46 / 88
第二章
第四十六話:職十老
しおりを挟む
梅一の養祖父は内心安堵の息を吐いていた。
彼が当道座惣録屋敷で手に入れた権力は絶大な物で、盗賊団の為にも自分の一族の為にも、今更手放す事など絶対にできないものだった。
盗賊団で盗んだ金を安全に隠すにしても、自分が血の繋がった家族の為に堂々と盗んだ金を使うにも、検校という権力を失うわけにはいかなかった。
血の繋がった子供や孫とはいえ、盗賊に成れる素質のない者がほとんどだ。
まして完璧に盲人の真似ができる者など極稀にしかいない。
幸いと言っていいのか、長男は盗賊の才も役者の才にも恵まれていた。
だから現在も盗賊団を率いている。
だがそれ以外の子供や孫には、盗賊や役者の才は受け継がれなかった。
これも幸いと言っていいのか分からないが、配下の一人が住む長屋に捨てられていた子供を育ててみたら、両方の才能に恵まれていた。
次期頭目候補として、息子と一緒に手塩にかけて育てたが、期待通りの、いや、期待以上に育ってくれた。
梅一なら間違いなく配下の盗賊全てを欺くほどの大盗賊に成ってくれると、養祖父は心から信じていた。
養祖父はできるだけ養生して長生きするつもりではいたが、それでも永遠に生きる事など不可能だから、いつか必ず死ぬ、。
絶大な権力を持つ惣録屋敷の職十老の役を息子に継がせたかった。
官金の分配や盲人の裁判権まで持っているのが職十老だ。
検校でも晴を終えた年から長い者から職十老に着くのだが、例外がある。
絶代な力を持つからこそ、権力闘争や派閥争いがある。
目の見えない盲人が音楽や鍼灸を学ぶのは並大抵のことではない。
師匠や兄弟子が奏でる音楽を耳で聞き、それを覚えて何百回と真似て覚えるのだ。
時にはそれこそ手取り足取り押さえる場所を教え導くのだ。
覚えられなければ盲人として生きて行けないのだ。
そんな助け合いをしているからこそ、実の親兄弟以上のつながりができる。
そんな一門一家、家元制度ともいえるつながりからは二人の職十老は出せない。
自分の一門に他より多くの官金や寄付を配当されてはかなわないからだ。
だから梅一の養父が、晴れの検校になってからの年数では八老になってもおかしくないのに、未だに自由に盗賊団を率いることができているのだ。
もし今養祖父が亡くなることになれば、一門の代表として養父が惣録屋敷に住み、職十老としての職務をまっとうすることになる。
「さて、問題は梅一の後を継ぐ者がまだ育ていない事だ。
あいつを盗賊としても盲人としても一人前にしなければならぬ」
養祖父は思わず独り言をつぶやいていた。
確かに盗賊として検校の地位を確保しなければいけない点は大きい。
だが同時に、義賊として弱い盲人達を助けなければいけないとも思っていた。
盲人としての感に優れ、演奏家や鍼灸按摩で才覚のある者はそれで生きて行ける。
だが才覚に恵まれない者もいるのだ。
そんな盲人に満足な生活を与えるためには、座頭貸しとして利益を上げて、官金や寄付に頼ることなく、彼らの生活を支えなければいけないのだ。
彼が当道座惣録屋敷で手に入れた権力は絶大な物で、盗賊団の為にも自分の一族の為にも、今更手放す事など絶対にできないものだった。
盗賊団で盗んだ金を安全に隠すにしても、自分が血の繋がった家族の為に堂々と盗んだ金を使うにも、検校という権力を失うわけにはいかなかった。
血の繋がった子供や孫とはいえ、盗賊に成れる素質のない者がほとんどだ。
まして完璧に盲人の真似ができる者など極稀にしかいない。
幸いと言っていいのか、長男は盗賊の才も役者の才にも恵まれていた。
だから現在も盗賊団を率いている。
だがそれ以外の子供や孫には、盗賊や役者の才は受け継がれなかった。
これも幸いと言っていいのか分からないが、配下の一人が住む長屋に捨てられていた子供を育ててみたら、両方の才能に恵まれていた。
