仇討浪人と座頭梅一

克全

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第三章

第五十話:池原雲伯

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「何を教えろと言うのだ」

「旦那の本名と屋敷を教えていただきたいんです。
 さすがにこれほどの大事を成す以上、素性を知らせていただけませんとね」

 長十郎も梅一のいう事はもっともだと思った。
 梅一が今までやってきた事を考えても、ある程度は信用できると思っていた。
 だが、それでも、自分だけならともかく、妻子や家臣を危険にはさらせなかった。
 だからぎりぎりの返事をした。

「分かった、素性は明かそう。
 だがそれは梅一が決定的な証拠か証人を見つけてからだ」

 梅一には長十郎の気持ちが分かっていた。
 梅一には血の繋がった家族はいないが、捨て子の自分を我が子のように可愛がってくれた養父や養祖父、それに古参幹部がいる。
 兄弟のように育った座頭達もいる。
 自分が同じ立場でも、彼らを危うくするような約束ができない事が理解できた。

「旦那の申される事はもっともです。
 分かりました、証拠か証人を手に入れてから素性をお聞かせいただきます」

 その日から梅一は池原雲伯を付け回した。
 事が事だけに、自分一人で後をつけるつもりだった。
 だが、養父や小頭の目は常に梅一に向けられていた。
 養祖父が次の頭目は梅一だと断言した事も大きかった。
 何より大きかったのは、梅一の錠前破りの技と実績だった。
 掟を重視していない若い盗賊にとっては、安全に大金が得られるのなら、誰が頭目でもよかったのだ。

「忙しそうですね、手伝わせていただきますよ」

 池原雲伯を尾行していた梅一に古参幹部が声をかけてきた。
 梅一は来るべき時が来たと思った。
 随分前から自分をつけている者がいる事には気がついていた。
 養祖父に会ってから、その数が増えた事にも気がついていた。
 もう次の頭目になる事は避けられないのだと内心覚悟はしていた。

「俺の事をつけていたのは信頼できる者だけなんだろうな」

 言わずもがな事をつい口にしてしまったのは、梅一の怒りの所為だった。
 養祖父から全てを隠し通せるのなら自由にやっていいとは言われても、今まで通りにはいかないことが分かっていて、その為に怒りの感情を持ってしまった。
 若い頃から可愛がってくれた古参幹部に言う事ではないと、口にしてしまってから反省する梅一だった。

「すまん、つい腹を立ててしまった」

「気にしないでください、誰かに見張られるのが嫌な事なのは分かっています。
 それに、覚悟を決めていただいたのなら、もう誰も付け回しません」

「分かった、覚悟はきめた。
 だからこのまま手伝ってくれ。
 あの男、池原雲伯を徹底的に調べる。
 池原雲伯が接触した者も、徹底的に調べる。
 接触した者が接触した者も、徹底的に調べるんだ。
 今お務めの仕込みに入っていない者は、全員動員してくれ」

「分かりやした、お任せください」
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