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第二章
第二十八話:証文配り
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梅一は正宝寺に盗みに入った翌夜には金を配って回った。
身の軽い梅一には、木戸が閉じられている事など全く関係なかった。
辻番所、自身番所、木戸番所のある所を避けて移動する事など容易い。
時には屋根から屋根に飛び移り、誰にも知られることなく移動した。
今回はそれほど金を運ぶ必要がなかったのも大きい。
梅一が主に配って回ったのは借用証文だった。
正宝寺から盗み出した、座頭が御家人に貸したことになっている借用証文は、本来の金主である正宝寺の住職が内蔵に保管していた。
それを盗みだして、借主の御家人に返すのだ。
「そのような事をしても無駄なのではないのか。
屑な親は、また娘を担保に金を借りるのではないのか」
梅一の養父が言う事はもっともだった。
確かにいかさま博打にのめり込むような屑親は、借用証文を渡してやっても感謝も反省もせずに、再び賭場通いを始めるだろう。
だがそれも賭場があるからで、全ての賭場を潰せば通いようがない。
いたちごっこになろうとも、賭場を潰し続ければいい事だ。
「ああ、ありがとうございます、ありがとうございます桜小僧様。
これで吉原に売られずにすみます」
梅一は貸付証文を返す相手を選んでいた。
当主の屑親に貸付証文を返しても、また賭場で金を借りる可能性が高い。
女房や娘に返したら、当分は時間稼ぎができる。
しかもお金と一文を書いた手紙も添えておく。
「父親の博打狂いが治らないのなら、親戚に相談して座敷牢に閉じ込めた方がいい。
必要なら強制隠居させてご子息に跡を継がせればいい。
博打狂いの連座を恐れる親戚が手を貸してくれるだろう。
費用と生活費の足しに、二十五両添えておく」
手紙にはそう書かれていた。
博打に狂った屑親には、幕府の定めた門限を破る者が多い。
親戚も連座の罪に問われる可能性がある。
罪には問われなくても、出世の妨げになるのは確実だった。
そんな屑を放っておく危険を冒す武家は少ない。
当主が罪を犯すのと隠居した親が罪を犯すのでは意味が全く違ってくる。
当主となった息子が屑親父を勘当できればいいのだが、子供が親を勘当する事は不可能なのだ。
朱子学が全盛なので、隠居した後であっても親は子を勘当することができるのだ。
親を不行跡を相談できる相手は親戚だけなのだ。
梅一が貸付証文と金を配った御家人の家でも対応は色々だった。
梅一の思惑通り屑親を座敷牢に入れる家もあれば、そのまま屑親の好き勝手にさせてしまう家もあった。
忠孝の精神が強い家ほど、屑親がのさばってしまうのは不幸な事だった。
梅一の心にいっそ屑親も殺してやろうかという気持ちが芽生えた瞬間だった。
身の軽い梅一には、木戸が閉じられている事など全く関係なかった。
辻番所、自身番所、木戸番所のある所を避けて移動する事など容易い。
時には屋根から屋根に飛び移り、誰にも知られることなく移動した。
今回はそれほど金を運ぶ必要がなかったのも大きい。
梅一が主に配って回ったのは借用証文だった。
正宝寺から盗み出した、座頭が御家人に貸したことになっている借用証文は、本来の金主である正宝寺の住職が内蔵に保管していた。
それを盗みだして、借主の御家人に返すのだ。
「そのような事をしても無駄なのではないのか。
屑な親は、また娘を担保に金を借りるのではないのか」
梅一の養父が言う事はもっともだった。
確かにいかさま博打にのめり込むような屑親は、借用証文を渡してやっても感謝も反省もせずに、再び賭場通いを始めるだろう。
だがそれも賭場があるからで、全ての賭場を潰せば通いようがない。
いたちごっこになろうとも、賭場を潰し続ければいい事だ。
「ああ、ありがとうございます、ありがとうございます桜小僧様。
これで吉原に売られずにすみます」
梅一は貸付証文を返す相手を選んでいた。
当主の屑親に貸付証文を返しても、また賭場で金を借りる可能性が高い。
女房や娘に返したら、当分は時間稼ぎができる。
しかもお金と一文を書いた手紙も添えておく。
「父親の博打狂いが治らないのなら、親戚に相談して座敷牢に閉じ込めた方がいい。
必要なら強制隠居させてご子息に跡を継がせればいい。
博打狂いの連座を恐れる親戚が手を貸してくれるだろう。
費用と生活費の足しに、二十五両添えておく」
手紙にはそう書かれていた。
博打に狂った屑親には、幕府の定めた門限を破る者が多い。
親戚も連座の罪に問われる可能性がある。
罪には問われなくても、出世の妨げになるのは確実だった。
そんな屑を放っておく危険を冒す武家は少ない。
当主が罪を犯すのと隠居した親が罪を犯すのでは意味が全く違ってくる。
当主となった息子が屑親父を勘当できればいいのだが、子供が親を勘当する事は不可能なのだ。
朱子学が全盛なので、隠居した後であっても親は子を勘当することができるのだ。
親を不行跡を相談できる相手は親戚だけなのだ。
梅一が貸付証文と金を配った御家人の家でも対応は色々だった。
梅一の思惑通り屑親を座敷牢に入れる家もあれば、そのまま屑親の好き勝手にさせてしまう家もあった。
忠孝の精神が強い家ほど、屑親がのさばってしまうのは不幸な事だった。
梅一の心にいっそ屑親も殺してやろうかという気持ちが芽生えた瞬間だった。
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