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第二章
第二十七話:隅田川
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梅一は苦笑するしかなかった。
自分が盗賊である事は水谷屋敷の件で知られているのは分かっていた。
だが、暗殺の前に盗みに入る事まで見抜かれていた。
しかも表向き盗みと殺しを切り離している事まで見抜かれていた。
養父の大盗賊団も自分のひとり働きも、家人を殺さない事を大前提にしているが、盗みに入る先を悪人に限っているので、殺す相手と重なる事があるのだ。
千両程度の金を盗むのなら、梅一だけで運べるのだが、相手が極悪非道であればあるほど、蓄えられている金が多くなる。
そうなると、どうしても養父に助っ人を頼むことになってしまう。
「熊の旦那にはかないませんね、盗みが終わったら改めて会いましょう」
梅一はその日の晩にひとりで正宝寺に忍び込んだ。
梅一は養父に助っ人を頼む前に、どれくらいの金があるのか確かめたのだ。
既に内蔵の場所は確かめてあったし、どれほど厳重な錠前も、梅一の手にかかったら簡単に開場されてしまう。
「親父さん、立て続けで悪いのですが、三十七人ほど助っ人を頼めませんか」
正宝寺に蓄えられている金を確かめた梅一は、次の日には養父に会いに行った。
前回の二十一人でも集めるのが大変だった養父は、少し困った表情をした。
だが梅一を心から愛する養父は、配下の人柄には目を瞑ってでも人数を集めてやる気になっていたが、その為にはどうしても聞いておかなければいけない事があった。
「どこに盗みに入って、どうやって逃げる心算なんだ」
養父から助っ人を得た梅一は、三日後に正宝寺から三万六五七三両を盗み出した。
三十七人が昼のうちに近くの広徳寺の本堂下に忍び込み、夜遅くまで隠れていた。
そして風のように正宝寺から千両箱をに盗み出し、誰にも見つかることなく通りを駆けて行く。
寺社の集まっているこの辺りには、自身番所や木戸番所が少ない。
新寺町通りを駆け抜けて菊谷橋を渡り、東本願寺の門跡前を駆けて田原町から三間町に至り、少しでも木戸番に見つからないように左に折れる。
東仲町にぶつかったら今度は右に折れ、並木町を抜けて材木町に至れば、もう目の前は墨田川だった。
養父は梅一の為に快速の猪牙舟を十艘も用意してくれていた。
船を見張る者も必要だったから、三十七人の予定が四十七人になってしまった。
そのために分け与える報酬も三七〇〇両から四七〇〇両に増えてしまっていた。
だが養父には養父の考えがあった。
配下の連中に梅一の凄腕を印象付けたかったのだ。
梅一が心変わりして跡継ぎになってくれようとした時に、古参幹部以外にも賛同者が多く出るようにしたかったのだ。
梅一が頭目になれば、安全に大金が手に入ると思わせたかったのだ。
その願い通り、今回も助っ人には簡単に百両の分け前が手に入ることになった。
猪牙舟は悠々と隅田川を下り海に出て行った。
自分が盗賊である事は水谷屋敷の件で知られているのは分かっていた。
だが、暗殺の前に盗みに入る事まで見抜かれていた。
しかも表向き盗みと殺しを切り離している事まで見抜かれていた。
養父の大盗賊団も自分のひとり働きも、家人を殺さない事を大前提にしているが、盗みに入る先を悪人に限っているので、殺す相手と重なる事があるのだ。
千両程度の金を盗むのなら、梅一だけで運べるのだが、相手が極悪非道であればあるほど、蓄えられている金が多くなる。
そうなると、どうしても養父に助っ人を頼むことになってしまう。
「熊の旦那にはかないませんね、盗みが終わったら改めて会いましょう」
梅一はその日の晩にひとりで正宝寺に忍び込んだ。
梅一は養父に助っ人を頼む前に、どれくらいの金があるのか確かめたのだ。
既に内蔵の場所は確かめてあったし、どれほど厳重な錠前も、梅一の手にかかったら簡単に開場されてしまう。
「親父さん、立て続けで悪いのですが、三十七人ほど助っ人を頼めませんか」
正宝寺に蓄えられている金を確かめた梅一は、次の日には養父に会いに行った。
前回の二十一人でも集めるのが大変だった養父は、少し困った表情をした。
だが梅一を心から愛する養父は、配下の人柄には目を瞑ってでも人数を集めてやる気になっていたが、その為にはどうしても聞いておかなければいけない事があった。
「どこに盗みに入って、どうやって逃げる心算なんだ」
養父から助っ人を得た梅一は、三日後に正宝寺から三万六五七三両を盗み出した。
三十七人が昼のうちに近くの広徳寺の本堂下に忍び込み、夜遅くまで隠れていた。
そして風のように正宝寺から千両箱をに盗み出し、誰にも見つかることなく通りを駆けて行く。
寺社の集まっているこの辺りには、自身番所や木戸番所が少ない。
新寺町通りを駆け抜けて菊谷橋を渡り、東本願寺の門跡前を駆けて田原町から三間町に至り、少しでも木戸番に見つからないように左に折れる。
東仲町にぶつかったら今度は右に折れ、並木町を抜けて材木町に至れば、もう目の前は墨田川だった。
養父は梅一の為に快速の猪牙舟を十艘も用意してくれていた。
船を見張る者も必要だったから、三十七人の予定が四十七人になってしまった。
そのために分け与える報酬も三七〇〇両から四七〇〇両に増えてしまっていた。
だが養父には養父の考えがあった。
配下の連中に梅一の凄腕を印象付けたかったのだ。
梅一が心変わりして跡継ぎになってくれようとした時に、古参幹部以外にも賛同者が多く出るようにしたかったのだ。
梅一が頭目になれば、安全に大金が手に入ると思わせたかったのだ。
その願い通り、今回も助っ人には簡単に百両の分け前が手に入ることになった。
猪牙舟は悠々と隅田川を下り海に出て行った。
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