次期頭目候補として、息子と一緒に手塩にかけて育てたが、期待通りの、いや、期待以上に育ってくれた。
梅一なら間違いなく配下の盗賊全てを欺くほどの大盗賊に成ってくれると、養祖父は心から信じていた。
養祖父はできるだけ養生して長生きするつもりではいたが、それでも永遠に生きる事など不可能だから、いつか必ず死ぬ、。
絶大な権力を持つ惣録屋敷の職十老の役を息子に継がせたかった。
官金の分配や盲人の裁判権まで持っているのが職十老だ。
検校でも晴を終えた年から長い者から職十老に着くのだが、例外がある。
絶代な力を持つからこそ、権力闘争や派閥争いがある。
目の見えない盲人が音楽や鍼灸を学ぶのは並大抵のことではない。
師匠や兄弟子が奏でる音楽を耳で聞き、それを覚えて何百回と真似て覚えるのだ。
時にはそれこそ手取り足取り押さえる場所を教え導くのだ。
覚えられなければ盲人として生きて行けないのだ。
そんな助け合いをしているからこそ、実の親兄弟以上のつながりができる。
そんな一門一家、家元制度ともいえるつながりからは二人の職十老は出せない。
自分の一門に他より多くの官金や寄付を配当されてはかなわないからだ。
だから梅一の養父が、晴れの検校になってからの年数では八老になってもおかしくないのに、未だに自由に盗賊団を率いることができているのだ。
もし今養祖父が亡くなることになれば、一門の代表として養父が惣録屋敷に住み、職十老としての職務をまっとうすることになる。
「さて、問題は梅一の後を継ぐ者がまだ育ていない事だ。
あいつを盗賊としても盲人としても一人前にしなければならぬ」
養祖父は思わず独り言をつぶやいていた。
確かに盗賊として検校の地位を確保しなければいけない点は大きい。
だが同時に、義賊として弱い盲人達を助けなければいけないとも思っていた。
盲人としての感に優れ、演奏家や鍼灸按摩で才覚のある者はそれで生きて行ける。
だが才覚に恵まれない者もいるのだ。
そんな盲人に満足な生活を与えるためには、座頭貸しとして利益を上げて、官金や寄付に頼ることなく、彼らの生活を支えなければいけないのだ。
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

猿の内政官の孫 ~雷次郎伝説~
橋本洋一
歴史・時代
※猿の内政官シリーズの続きです。
天下泰平となった日の本。その雨竜家の跡継ぎ、雨竜秀成は江戸の町を遊び歩いていた。人呼んで『日の本一の遊び人』雷次郎。しかし彼はある日、とある少女と出会う。それによって『百万石の陰謀』に巻き込まれることとなる――
蘭癖高家
八島唯
歴史・時代
一八世紀末、日本では浅間山が大噴火をおこし天明の大飢饉が発生する。当時の権力者田沼意次は一〇代将軍家治の急死とともに失脚し、その後松平定信が老中首座に就任する。
遠く離れたフランスでは革命の意気が揚がる。ロシアは積極的に蝦夷地への進出を進めており、遠くない未来ヨーロッパの船が日本にやってくることが予想された。
時ここに至り、老中松平定信は消極的であるとはいえ、外国への備えを画策する。
大権現家康公の秘中の秘、後に『蘭癖高家』と呼ばれる旗本を登用することを――
※挿絵はAI作成です。
徳川家基、不本意!
克全
歴史・時代
幻の11代将軍、徳川家基が生き残っていたらどのような世の中になっていたのか?田沼意次に取立てられて、徳川家基の住む西之丸御納戸役となっていた長谷川平蔵が、田沼意次ではなく徳川家基に取り入って出世しようとしていたらどうなっていたのか?徳川家治が、次々と死んでいく自分の子供の死因に疑念を持っていたらどうなっていたのか、そのような事を考えて創作してみました。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる