧しく、山伏に姿を変えて諸国を廻り、少しでも家族に負担をかけたくないという事情もあったのだ。
 そんな薩摩忍者が、数を頼んで剣客盗賊をなます斬りにしようとした。
 十重二十重と取り囲まれ、四方から示現流の初太刀で斬りかかられたら、完全に避けることなど不可能だった。

 一人二人と剣客盗賊が斬り殺された。
 生き残っている剣客盗賊もほぼ全員手傷を負っている。
 その内の二人は明らかに致命傷とわかる傷を負っている。
 最後まで池原雲伯を守っている剣客盗賊も覚悟を決めた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

四代目 豊臣秀勝

克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。 読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。 史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。 秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。 小牧長久手で秀吉は勝てるのか? 朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか? 朝鮮征伐は行われるのか? 秀頼は生まれるのか。 秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

三国志 群像譚 ~瞳の奥の天地~ 家族愛の三国志大河

墨笑
歴史・時代
『家族愛と人の心』『個性と社会性』をテーマにした三国志の大河小説です。 三国志を知らない方も楽しんでいただけるよう意識して書きました。 全体の文量はかなり多いのですが、半分以上は様々な人物を中心にした短編・中編の集まりです。 本編がちょっと長いので、お試しで読まれる方は後ろの方の短編・中編から読んでいただいても良いと思います。 おすすめは『小覇王の暗殺者(ep.216)』『呂布の娘の嫁入り噺(ep.239)』『段煨(ep.285)』あたりです。 本編では蜀において諸葛亮孔明に次ぐ官職を務めた許靖という人物を取り上げています。 戦乱に翻弄され、中国各地を放浪する波乱万丈の人生を送りました。 歴史ものとはいえ軽めに書いていますので、歴史が苦手、三国志を知らないという方でもぜひお気軽にお読みください。 ※人名が分かりづらくなるのを避けるため、アザナは一切使わないことにしました。ご了承ください。 ※切りのいい時には完結設定になっていますが、三国志小説の執筆は私のライフワークです。生きている限り話を追加し続けていくつもりですので、ブックマークしておいていただけると幸いです。

友達の母親が俺の目の前で下着姿に…

じゅ〜ん
エッセイ・ノンフィクション
とあるオッサンの青春実話です

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部

山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。 これからどうかよろしくお願い致します! ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

徳川家基、不本意!

克全
歴史・時代
幻の11代将軍、徳川家基が生き残っていたらどのような世の中になっていたのか?田沼意次に取立てられて、徳川家基の住む西之丸御納戸役となっていた長谷川平蔵が、田沼意次ではなく徳川家基に取り入って出世しようとしていたらどうなっていたのか?徳川家治が、次々と死んでいく自分の子供の死因に疑念を持っていたらどうなっていたのか、そのような事を考えて創作してみました。

処理中です...