42 / 88
第二章
第四十二話:嘘も方便
しおりを挟む
大道寺権太郎が驚き警戒するのも当然だった。
亡き主君、徳川家基の仇を討つためなら田沼意次を斬り殺すと言われたばかりだ。
五百両もの大金を手に入れるのに、どれほどの悪事を働いたのだろうと驚き心配するのが当然なのだ。
「父上の御心配はもっともでございます。
確かに多少の悪事はいたしましたが、誰もがやっている事でございます。
公になっても多少の叱責を受けるだけで済みます」
長十郎は嘘を口にした。
父親を騙すのは心が痛いが、だからといって暗殺を引き受けるようになったことや、暗殺のついでに盗みを働いた事を口にするわけにはいかない。
だから軽い罪で済む内容にして話すことにしたのだ。
「仇の証拠や証人の情報を得るために、賭場通いをしておりました。
先日処分を受けた水谷屋敷にも出入りしておりました。
そこで大勝ちすることができたのです」
「剣術一筋だったお前が、そう簡単に勝てるほど博打は簡単なのか。
そうではあるまい、正直に申せ」
「全て正直に申しております、父上。
確かに某は剣術一筋の無骨物ではありますが、それが役になったのです。
剣術を極めていれば、博打場の気配を感じることができます。
勝負の流れを見極めて、勝つ方に賭けることができるのです」
「そのような事、とても信じられんな。
百歩譲って剣術の極意が賭場という勝負の場で役に立ちつとしても、そのような勝負勘を簡単に身に付けられるとは思えん」
「確かに父上の申される通りでございます。
剣術の極意を賭場で生かすには、色々な注意点を知らなければ無理でございます。
ですが、某にはそれを伝授してくれる者がいたのです」
「それは誰だ、そのような痴れ者を堅物の長十郎が知っているとは思えんぞ」
「父上も御存じの長谷川平蔵殿でございます。
本所の鐵とまで呼ばれた平蔵殿とは、共に大納言様のお側近くに仕えた朋輩でございますので、忠義を尽くすべき大納言様を亡くした哀しみを忘れるために、賭場で憂さ晴らしをしたいと言って、色々教授してもらったのです」
「はぁああああ、長谷川平蔵殿か。
確かに長谷川殿ならそれくらいの事は平気でやりそうだな。
長十郎も長谷川殿の剣術には一目置いていたのだったな」
「はい、あの時、某か長谷川殿が大納言様の側にいれば、むざむざと毒を盛らしたりはしなかったのに、無念でございます」
確かに徳川家基の死はあまりに突然すぎた。
前日まで、いや、その日の朝までとても元気だったのだ。
オランダから献上されたペルシャ馬で遠乗りするくらい元気だったのに、急に腹痛を訴えて激しい上げ下しの後で亡くなられてしまった。
身近に仕えていた者が毒殺を疑うには十分な、あまりにも突然の死だったのだ。
「そうか、長谷川殿から賭場の奥義を伝えられたのなら勝てるのも不思議ではない。
だがこれ以上は止めておけ。
儂は賭場に足を踏み入れた事はないが、小姓組の朋輩たちから聞いた話では、止め時が難しいと聞いている」
「確かに承りました。
情報を集めるために必要な場合だけ賭場に出入りする事にいたします」
亡き主君、徳川家基の仇を討つためなら田沼意次を斬り殺すと言われたばかりだ。
五百両もの大金を手に入れるのに、どれほどの悪事を働いたのだろうと驚き心配するのが当然なのだ。
「父上の御心配はもっともでございます。
確かに多少の悪事はいたしましたが、誰もがやっている事でございます。
公になっても多少の叱責を受けるだけで済みます」
長十郎は嘘を口にした。
父親を騙すのは心が痛いが、だからといって暗殺を引き受けるようになったことや、暗殺のついでに盗みを働いた事を口にするわけにはいかない。
だから軽い罪で済む内容にして話すことにしたのだ。
「仇の証拠や証人の情報を得るために、賭場通いをしておりました。
先日処分を受けた水谷屋敷にも出入りしておりました。
そこで大勝ちすることができたのです」
「剣術一筋だったお前が、そう簡単に勝てるほど博打は簡単なのか。
そうではあるまい、正直に申せ」
「全て正直に申しております、父上。
確かに某は剣術一筋の無骨物ではありますが、それが役になったのです。
剣術を極めていれば、博打場の気配を感じることができます。
勝負の流れを見極めて、勝つ方に賭けることができるのです」
