仇討浪人と座頭梅一

克全

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第二章

第二十四話:母子

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 梅一にはとても気になっている事があった。
 梅吉として小旅籠に預けたおりょうと虎太郎の母子だった。
 梅一の本心は、一刻でも早く仮住まいの小旅籠から長屋や借家に移してやりたかったのだが、母子の事を考えるとそうもいかなかった。

 徳川幕府は水谷勝富の悪事と牧野成賢に不正の後始末で忙しいが、町奉行所や火付け盗賊改めの与力同心の中には、座頭熊一こと長谷部検校熊一の殺害と梅吉を結び付けている切れ者がいるかもしれないのだ。
 更にそれに桜小僧との関係を結び付ける者まで現れる可能性も皆無ではないのだ。
 梅一がうかつに母子に接触すると、二人まで桜小僧一味だと疑われてしまうかもしれないと心配していた。

 一方おりょうは梅吉の世話になっている事に負い目を感じていた。
 旅籠の中で話される噂から、熊一が殺された事は耳にしていた。
 まさかとは思っているが、自分達の為に梅吉が罪を犯したあのではないかと心から心配し、申し訳ない思いもしていた。

 一方子供の虎太郎の方は、無邪気に喜んでいた。
 母親が頑張ってくれてはいたが、母親ひとりでは日々の暮らしは厳しい。
 どうしても切り詰めるところは食費になってしまう。
 育ち盛りの子供にとって、一汁一菜の食事では満足できない。

 だが今は、毎食一汁三菜が供されるのだ。
 今までは月に一度か二度しか食べられなかった魚が毎日食べられる。
 しかも通常なら一日二食の所を、一日三食が供される。
 問題があるとすれば、一日旅籠の中で過ごすことだけだ。
 八歳の子供にとって、外に出て遊べない事はとても苦痛だった。

「おりょうさん、手紙が届いているんだが……」

 思い悩んでいたおりょうの元に手紙が届いた。
 近所の子供が見ず知らずの男から預かっていたという手紙で、小旅籠の若旦那は取り次ぐかどうか迷ったのだが、最近江戸っ子の間で流れている噂から、渡した方がいいと判断したのだった。

「まあ、本当によいのでしょうか」

 手紙の差出人は梅吉だった。
 内容は根津門前町の裏長屋を借りることになったので、そちらに引っ越して欲しいという内容だった。
 ありがたいことに、元の長屋から家財道具を運ぶ段取りまでしてくれていた。
 しかも手間賃は前払いしてくれていると言うのだ。

 実際には既に家財道具は運び込まれた後で、おりょうと虎太郎は身一つで移動すればいいだけになっていた。
 月銀五匁の家賃も、既に一年分前払いしてある。
 おりょうの生活の糧である仕立物の仕事も、問屋と話しを付けてくれている。
 ただ町奉行所に疑われているので、直ぐに手紙は焼き捨てて欲しいと書いてあったので、おりょうはその通りにした。
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