仇討浪人と座頭梅一

克全

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第三章

第六十三話:殺し合い

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 一方盗賊団も薩摩忍軍の接近には気がついていた。
 忍者たちも山伏や修験者としても鍛錬を重ねているが、盗賊団の者たちも日々引き込みやつなぎとしての鍛錬を重ねていた。
 特に梅一のいる盗賊団は、若い衆に忍び込みの術を鍛錬させていた。
 何の努力もしない堕落した人間を盗賊団に入れたりはしなかった。
 それでも、徐々に性質の悪い者が増えて来ていたのも確かだった。

「池原殿、屋敷の周りを胡乱な者たちに取り囲まれている。
 人数も多く、もしかしたら我を皆殺しにしようとしているかもしれない。
 両隣の屋敷はもちろん、酒井右京介様の屋敷と辻番所、采女が原馬場の辻番所に知らせを送り、助っ人を頼みましょう。
 それと池原殿は我々が護って二ノ橋の方に逃げる。
 逃げきれない場合は松平周防守様の屋敷に助けを求める」

 梶清三郎は見張りの者たちから知らせを受けて直ぐに決断した。
 剣客としての清三郎の感が危険を知らせていた。
 知らされた敵の数と気配が予測していたよりもはるかに多かった。
 敵は清三郎や頭目が考えているほどには賢くなかったからだ。
 池原殿を殺した場合、まず間違いなく告発状が表にでる事も判断できない馬鹿だ。
 だがそのために、池原屋敷に入り込んでいた盗賊と周囲を警戒していた盗賊が、命の危険に晒されることになった。

 薩摩の忍者たちは町地の方から近づいていた。
 御典医の池原雲伯屋敷は武家地と町地の境目、京橋南築地鉄砲洲木挽町にある。
 西本願寺門跡の方から近づこうとすれば辻番所に見つかってしまう。
 だから町地の尾張町と銀座町の二カ所に分かれて潜み、木挽橋と新し橋の二つを橋を渡り、池原屋敷を挟み込むように襲い掛かってきた。

 だが盗賊団の方も最悪の状況は想定していた。
 強襲された時に逃げる方法も考えていた。
 まずは単に博打が好きなだけの大身旗本と御大尽を両隣の屋敷に逃がす。
 両隣の屋敷も同じ御典医だ。
 一橋なら他の屋敷に逃げた大身旗本と御大尽を追わないと考えたのだ。

 次に盗賊団でも重要な、忍び込みに優れた者を先に逃がした。
 池原屋敷の周囲を警戒していた凄腕盗賊だ。
 彼らを失う事は今後の活動に多大な影響を及ぼす。
 同時に池原雲伯を連れて盗賊団の強者が逃げる。
 最後まで池原屋敷に残って敵を迎え討つのは、新たに用心棒の雇われた盗賊団とは関係のない博徒と火消人足、それに賭場を任された博徒一家だった。

「やっちまえ」
「賭場荒らしを許すな」
「ちぇすとぉおおおおおお」

 池原屋敷は阿鼻叫喚の地獄絵図となった。
 山くぐり衆、薩摩忍者とはいえ普段は普通の薩摩藩士として主家に仕えてる。
 当然だが大多数の薩摩忍者は示現流を学んでいる。
 一撃必殺、上段からの初太刀に全てをかける示現流の一撃はすざまじかった。
 刀で受ける事もできずに頭を叩き切られる。
 何とか大刀や大脇差で受けたと思っても、受けた刀を叩き折られて頭を割られる。
 刀を折られることがなくても、受けきれずに押し込まれて頭を割られるのだ。
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