仇討浪人と座頭梅一

克全

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第二章

第三十三話:ごろつき浪人

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 梅一と熊の旦那は遠くから煮売り居酒屋を見張っていた。
 今度殺す相手がそこに入っていったからだ。
 相手はごろつき浪人で、町人たちからは忌み嫌われいていた。
 本当なら町奉行の同心や岡っ引きが取り締まるのだが、ごろつき浪人にしては腕がたつので、同心や岡っ引きも自ら捕らえようとはしない。

 それでも町人が訴え出たら捕らえるのだろうが、牢から出てきた時の復讐が怖くて訴える者がいないのだ。
 ごろつき浪人たちはそれをいい事に、やりたい放題していた。
 今回の殺しの依頼は、ごろつき浪人に乙女を散らされ自害した娘の復讐をしたくて、天秤棒を担いで野菜を振り売りしている父親からだった。

「きゃああああ、やめて、止めてください」

 煮売り居酒屋から悲鳴があがった。
 どうやらごろつき浪人たちが店の小女に悪戯を仕掛けたようだ。
 多少の悪戯程度なら見逃す事もできるが、多少で済むとは限らない。
 性根の腐った極悪非道なごろつき浪人たちだと、白昼堂々店の中で小女を輪姦するくらいは平気でやってしまう。

「止めておけ、ここは某に任せておけ」

 今日の熊の旦那もいつも通りの旅装だった。
 梅一はまだ知らないが、熊の旦那の旅装は戦装束だった。
 編笠で顔を隠しているのだが、その笠には鉄片が仕込まれていて、戦国時代に足軽の頭部を護った陣笠と同じ役割をするのだった。
 しかも編笠の下に鎖帷子の頭巾までかぶっているのだ。

 当然だが旅装の下は全身鎖帷子で固められていて、手甲や足甲はもちろん胸胴部には鉄片まで仕込まれていて、少々の刀槍攻撃なら弾いてくれるのだ。
 多勢に無勢の状態になっても、手甲や胸胴甲で敵の攻撃を受け流しながら、敵を一人ずつ斃していくことを考えているのだ。
 そんな熊の旦那が、小女を助けようと店の方に一歩踏み出した梅一を抑えて、ゆったりとした足取りで煮売り居酒屋に入っていった。

「ごめんよ、何か食べさせてくれ」

 全く動じる事無く悠々と熊の旦那が店に入っていった。

「邪魔だ、出て行け」

 ごろつき浪人の一人が熊の旦那に怒声を浴びせた。
 店の店主であろう初老の男が、血を流して土間に倒れている。
 まだおさげ髪が似合いそうな小女が、ごろつき浪人に土間に抑え込まれ、今にも犯されそうだった。

「ぎゃっ」

 みっともなく裾をあげて褌を外し、今まさに小女にのしかかろうとしていたごろつき浪人が、熊の旦那に腰を蹴られ、悲鳴をあげて飛んでいった。
 恐ろしいくらい鍛錬を重ねた熊の旦那が、腰骨を砕くつもりで蹴りを入れたのだから、不意を突かれたごろつき浪人はひとたまりもなかった。

「ふむ、文句があるのなら相手をしてやる。
 表にでて刀を抜け」

 熊の旦那の一言にごろつき浪人たちは凍り付いた。
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