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第三章
第六十一話:焦燥
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大道寺長十郎は焦り苛立ってしまっていた。
主君と心決めた徳川家基を失ってから、ずっと動き続けてきた。
仇を求めて御府内を探し回っていた。
だから焦りも苛立ちも最小限で済んでいた。
だが今は梅一たちに全てを託して待つだけの日々だった。
忍び込みの術に磨きをかけるべく、飛火防組合の鍛錬を家臣と繰り返しているが、それで発散しきれるものではなかった。
だが、待つ日々は報われることになった。
梅一たち盗賊団は信じられないくらい優秀で、池原雲伯の行動や考え方を見る事で、告発状を預けた相手や隠し場所を探り当てたのだ。
池原雲伯が書いて隠した告白状は五つでも十でもなく八つだった。
その内に三カ所を見事に探り出し、告白状を盗み出していた。
預けた相手から盗まれたと知らせを受けた池原雲伯は多いに焦った。
他の五カ所も既に発見され盗み出されているかもしれなかった。
だがだからといって、他の五カ所を確認に行けば、正体不明の敵や一橋家に隠し場所を知られてしまうかもしれない。
そこで新たに五つの告白状を書き、盗まれた三カ所に再び預かってもらったうえに、新たに二カ所の隠し場所を作った。
だがこれは何の意味もない事だった。
池原雲伯が行くところには、必ず用心棒がついていくのだ。
その用心棒の大半が盗賊団が派遣した腕っぷし自慢の連中だ。
特に浪士を名乗る剣客は、盗賊団一の剣技を誇っていた。
他の連中も、剣術はともかく実戦の修羅場は数多くくぐっている。
問題があるとすれば、掟を守って人殺しの経験がなかった事だ。
「梶の旦那、わたくしはどうすべきだと思いますか」
池原雲伯がすっかり信頼するようになった用心棒に相談を持ち掛けた。
立石新次郎との交渉依頼、梶の旦那こと梶清三郎景時の事を信用しきっていた。
正体不明の盗賊に後をつけられ、全てを知られてしまった時に、立石新次郎の容赦のない凄腕を思い知らされていた。
そんな立石新次郎相手に一歩も引かず、交渉の席に用心棒が同席できるようにしてくれのが梶の旦那だったのだ。
「今まで通り、賭場を開く準備をすればいいのではないか。
俺達の用心棒代も稼がねばならないんだろう。
それに、口の堅い客を集める事もできるのだ。
向こうが目こぼしできないと言っても、開帳すれば必ず守ろうとするだろう。
どういう関係かは知らないが、一橋家には池原殿を捕まえさせられない弱みがあるのだろう」
「はい、その通りでございます、梶の旦那。
そこで折り入ってお願いがあるのです。
梶の旦那のご家族にも、私の書付を保管していただけないでしょうか。
私が殺されるような事があれば、梶の旦那も一緒に殺されていることになります。
ああ、いえ、梶の旦那がむざむざと殺されると思っているわけではありません。
ですが相手は天下の一橋です。
それほどの人数を集めてくるか分かりません。
どうでしょうか、何かあった時にご家族が路頭に迷わないように、後々褒美の大金が入るように、預かっていただけませんかね」
「そこまで信頼されては断れんな、預からせていただこう」
主君と心決めた徳川家基を失ってから、ずっと動き続けてきた。
仇を求めて御府内を探し回っていた。
だから焦りも苛立ちも最小限で済んでいた。
だが今は梅一たちに全てを託して待つだけの日々だった。
忍び込みの術に磨きをかけるべく、飛火防組合の鍛錬を家臣と繰り返しているが、それで発散しきれるものではなかった。
だが、待つ日々は報われることになった。
梅一たち盗賊団は信じられないくらい優秀で、池原雲伯の行動や考え方を見る事で、告発状を預けた相手や隠し場所を探り当てたのだ。
池原雲伯が書いて隠した告白状は五つでも十でもなく八つだった。
その内に三カ所を見事に探り出し、告白状を盗み出していた。
預けた相手から盗まれたと知らせを受けた池原雲伯は多いに焦った。
他の五カ所も既に発見され盗み出されているかもしれなかった。
だがだからといって、他の五カ所を確認に行けば、正体不明の敵や一橋家に隠し場所を知られてしまうかもしれない。
そこで新たに五つの告白状を書き、盗まれた三カ所に再び預かってもらったうえに、新たに二カ所の隠し場所を作った。
だがこれは何の意味もない事だった。
池原雲伯が行くところには、必ず用心棒がついていくのだ。
その用心棒の大半が盗賊団が派遣した腕っぷし自慢の連中だ。
特に浪士を名乗る剣客は、盗賊団一の剣技を誇っていた。
他の連中も、剣術はともかく実戦の修羅場は数多くくぐっている。
問題があるとすれば、掟を守って人殺しの経験がなかった事だ。
「梶の旦那、わたくしはどうすべきだと思いますか」
池原雲伯がすっかり信頼するようになった用心棒に相談を持ち掛けた。
立石新次郎との交渉依頼、梶の旦那こと梶清三郎景時の事を信用しきっていた。
正体不明の盗賊に後をつけられ、全てを知られてしまった時に、立石新次郎の容赦のない凄腕を思い知らされていた。
そんな立石新次郎相手に一歩も引かず、交渉の席に用心棒が同席できるようにしてくれのが梶の旦那だったのだ。
「今まで通り、賭場を開く準備をすればいいのではないか。
俺達の用心棒代も稼がねばならないんだろう。
それに、口の堅い客を集める事もできるのだ。
向こうが目こぼしできないと言っても、開帳すれば必ず守ろうとするだろう。
どういう関係かは知らないが、一橋家には池原殿を捕まえさせられない弱みがあるのだろう」
「はい、その通りでございます、梶の旦那。
そこで折り入ってお願いがあるのです。
梶の旦那のご家族にも、私の書付を保管していただけないでしょうか。
私が殺されるような事があれば、梶の旦那も一緒に殺されていることになります。
ああ、いえ、梶の旦那がむざむざと殺されると思っているわけではありません。
ですが相手は天下の一橋です。
それほどの人数を集めてくるか分かりません。
どうでしょうか、何かあった時にご家族が路頭に迷わないように、後々褒美の大金が入るように、預かっていただけませんかね」
「そこまで信頼されては断れんな、預からせていただこう」
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