「そのような事、とても信じられんな。
百歩譲って剣術の極意が賭場という勝負の場で役に立ちつとしても、そのような勝負勘を簡単に身に付けられるとは思えん」
「確かに父上の申される通りでございます。
剣術の極意を賭場で生かすには、色々な注意点を知らなければ無理でございます。
ですが、某にはそれを伝授してくれる者がいたのです」
「それは誰だ、そのような痴れ者を堅物の長十郎が知っているとは思えんぞ」
「父上も御存じの長谷川平蔵殿でございます。
本所の鐵とまで呼ばれた平蔵殿とは、共に大納言様のお側近くに仕えた朋輩でございますので、忠義を尽くすべき大納言様を亡くした哀しみを忘れるために、賭場で憂さ晴らしをしたいと言って、色々教授してもらったのです」
「はぁああああ、長谷川平蔵殿か。
確かに長谷川殿ならそれくらいの事は平気でやりそうだな。
長十郎も長谷川殿の剣術には一目置いていたのだったな」
「はい、あの時、某か長谷川殿が大納言様の側にいれば、むざむざと毒を盛らしたりはしなかったのに、無念でございます」
確かに徳川家基の死はあまりに突然すぎた。
前日まで、いや、その日の朝までとても元気だったのだ。
オランダから献上されたペルシャ馬で遠乗りするくらい元気だったのに、急に腹痛を訴えて激しい上げ下しの後で亡くなられてしまった。
身近に仕えていた者が毒殺を疑うには十分な、あまりにも突然の死だったのだ。
「そうか、長谷川殿から賭場の奥義を伝えられたのなら勝てるのも不思議ではない。
だがこれ以上は止めておけ。
儂は賭場に足を踏み入れた事はないが、小姓組の朋輩たちから聞いた話では、止め時が難しいと聞いている」
「確かに承りました。
情報を集めるために必要な場合だけ賭場に出入りする事にいたします」
0
お気に入りに追加
11
あなたにおすすめの小説
四代目 豊臣秀勝
克全
歴史・時代
アルファポリス第5回歴史時代小説大賞参加作です。
読者賞を狙っていますので、アルファポリスで投票とお気に入り登録してくださると助かります。
史実で三木城合戦前後で夭折した木下与一郎が生き延びた。
秀吉の最年長の甥であり、秀長の嫡男・与一郎が生き延びた豊臣家が辿る歴史はどう言うモノになるのか。
小牧長久手で秀吉は勝てるのか?
朝日姫は徳川家康の嫁ぐのか?
朝鮮征伐は行われるのか?
秀頼は生まれるのか。
秀次が後継者に指名され切腹させられるのか?
裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する
克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。
徳川家基、不本意!
克全
歴史・時代
幻の11代将軍、徳川家基が生き残っていたらどのような世の中になっていたのか?田沼意次に取立てられて、徳川家基の住む西之丸御納戸役となっていた長谷川平蔵が、田沼意次ではなく徳川家基に取り入って出世しようとしていたらどうなっていたのか?徳川家治が、次々と死んでいく自分の子供の死因に疑念を持っていたらどうなっていたのか、そのような事を考えて創作してみました。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

【新訳】帝国の海~大日本帝国海軍よ、世界に平和をもたらせ!第一部
山本 双六
歴史・時代
たくさんの人が亡くなった太平洋戦争。では、もし日本が勝てば原爆が落とされず、何万人の人が助かったかもしれないそう思い執筆しました。(一部史実と異なることがあるためご了承ください)初投稿ということで俊也さんの『re:太平洋戦争・大東亜の旭日となれ』を参考にさせて頂きました。
これからどうかよろしくお願い致します!
ちなみに、作品の表紙は、AIで生成しております。

猿の内政官の孫 ~雷次郎伝説~
橋本洋一
歴史・時代
※猿の内政官シリーズの続きです。
天下泰平となった日の本。その雨竜家の跡継ぎ、雨竜秀成は江戸の町を遊び歩いていた。人呼んで『日の本一の遊び人』雷次郎。しかし彼はある日、とある少女と出会う。それによって『百万石の陰謀』に巻き込まれることとなる――
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる