ざまぁの嵐

克全

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第一章

第1話:卒業記念舞踏会で婚約破棄

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メストン王国暦385年3月11日:王立魔術学院大武術館

 私、マリーニ侯爵家のエレナは今年王立魔術学園を卒業します。
 同年に卒業する貴族の公子や令嬢が卒業式会場に集まっています。

 ほとんど全ての公子と令嬢が婚約者と一緒です。
 1人でポツンといるのは私だけです。

「メストン王国アンゼルモ王家第1王子。
 ダンテ・メストン・アンゼルモ・ウィッリウス殿下の御入場」

 式部役の教師が魔術の力を借りて会場中に声を届けています。
 ダンテ殿下を先頭に、側近達が壇上に姿を現します。
 
 ダンテ殿下はヴィオラ男爵令嬢の手を取って共に入場してきました。
 なるほど、その人を選んだのですね。
 いいでしょう、その愚かな行為に相応しいお返しをして差し上げます。

「皆にどうしても聞いて欲しい事がある。
 私はずっと我慢してきたのだ。
 身勝手極まりない、王家の妃に相応しくない令嬢の行為に」

 ダンテ王子が、会場にいる公子や令嬢の耳目を集めようと一拍おきます。
 自分で考えてやったのなら褒めてあげるのですが、勝手に側近に加えたルイージに袖を引かれ、それに合わせて話したり休んだりしているのが丸わかりです。

「私の婚約者であるエレナは、第1王子の婚約者という立場利用して、逆らえない下級貴族の令嬢に対する虐めを繰り返してきた。
 私が何度注意しても止める事がなかった。
 それどころか、陰湿にも陰に隠れて虐めだしたのだ!」

 またルイージの合図に合わせて言葉を止めました。
 公子や令嬢を言い包めれば、国王陛下も同意すると思っているのでしょうか?

 ダンテ王子もそうですが、裏で画策しているルイージの父親、シルキン宮中伯も愚かとしか言いようがないですね。

 年上の4大侯爵家公子が全て卒業したので、好き勝手出来ると思ったのでしょう。
 残念でしたね、私は見た目ほど弱い令嬢ではないのですよ。

 私以外の4大侯爵家の公子と令嬢も同じです。
 年下であろうと、ダンテ王子が次代の国王に相応しいか、厳し目で見ている事を分かっていないのですね。

「事もあろうに、私が心惹かれた、聖女のような慈愛の心を持つヴィオラ嬢を、階段から突き落としたのだ!
 幸いキリバス神の大いなる神通力でヴィオラ嬢は助かったが、神の御業がなかったら死んでいたところだ。
 そのような悪しき心を持つ者を妃になどできない。
 私はエレナとの婚約を解消する。
 いや、解消程度ではこれまで行ってきた悪行の罰にはならない。
 婚約破棄の上で処刑する。
 そして神から救いを受けた聖女、ヴィオラ嬢を妃に向かえる!」

 さて、会場にいる公子と令嬢の何割が愚者の妄言を信じたのでしょうか?
 見た感じでは、1割も信じていないようですね。
 ですが、5割くらいは半信半疑で、本当かもしれないと疑っているようです。

「全く身に覚えがありませんが、証人や証拠はあるのですか」

 私が打ちひしがれて、さめざめと泣き崩れるとでも思っていたのでしょうか。
 グイっと前に出て厳しく問いただすと、直ぐに襤褸がでました。

「なっ、証人と証拠だと。
 私がやったと言っているのだ、それ以上の証人も証拠も必要ない!」

 そのように慌てふためいた態度で、証拠も証人もだせず、王子の地位を振りかざして処罰しようとすると、貴族士族に見捨てられますよ。

 まあ、もう他人事です。
 こちらから婚約解消を切り出さずにすんだのです。
 せっかくの機会ですから、利用できるだけ利用させていただきましょう。

「政略結婚の意味も理解できない愚かな王子が、婚前交渉というキリバス教の教義を破った上に、尻軽令嬢を妃に迎えようとしているのですよ。
 誇り高い貴族になるべく、厳しい教育を受けた方々を騙せると、本気で思っておられるのですか?」

