仇討浪人と座頭梅一

克全

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第二章

第四十六話:職十老

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 梅一の養祖父は内心安堵の息を吐いていた。
 彼が当道座惣録屋敷で手に入れた権力は絶大な物で、盗賊団の為にも自分の一族の為にも、今更手放す事など絶対にできないものだった。
 盗賊団で盗んだ金を安全に隠すにしても、自分が血の繋がった家族の為に堂々と盗んだ金を使うにも、検校という権力を失うわけにはいかなかった。

 血の繋がった子供や孫とはいえ、盗賊に成れる素質のない者がほとんどだ。
 まして完璧に盲人の真似ができる者など極稀にしかいない。
 幸いと言っていいのか、長男は盗賊の才も役者の才にも恵まれていた。
 だから現在も盗賊団を率いている。
 だがそれ以外の子供や孫には、盗賊や役者の才は受け継がれなかった。

 これも幸いと言っていいのか分からないが、配下の一人が住む長屋に捨てられていた子供を育ててみたら、両方の才能に恵まれていた。
 次期頭目候補として、息子と一緒に手塩にかけて育てたが、期待通りの、いや、期待以上に育ってくれた。
 梅一なら間違いなく配下の盗賊全てを欺くほどの大盗賊に成ってくれると、養祖父は心から信じていた。
 
 養祖父はできるだけ養生して長生きするつもりではいたが、それでも永遠に生きる事など不可能だから、いつか必ず死ぬ、。
 絶大な権力を持つ惣録屋敷の職十老の役を息子に継がせたかった。
 官金の分配や盲人の裁判権まで持っているのが職十老だ。
 検校でも晴を終えた年から長い者から職十老に着くのだが、例外がある。

 絶代な力を持つからこそ、権力闘争や派閥争いがある。
 目の見えない盲人が音楽や鍼灸を学ぶのは並大抵のことではない。
 師匠や兄弟子が奏でる音楽を耳で聞き、それを覚えて何百回と真似て覚えるのだ。
 時にはそれこそ手取り足取り押さえる場所を教え導くのだ。
 覚えられなければ盲人として生きて行けないのだ。
 そんな助け合いをしているからこそ、実の親兄弟以上のつながりができる。

 そんな一門一家、家元制度ともいえるつながりからは二人の職十老は出せない。
 自分の一門に他より多くの官金や寄付を配当されてはかなわないからだ。
 だから梅一の養父が、晴れの検校になってからの年数では八老になってもおかしくないのに、未だに自由に盗賊団を率いることができているのだ。
 もし今養祖父が亡くなることになれば、一門の代表として養父が惣録屋敷に住み、職十老としての職務をまっとうすることになる。

「さて、問題は梅一の後を継ぐ者がまだ育ていない事だ。
 あいつを盗賊としても盲人としても一人前にしなければならぬ」

 養祖父は思わず独り言をつぶやいていた。
 確かに盗賊として検校の地位を確保しなければいけない点は大きい。
 だが同時に、義賊として弱い盲人達を助けなければいけないとも思っていた。
 盲人としての感に優れ、演奏家や鍼灸按摩で才覚のある者はそれで生きて行ける。
 だが才覚に恵まれない者もいるのだ。
 そんな盲人に満足な生活を与えるためには、座頭貸しとして利益を上げて、官金や寄付に頼ることなく、彼らの生活を支えなければいけないのだ。
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