仇討浪人と座頭梅一

克全

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第三章

第四十九話:手配書

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「なんです旦那、改まって」

「今までは頼めなかったのだが、今ならお前も手が空いているだろう。
 必要なら今までの分け前から費えをとってくれていい。
 この通り、頼む」

 長十郎は頭巾を取らなかったが、深々と頭を下げた。
 編笠を被った旅装が手配されているので、今の長十郎は別の姿になっている。
 浪人姿ではなく、御家人が着るくらいの反物で仕立てた着流し姿だった。
 誰が見ても浪人ではなく無役の御家人が遊び歩いているように見える。
 唯一問題なのは頭巾を被っている事だろうか。

「まずその頼みごとを聞かせてください。
 そうでないと返事ができませんよ」

 そう返事をした梅一も手配書にある頬かむりをした遊び人姿ではなかった。
 独特の服装で鉄芯入りの木刀を腰に差した中間姿だった。
 町奉行所や火付け盗賊改方は遊び人を追っているので、中間姿は盲点なのだ。
 特に梅一が気にしていたのが、りょうと虎太郎を助けた事だった。
 能力のある者なら、あの時の事件から梅吉の事を疑う可能性がある。
 梅一が疑われたら、りょうと虎太郎まで巻き込んでしまうかもしれないのだ。

「分かった、だったらはっきりと言う。
 御典医の池原雲伯の事を徹底的に調べて欲しい。
 誰と繋がっているのか、特に仲良くしている者は誰なのか、調べて欲しいのだ」

 梅一は長十郎の話を聞いて池原雲伯の事を思い出した。
 水谷屋敷に来ていた常連客の一人だった。
 博打にも参加していたが、不幸な御家人娘を弄るのが好きだった男だ。
 こんな品性下劣な奴が御典医とは世も末だと思ったことを思い出した。
 同時に、池原雲伯に徳川家基毒殺の噂があった事も思い出した。
 それでようやく長十郎の仇討話と水谷屋敷に通っていた件が繋がった。

「なるほど、そういう事ですか、これは面白くなってきましたね。
 将軍家のお世継ぎ暗殺にまつわる仇討ちですかい」

 梅一がそう口にしたとたん、長十郎から恐ろしいほどの殺気が漏れた。
 抑えようとしても抑えきれずに漏れた殺気だった。

「引き受けさせていただきます。
 だから今の言葉は勘弁してくださいよ。
 俺たちにとっては公方様の跡継ぎ問題なんて雲の上の話しなんです。
 旦那の想いを踏みにじる気は全くないんです」

 梅一が慌てて承諾して謝った。
 このままでは殺されると本気で思ったからだ。
 長十郎が心に湧きあがった殺意を何とか抑えた。
 それでも次の言葉を話すまでには少し時間がかかった。

「そこまで分かったのなら、もう言葉は飾らん。
 大納言様を暗殺した証拠を見つけ出せ。
 裏から池原雲伯を操り、大納言様を弑逆した者を探し出せ。
 探し出してくれるのなら、死ぬまでお前のために働いてやる。
 どこの誰であろうと、斬り殺してやる」

「そこまでしていただかなくて結構ですよ。
 ただ一つだけ、どうしても教えていただきたい事があります」
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