「な、え、言っていたのと違うではないか!
 エレナは黙って言い成りになると言っていたではないか!
 何とかしろ、ルイージ」

 私が王子に対して行っていた、社交上の礼儀正しい態度を気弱と誤認していたのなら、愚かも極まっています。

 それを前提に、ルイージの言葉を丸覚えして口にしていたのでしょう。
 想定外の反論をされて急に慌てだしました。
 
 それだけでも公子や令嬢達から疑いの目で見られます。
 更にルイージに反論を丸投げするなんて、自分がルイージの傀儡でしかないと、臣下になる公子達に自白しているも同然です。

「悪足搔きはお止めください、エレナ嬢。
 貴女がヴィオラ嬢を階段から突き落として殺そうとしたのは、殺されかけたヴィオラ嬢だけでなく、偶然その場に居合わせたダンテ殿下と私が見ております」

「それは、キリバス神に誓って真実を言っているのですか?!」

「はい、神に誓って真実を言っております。
 そうですよね、ダンテ殿下、ヴィオラ嬢」

「え、あ、そう、そうだ、確かに見たぞ」

「はい、私を階段から突き落としたのはエレナ嬢で間違いありません」

「それは何日の何時ですか?
 殿下の行動は侍従達によって厳しく管理されているはずです。
 神に誓った言葉に嘘偽りがないのなら、私がヴィオラ嬢を階段から突き落としたという日時を言えるはずです」

「え、あ、う、ルイージ、何時だ?!」

「殿下、慌てられなくても真実は揺るぎません。
 昨日の夜、ヴィオラ嬢がエレナ嬢に呼び出されたと聞き、侍従達に内緒で王城を抜けだして学園に来られたではありませんか」

「あ、ああ、ああそうだ、ルイージの言う通りだ。
 エレナの悪巧みを防ぐために、侍従達に内緒で王城を抜けだしたのだ」

「あら、それは可笑しすぎますね。
 私が悪巧みをしていると分かっていたのなら、侍従達に事情を話して正々堂々と王城を出るべきでしょう。
 王子という大切な身でありながら、護衛騎士も連れずに王城を抜け出すなんて、キリバス教の教義を破る不義密通や婚前交渉をしない限り、秘密にする必要が何処にあるのですか、ダンテ殿下!」

「うっ、うっ、うっ、うっ、だまれ、だまれ、黙れ!
 第1王子である俺様が、エレナがヴィオラ嬢を殺そうとしたと言っているのだ!
 それ以上の証拠も証人も必要ない。
 この場で処刑してくれる!
 エンリコ、やれ、この場で斬り殺せ」

「そのような無法な命令には従えません!」

「なに、それでも俺様の護衛騎士見習か?!」

「その護衛騎士見習が信用できず、ルイージだけを供にして、ヴィオラ嬢と不義密通を繰り返されたのでしょう!?
 ならば無法な命令はルイージに命じられれば良い。
 私はこの場で護衛騎士見習を辞めさせていただきます!」

「おのれ、おのれ、おのれ、この不忠者が!
 これだから4大侯爵家の連中は信用できないのだ。
 ルイージ、お前がやれ!」

「はっ、エレナ嬢、主命だ、諦められよ」

「あら、あら、あら、あなた程度の腕で私を斬れるとでも思っているのかしら?」

 私は、ほんの少しだけルイージに威圧をかけてあげました。
 それだけで卒業生の中で5本の指に入る剣の名手が見動き出来なくなりました。

 もっとも、厳しい現実と直面しながら、侯爵家の誇りと名誉を護っている公子や令嬢に比べたら、王家直属の宮中貴族公子など高が知れています。

 ルイージが領主貴族の公子に剣術で勝てたのは、父親が財務大臣だからです。
 哀しい事ですが、自然が相手の領地経営はとても大変のです。
 王国予算を握っている財務大臣におべっかを使わなければいけないくらい。

