仇討浪人と座頭梅一

克全

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第三章

第四十七話:殺戮

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 とある空き家で梅一と大道寺長十郎は話しをしていた。
 まだ明六つから半刻しか経っていない朝の七時くらいだ。

「旦那、今日は賭場荒らしをやっていただきますよ」

「なんだそれは、暗殺ではなかったのか」

「旦那が門限を破ってくださるのなら、忍び込みの実戦もかねて暗殺にするんですが、白昼堂々となるとそうもいきませんよ」

「そう言う事なら仕方がないない。
 隠居しようと門限を破るわけにはいかん。
 そうなると、昼に押し込んで斬るしかないか」

「まあ、殺しの方はそれでいいとして、問題は盗賊としての鍛錬ですね。
 そうだ、飛火防組合として鍛錬されてはどうですか」

「なるほど、飛火防組合ならば堂々と梯子を使って屋根に上ることができるな」

 明暦の大火などで度々甚大な被害を出した徳川幕府は、何度も火消し制度を改革していたが、一番最近の改革は八代将軍徳川吉宗が行っていた。
 それまでは大名家が任じられた方角火消十二名と旗本が任じられた定火消だけだったのだが、大岡越前守の主導で隅田川から西を担当するいろは四十七組と、隅田川から東を担当する十六組の町火消が設立されていた。

 だがそれだけではなく、武家地を火事から守るために、従来通り大名が行う方角火消を、近隣の火事には消火に駆けつける義務を与えた各自火消、近所火消とした。
 同時に旗本や御家人が与えられている武家地には、六十五組の飛火防組合を設立させて、組合内の火事には駆けつける義務を与えていた。
 その飛火防組合の鍛錬として盗みの反復鍛錬をしろと、梅一は長十郎に提案したのだった。

「そっちの方の心配がなくなったのなら、早速押し込みましょうか。
 博打の寺銭は博徒の分も寺の分も昨日のうちに盗んであります。
 旦那の申されていた通り、盗んだ金は検校殿に預けてあります。
 金高は一人当たり六七二両です」

「律義に金高まで報告してくれなくていいよ。
 後で検校殿の貸付証文を渡してくれればいい。
 屋敷に増設する内蔵も徐々に完成してきた。
 貸付証文もお前が教えてくれた通り、床下に穴を掘って頑丈な壺に入れて埋めた。
 これで盗人に入られても火事に襲われても大丈夫だ」

「まあ、そこまでやる必要はないと思いますがね。
 旦那のような凄腕が当主を務める屋敷に仕える家臣なら、結構な腕の方々がそろっておられるでしょうから、当番を決めて一日中警備されたら、並の盗人は屋敷に忍び込む事などできませんよ。
 さあ、これからは殺しの時間ですよ」

 梅一の言葉通り、長十郎は阿修羅のごとく博徒と生臭坊主を斬った。
 寺に開かれていた賭場には博徒の死体が累々と転がっている。
 博徒だけではなく、生臭坊主までが賭場にいた。
 だが今回は皆殺しにすることができずに生き残りがいた。
 生臭坊主が私娼を寺に引っ張り込んでいたのだ。
 梅一と長十郎は生活苦から身を売る女を斬る事ができなかった。
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