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第一章
第十九話:強襲
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惣録屋敷にたどり着くまでの間に、梅一は手拭いで頬被りして顔を隠した。
その姿を見て熊の旦那も梅一が本気なのだと気がついた。
足早に惣録屋敷にまでたどり着くと、一切の迷いなく梅一は塀に飛び乗った。
そのまま下にいる熊の旦那に手を差し伸べて登ってこいと合図する。
忍者や盗賊の鍛錬などした事のない熊の旦那だが、剣術の達人だけあって身のこなしは軽いので、左手で梅一の左手を握って軽く塀に飛び乗る。
それからはもう何も言葉を交わすことなく二人は襲撃に向かった。
梅一の足取りにはまったくの迷いがなかった。
まるで惣録屋敷に事を熟知しているかのように歩く。
その堂々とした態度に、熊の旦那も文句を言わずに後をついていく。
暗殺に慣れている梅一が周りに殺気を漏らさないのは当然だが、相手を威圧する気合を周囲に出すのが普通の剣術使いである熊の旦那も、全く殺気を漏らさない。
梅一が勝手知ったる屋敷のように、迷いなく一つの離れに向かった。
音もなく扉を開けると、するりとその中に入っていった。
これがある程度勘のいい盲人がいれば、梅一の侵入を察知したかもしれない。
だが熊一こと長谷部検校が抱えている盲人は、金貸しの取り立てしかできない、盲人でも最下層の者達だったので、なかなか侵入者に気がつかない。
「なにやつ」
それでもようやく用心棒の一人が侵入者の気配を察知した。
多くの候補者の中から、剣術の腕を見込まれて雇われた用心棒だ。
性格など関係なく、腕だけなら江戸でも有数の剣客だろう。
だがそんな剣客でも、惣録屋敷の中では油断をしていた。
どこの誰が、徳川幕府が盲人保護のために与えた屋敷に押し込み、盲人を殺すと思うだろうか。
だから用心棒は一仕事終えた事で油断し、酒をしたたかに飲んでいたのだ。
それでも侵入者に気がついたのは一流の剣客だったが、そこまでだった。
長巻と同じように使える熊の旦那の刀が大上段に斬り降ろされ、受けようとした用心棒の刀ごと頭を斬り割り、周囲に脳漿を飛び散らせた。
だがそんな脳漿を衣服に受ける熊の旦那ではない。
もう既に場所を移動して、もう一人の用心棒に向かっていた。
もう一人の用心棒も酒を飲んで油断していたが、何とか刀を抜き打ちにして熊の旦那を斬ろうとしていた。
だがその刀を熊の旦那は難なく躱して、流れるような軌道で長巻擬きを振るい、用心棒の首を刎ねてしまった。
まだ心の臓が鼓動しているのか、拍動に合わせて切り口から血がふきだす。
だが幸いな事に、その凄惨な現場を見る者は梅一と熊の旦那だけだった。
長谷部検校も手下も全員が盲人なので、音と気配だけしか伝わらない。
だがその音と気配だけでも、用心棒二人が戦っている事は盲人達にも分かった。
それが手下達を恐慌状態の陥らせた。
「ぎゃああああ、お許しください」
「全部長谷部検校が悪いんです、私らは命じられてやっただけなんです」
「私ら盲人は長谷部検校の言う事を聞くしかなかったんです」
多くの盲人手下が泣き叫んでいたが、梅一は何も気にせずに検校を殺した。
特に残虐に復讐するわけではない。
淡々と依頼をこなすだけだった。
長谷部検校に母親を奪われた子供から受取った二千文の金。
冷たく凍るような川で蜆や魚を取って貯めた金に価値を見出したのだ。
ただひとかき、短刀を長谷部検校の首に振るう。
その姿を見て熊の旦那も梅一が本気なのだと気がついた。
足早に惣録屋敷にまでたどり着くと、一切の迷いなく梅一は塀に飛び乗った。
そのまま下にいる熊の旦那に手を差し伸べて登ってこいと合図する。
忍者や盗賊の鍛錬などした事のない熊の旦那だが、剣術の達人だけあって身のこなしは軽いので、左手で梅一の左手を握って軽く塀に飛び乗る。
それからはもう何も言葉を交わすことなく二人は襲撃に向かった。
梅一の足取りにはまったくの迷いがなかった。
まるで惣録屋敷に事を熟知しているかのように歩く。
その堂々とした態度に、熊の旦那も文句を言わずに後をついていく。
暗殺に慣れている梅一が周りに殺気を漏らさないのは当然だが、相手を威圧する気合を周囲に出すのが普通の剣術使いである熊の旦那も、全く殺気を漏らさない。
梅一が勝手知ったる屋敷のように、迷いなく一つの離れに向かった。
音もなく扉を開けると、するりとその中に入っていった。
これがある程度勘のいい盲人がいれば、梅一の侵入を察知したかもしれない。
だが熊一こと長谷部検校が抱えている盲人は、金貸しの取り立てしかできない、盲人でも最下層の者達だったので、なかなか侵入者に気がつかない。
「なにやつ」
それでもようやく用心棒の一人が侵入者の気配を察知した。
多くの候補者の中から、剣術の腕を見込まれて雇われた用心棒だ。
性格など関係なく、腕だけなら江戸でも有数の剣客だろう。
だがそんな剣客でも、惣録屋敷の中では油断をしていた。
どこの誰が、徳川幕府が盲人保護のために与えた屋敷に押し込み、盲人を殺すと思うだろうか。
だから用心棒は一仕事終えた事で油断し、酒をしたたかに飲んでいたのだ。
それでも侵入者に気がついたのは一流の剣客だったが、そこまでだった。
長巻と同じように使える熊の旦那の刀が大上段に斬り降ろされ、受けようとした用心棒の刀ごと頭を斬り割り、周囲に脳漿を飛び散らせた。
だがそんな脳漿を衣服に受ける熊の旦那ではない。
もう既に場所を移動して、もう一人の用心棒に向かっていた。
もう一人の用心棒も酒を飲んで油断していたが、何とか刀を抜き打ちにして熊の旦那を斬ろうとしていた。
だがその刀を熊の旦那は難なく躱して、流れるような軌道で長巻擬きを振るい、用心棒の首を刎ねてしまった。
まだ心の臓が鼓動しているのか、拍動に合わせて切り口から血がふきだす。
だが幸いな事に、その凄惨な現場を見る者は梅一と熊の旦那だけだった。
長谷部検校も手下も全員が盲人なので、音と気配だけしか伝わらない。
だがその音と気配だけでも、用心棒二人が戦っている事は盲人達にも分かった。
それが手下達を恐慌状態の陥らせた。
「ぎゃああああ、お許しください」
「全部長谷部検校が悪いんです、私らは命じられてやっただけなんです」
「私ら盲人は長谷部検校の言う事を聞くしかなかったんです」
多くの盲人手下が泣き叫んでいたが、梅一は何も気にせずに検校を殺した。
特に残虐に復讐するわけではない。
淡々と依頼をこなすだけだった。
長谷部検校に母親を奪われた子供から受取った二千文の金。
冷たく凍るような川で蜆や魚を取って貯めた金に価値を見出したのだ。
ただひとかき、短刀を長谷部検校の首に振るう。
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