「ごめん遊ばせ。
 まあ、財務大臣閣下の公子ともあろう者が、令嬢に睨まれただけで粗相をするなんて、恥かしいと思われませんの?
 ヴィオラ嬢も同じですよ。
 コクラン男爵家の出自が疑われますよ?
 学園に入るのなら、おむつが取れてからにしなさい」

 私はそう言いながら、学園中に大恥を晒した2人の脇を通り抜けました。

 エンリコを始めとした地方貴族出身の護衛騎士見習達は、もうダンテ王子を護る気がなくなったようです。

 ですが、王家から遣わされている直臣の護衛騎士達は、恥を感じつつもまだダンテ王子を護る気があるようです。

 可哀想に、騎士の誇りが地に落ちてしまっています。
 貴男方の、その苦渋の表情に免じて慈悲を差し上げます。

「殿下を害する気はありません、安心されてください」

「それを信じろと言われても無理です、エレナ嬢。
 殿下の言動は、この場で殺されても仕方のない恥知らずなモノです。
 そんな方でも護らなければいけない我らの苦渋に免じて、国王陛下の御裁可を待って頂けないでしょうか?」

 直臣騎士達も言うものです。
 遠回しですが、私が正しくて王子が悪いと言い切っています。
 彼らなりの私に対する支援なのでしょう。

「本当に大丈夫ですよ。
 マリーニ侯爵家の名誉にかけて王子を殺したりはしません。
 頬を張って決闘を申し込むだけです。
 まさか、ここまでされて、頬を張る事さえ許さない心算ですか?」

 私がそう言うと、王家直属の護衛騎士達が道を開けてくれました。

「何をやっている?!
 俺様を護れ!
 俺様の命令よりこのアバズレの言う事に従うのか?!
 クビだ、王国から追放してやる!
 いや、本当に首を刎ねてやる!
 ヒィイイ!
 ゆるして、ゆるして、ゆるしてくれ、俺様が悪かった。
 ルイージだ、全部ルイージが考えたのだ。
 ヴィオラに、ヴィオラにそそのかされたのだ。
 俺様は何も悪くない、悪くないのだ。
 ヒィイイ!」

 自分だけ助かろうと必死で言い訳する姿が見苦しいです。
 誰も、家臣や令嬢の言い成りになる者を王にしたいとは思わないでしょう。
 こんな屑の婚約者にされていたと思うと、自分が可愛そうになります。

「王子、本当なら頬を張って決闘の申し込みにしようと思ったのですが、粗相をしただけでなく、気を失ってしまわれました。
 誇り高き王侯貴族とはとても思えない情けなさです。
 領地を護る地方貴族や士族には、貴男のような軟弱者は1人もいません。
 王子もルイージもヴィオラも情けなさ過ぎます。
 宮中貴族や騎士はこの程度でいいのですか?」

 会場中の公子や令嬢に聞かせる為に、魔術で拡声して広めました。
 これで少なくない領主貴族の支持が得られるでしょう。
 南部貴族は元々我が家の寄子ですから、味方してくれるでしょう。

 パシ!

「本当は頬を張ってスッキリしてから決闘を申し込む心算だったのですが、気絶したモノに手を挙げてはマリーニ侯爵家の恥になります。
 手袋を叩きつけるだけで許して差し上げます」

 私はそう言ってから、護衛騎士長を務める騎士に顔を向けました。

「貴男、今回の事は、嘘偽りなく、細大漏らさず、陛下に伝えなさい。
 マリーニ侯爵家はダンテには仕えられません。
 踏みにじられた誇りを取り戻すためには、家を滅ぼしてでも戦います。
 その影響で国が滅び、他の貴族達が巻き添えになっても仕方がありません。
 そう陛下にお伝えしてください、いいですね!」

 私はそう言い捨てて、学園の卒業式会場を後にしました。
 国王陛下の決定がとても楽しみです。 
 お父様に独立の機会がやってきたと報告しなければいけません。
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