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第一章

第4話:道行

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 普通ならゴトゴトと大きな音を立て、音に同期した激しい振動があるはずの馬車なのに、全く音がせず振動もありません。
 流石バーンウェル辺境伯ソロモン卿のお持ちの馬車です。
 魔法か魔力の力で特別な仕掛けをしているのでしょう、乗り心地抜群です。
 ですが、乗り心地がよくても、雰囲気が重いです。
 ソロモン卿が口の重い方のようで、全く話されません。

 そのそも何故このような事になっているかと言えば、ソロモン卿が私を領地に来るように誘ってくださったからです。
 まあ、あれは、私を不憫に思って誘ってくださったのか、それとも、わめき散らす王太子を更に煽り怒らすために誘ってくださったのか、判断に迷いますね。
 ただ、ソロモン卿が王太子を蔑み忌み嫌っているのだけは確かです。

 しかし、あの一言が、全貴族士族に与えた印象は大きいでしょう。
 ソロモン卿は、誰に何を言われても王国に戻る気がない事です。
 確かに今回の私に対する裁判は酷過ぎますが、こういう事は王家の力が強い国では偶に起こる事で、やられた者の運が悪かっだけだと見過ごされます。
 ですが、ソロモン卿は真っ向から逆らい否定されました。
 今まで王家の横暴に苦しんできた者にとっては、爽快極まりない出来事でしょう。

「ソロモン卿、王家王国との戦争も覚悟されているのですか?」

 この点は確認しておかなければいけません。
 眼を閉じてはいますが、眠っておられないはずです。
 私の係わる事で戦争が引き起こされ、民が巻き込まれ苦しむのは嫌ですから。
 ソロモン卿はゆっくりと眼を開けて、じっと私の顔を見つめて、真面目にゆっくりと分かり易く返事してくれました。

「どうやら本気で民の事を心配しているようだな。
 自分の事だけを考えているようなら、返事をしない心算だったが、本気で民の事を想っているのなら、ちゃんと答えなければいけないない。
 はっきり言っておくが、レジオン王家に、いや、ジョージ王に俺と戦争始める勇気も覚悟もない。
 王太子は五月蠅く戦争を主張するだろうが、隣国がレジオン王国のスキをうかがっているから、誰も同調はしない。
 だから戦争が始まる確率は極端に低い」

 ソロモン卿の言葉に心から安堵しました。
 戦争ほど民を苦しめるモノはありませんから、私の所為で戦争が引き起こされることになったら、精神的に耐えられないかもしれません。
 異世界に転生して心を病むのは嫌ですからね。

「ただ、王太子が私の考えている以上の大馬鹿なら話は別だ。
 王太子が国王を殺して権力を握り、我欲と見栄で我が領地に攻め込んで来る可能性が、わずかだがある。
 まあ、そこまで愚かだとどうしようもない、戦うまでだ」

 ソロモン卿の言葉が大きな前フリに思えてしまいます。
 私の知る王太子は、どうしようもない馬鹿で強欲で身勝手です。
 どう考えても最悪の手段を選ぶとしか思えません。
 戦争を引き起こさない方法があるのなら、誰か教えてください!
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