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第二章
第三十七話:惨殺
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今回の殺しはとても暗殺とは言えない、惨殺だった。
梅一からごろつき浪人たちが寝泊まりしている長屋を聞いた熊の旦那は、物音を立てる事無く気配も完全に消して、気がつかれることなく長屋に侵入した。
前夜の深酒が残っているごろつき浪人は、真横に立たれても起きない。
熊の旦那が音もたてずに刀を抜き、一番眠りの浅そうな奴から突き殺す。
熊の旦那の剣技なら、ごろつき浪人全員がしらふで起きていても皆殺しにできる。
だが万が一にも手傷を負って戦闘力が落ちることは許されない。
それに殺戮の途中で大きな断末魔を叫ばれても困る。
両隣の武家屋敷から助けが来ないとも限らないからだ。
だから熊の旦那は起きそうな奴から殺していった。
「上手くやってくださいましたね。
では表から堂々と出ましょうか」
梅一の言葉通り、二人は吉田頓安屋敷の表門から堂々と出て行った。
梅一の手には担ぎ呉服だと分かる旗指物が握られている。
だが連尺で背負っているのは反物ではなく盗んだ金だ。
かなりの重さに肩ひもが喰い込んでいるが、梅一は意にも返さない。
それどころか歩く足取りにも全く影響を与えていない。
「どこまでついてくる気なのだ」
いつまで経っても別れようとしない梅一に熊の旦那が文句を言う。
約束した殺しは済ませたのだから、これ以上一緒にいる必要などなかった。
それどころか、これ以上つきまとわれたら屋敷の場所を知られてしまう。
梅一から盗みの技は教えてもらいたいが、だからといって幕臣としての素性を知られる気は全くなかったのだ。
「熊の旦那に分け前を渡さなければいけませんからね」
「いらん、不浄な金など受け取る気はない」
「そうはいきませんよ、熊の旦那。
一緒にやった事の始末は一緒に付けるんですよ。
旦那が幕臣なのは分かっていますから、だったら使い道があるでしょう。
勝手向きが苦しいご親戚はいくらでもあるんじゃないですか。
部屋住みで行き場のないご親戚もいるんじゃないですか」
「ふん、余計なお世話だ。
だが一緒に人殺しをしたのなら、最後まで責任を取れと言うのは理解した。
だが屋敷までついてくる事は許さん。
どこか途中で分けてもらおう」
「分かりやした、だったら旦那の屋敷までの途中にある寺社に入って分けましょう」
殺しの現場から急ぎ足で江戸城の方に歩き、吾妻橋を渡るのが熊の旦那の屋敷に行くには一番近いのだが、それだと正宝寺の近くを通る事になる。
次の仕事の事も考えれば、他の道を行く方がいい。
だから一旦海の方、深川の方まで歩いて新大橋を渡ってしまっていた。
もうここからでは熊の旦那の屋敷まで寺社がないのだ。
だがここで、これから屋敷までの間に寺社がないと言えば、梅一に屋敷の位置を予測されてしまうと考えた熊の旦那は、帰り道を大回りして嘘をつくことにした。
「ふむ、ここからだとなかなか寺社がないな。
京橋南築地鉄砲洲の西本願寺まで行くことになるが、それでもいいか」
「結構ですよ、熊の旦那」
梅一からごろつき浪人たちが寝泊まりしている長屋を聞いた熊の旦那は、物音を立てる事無く気配も完全に消して、気がつかれることなく長屋に侵入した。
前夜の深酒が残っているごろつき浪人は、真横に立たれても起きない。
熊の旦那が音もたてずに刀を抜き、一番眠りの浅そうな奴から突き殺す。
熊の旦那の剣技なら、ごろつき浪人全員がしらふで起きていても皆殺しにできる。
だが万が一にも手傷を負って戦闘力が落ちることは許されない。
それに殺戮の途中で大きな断末魔を叫ばれても困る。
両隣の武家屋敷から助けが来ないとも限らないからだ。
だから熊の旦那は起きそうな奴から殺していった。
「上手くやってくださいましたね。
では表から堂々と出ましょうか」
梅一の言葉通り、二人は吉田頓安屋敷の表門から堂々と出て行った。
梅一の手には担ぎ呉服だと分かる旗指物が握られている。
だが連尺で背負っているのは反物ではなく盗んだ金だ。
かなりの重さに肩ひもが喰い込んでいるが、梅一は意にも返さない。
それどころか歩く足取りにも全く影響を与えていない。
「どこまでついてくる気なのだ」
いつまで経っても別れようとしない梅一に熊の旦那が文句を言う。
約束した殺しは済ませたのだから、これ以上一緒にいる必要などなかった。
それどころか、これ以上つきまとわれたら屋敷の場所を知られてしまう。
梅一から盗みの技は教えてもらいたいが、だからといって幕臣としての素性を知られる気は全くなかったのだ。
「熊の旦那に分け前を渡さなければいけませんからね」
「いらん、不浄な金など受け取る気はない」
「そうはいきませんよ、熊の旦那。
一緒にやった事の始末は一緒に付けるんですよ。
旦那が幕臣なのは分かっていますから、だったら使い道があるでしょう。
勝手向きが苦しいご親戚はいくらでもあるんじゃないですか。
部屋住みで行き場のないご親戚もいるんじゃないですか」
「ふん、余計なお世話だ。
だが一緒に人殺しをしたのなら、最後まで責任を取れと言うのは理解した。
だが屋敷までついてくる事は許さん。
どこか途中で分けてもらおう」
「分かりやした、だったら旦那の屋敷までの途中にある寺社に入って分けましょう」
殺しの現場から急ぎ足で江戸城の方に歩き、吾妻橋を渡るのが熊の旦那の屋敷に行くには一番近いのだが、それだと正宝寺の近くを通る事になる。
次の仕事の事も考えれば、他の道を行く方がいい。
だから一旦海の方、深川の方まで歩いて新大橋を渡ってしまっていた。
もうここからでは熊の旦那の屋敷まで寺社がないのだ。
だがここで、これから屋敷までの間に寺社がないと言えば、梅一に屋敷の位置を予測されてしまうと考えた熊の旦那は、帰り道を大回りして嘘をつくことにした。
「ふむ、ここからだとなかなか寺社がないな。
京橋南築地鉄砲洲の西本願寺まで行くことになるが、それでもいいか」
「結構ですよ、熊の旦那」
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