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第二章
第二十九話:生臭坊主の悪足搔き
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梅一こと桜小僧の借用証文配りは十日ほどかかった。
梅一が考えていた以上に、生臭坊主に被害を受けていた者が多かったからだ。
だが梅一が借用証文を配っている事を、町奉行所と火付け盗賊改めはもちろん、目付も気がつかないでいた。
だがそれも当然だろう。
梅一はもちろん、借用証文と金をもらった御家人が話すわけがないのだ。
それに、盗まれた正宝寺も違法に賭場を開帳していた以上、寺社奉行所に訴え出る事などできない。
最初正宝寺の生臭坊主は、今まで騙してきた御家人や、これから騙そうとしていた御家人を疑い、手先の博徒に犯人を見つけて金を取り返すように命じた。
だが一家を構えるくらいの博徒の親分なら、少しは頭も使える。
鮮やかな盗みの技を考えれば、素人の仕業でない事くらい直ぐに分かる。
本格の、それも相当大きな盗賊団の仕業だと推測できる。
博徒の親分からそう言われた生臭坊主は、地団駄を踏んで悔しがった。
相手が盗賊だと、精々裏世界の人間に報復を頼むしかないのだが、相手が名の通った大盗賊では、依頼を受けてくれる殺し屋もいない。
普通なら諦めるところなのだが、生臭ゆえに諦めが悪かった。
そこで昔馴染みの権力者に相談することにしたのだった。
「新次郎殿、この度は時間を取っていただき感謝の言葉もありません」
生臭坊主は昔馴染みの悪友相手に下手に出ていた。
何としても奪われた三万七千両をとりかえしたかった。
いや、せめて貸付証文だけでも取り返したかったのだ。
その為なら、昔一緒に悪事の限りを尽くした同格の相手であろうと、頭を下げることができるのだった。
「くっくくくく、健四郎とも思えない失敗だな。
あれだけ悪逆非道の限りを尽くしていたごろつき浪人が、今ではでっぷりと肥え太って、盗みに入られたのも気がつかないとはな」
昔馴染みの悪友にからかわれて、割り切ったつもりでいた生臭坊主も頭に来た。
だが同時に、悪友立石新次郎典辰の言葉に、昔通りにやろうぜと言う意味が含まれている事にも気がついた。
「へん、誰だって変わっていくんだよ。
あの頃一緒に暴れ回っていた連中の多くは、斬った張ったの中で死んでいった。
小金をつかんだ連中の中には、同心株を買って生き延びた奴もいるが、少数だ。
大金や権力を手に入れた奴など、ほんの一握りなんだよ。
せっかく大金をつかんだんだ、いい思いをして何が悪いんだ」
「だが、せっかく手に入れた大金を奪われるほど堕落しては意味があるまい」
「くっ、分かっている。
これからは昔のように剣の修業を始めるよ。
だがそれもこれも金と証文を取り返してからだ。
手伝ってくれるんだろうな」
「分かっている、手伝ってやるよ。
ここで手伝わなかったら、俺の昔話を目付に訴えると脅すんだろ。
昔馴染みを殺して口封じするよりは、手伝ってやる方がましだ」
一橋家の番頭にまで出世した立石新次郎典辰は、生臭坊主こと有村健四郎俊定に、何かあれば殺すと言い放った。
それを聞いた生臭坊主は内心恐怖に震えあがった。
梅一が考えていた以上に、生臭坊主に被害を受けていた者が多かったからだ。
だが梅一が借用証文を配っている事を、町奉行所と火付け盗賊改めはもちろん、目付も気がつかないでいた。
だがそれも当然だろう。
梅一はもちろん、借用証文と金をもらった御家人が話すわけがないのだ。
それに、盗まれた正宝寺も違法に賭場を開帳していた以上、寺社奉行所に訴え出る事などできない。
最初正宝寺の生臭坊主は、今まで騙してきた御家人や、これから騙そうとしていた御家人を疑い、手先の博徒に犯人を見つけて金を取り返すように命じた。
だが一家を構えるくらいの博徒の親分なら、少しは頭も使える。
鮮やかな盗みの技を考えれば、素人の仕業でない事くらい直ぐに分かる。
本格の、それも相当大きな盗賊団の仕業だと推測できる。
博徒の親分からそう言われた生臭坊主は、地団駄を踏んで悔しがった。
相手が盗賊だと、精々裏世界の人間に報復を頼むしかないのだが、相手が名の通った大盗賊では、依頼を受けてくれる殺し屋もいない。
普通なら諦めるところなのだが、生臭ゆえに諦めが悪かった。
そこで昔馴染みの権力者に相談することにしたのだった。
「新次郎殿、この度は時間を取っていただき感謝の言葉もありません」
生臭坊主は昔馴染みの悪友相手に下手に出ていた。
何としても奪われた三万七千両をとりかえしたかった。
いや、せめて貸付証文だけでも取り返したかったのだ。
その為なら、昔一緒に悪事の限りを尽くした同格の相手であろうと、頭を下げることができるのだった。
「くっくくくく、健四郎とも思えない失敗だな。
あれだけ悪逆非道の限りを尽くしていたごろつき浪人が、今ではでっぷりと肥え太って、盗みに入られたのも気がつかないとはな」
昔馴染みの悪友にからかわれて、割り切ったつもりでいた生臭坊主も頭に来た。
だが同時に、悪友立石新次郎典辰の言葉に、昔通りにやろうぜと言う意味が含まれている事にも気がついた。
「へん、誰だって変わっていくんだよ。
あの頃一緒に暴れ回っていた連中の多くは、斬った張ったの中で死んでいった。
小金をつかんだ連中の中には、同心株を買って生き延びた奴もいるが、少数だ。
大金や権力を手に入れた奴など、ほんの一握りなんだよ。
せっかく大金をつかんだんだ、いい思いをして何が悪いんだ」
「だが、せっかく手に入れた大金を奪われるほど堕落しては意味があるまい」
「くっ、分かっている。
これからは昔のように剣の修業を始めるよ。
だがそれもこれも金と証文を取り返してからだ。
手伝ってくれるんだろうな」
「分かっている、手伝ってやるよ。
ここで手伝わなかったら、俺の昔話を目付に訴えると脅すんだろ。
昔馴染みを殺して口封じするよりは、手伝ってやる方がましだ」
一橋家の番頭にまで出世した立石新次郎典辰は、生臭坊主こと有村健四郎俊定に、何かあれば殺すと言い放った。
それを聞いた生臭坊主は内心恐怖に震えあがった。
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