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第一章

第19話:正使

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神暦3103年王国暦255年3月2日12時:ジャクスティン視点

 俺様も家族も領民も、王家と戦う準備を着々と整えていった。
 本気で戦いたいわけではなく、王家に戦っても無駄だと思わせる為だ。
 女王が愚かな王女を説得しやすいようにしてやっているのだ。

「公王陛下、王国からの正使がやって来られました」

 俺様の威圧が成功したのは明らかだ。
 絶対に勝てない状態なのに、王女が何度も俺様を怒らせたのだ。
 以前の俺の性格を知っている女王が恐怖するのは当然だろう。

「ああ、入ってもらってくれ」

 公爵の執務室や私室はセイントに明け渡した。
 今俺様が使っているのは隠居した時のために作っておいた場所。
 城の四隅にある城館の一つだ。

「王国正使、ロスリン伯爵リアム様御入室。
 王国副使、マーガデール男爵エブリン様御入室」

 俺様が公王を名乗ったから、正式に人を部屋に入れるだけでも仰々しい。
 それにしても、リアムが正使でマーガデール男爵が副使か。
 直近で俺様が問題を感じた貴族を使者に選ぶとは、流石女王だ。

「公王陛下、謁見の許可を賜り感謝の言葉もございません」
「わたくしも同じく感謝の思いで一杯でございます」

「苦しゅうない、面を上げよ。
 色々と行き違いはあったし、王女の無礼は許し難いものがあるが、エマ女王は長年の戦友だ。
 袂を分かって独立したが、正式な使者を害するほど憎いわけではない。
 何か大切な話があるのならちゃんと聞こうではないか」

「公王陛下の御厚情、感謝の言葉もありません。
 長年の忠義を踏みにじるようなミア王女の言動、その場で叩き殺されても文句を言えない所を、このような寛大な態度を取って頂ける。
 公王陛下の友情と寛大さには心打たれます」

 リアムの奴、俺様を立てるだけでなく王女を批判してやがる。
 だが油断は禁物だ。
 重要な役目を与えられた事で王国を見限り難くなっている。

「大した事ではない、気にするな」

「その友情厚く寛大な公王陛下にお願いしたい事があるのです」

 やっぱりだ、何か無理難題を押し付けに来やがったのだ。
 リアムにも大切な家族と領民がいる。
 マーガデール男爵はアルファ落ちした子供を人質にされている。

「ほう、それほど持ち上げられても、やれる事とやれない事があるぞ」

「とても難しい、前例のない非常識な事ではありますが、公王陛下と女王の間にある友情ならば、困難を打ち破って実現できるかもしれないと思いました」

 とてつもない無理難題を押し付けられる予感しかしないぞ!

「どのような無理難題を持ってきたのだ?」

「ジェネシス殿とミア王女殿下の正式な結婚でございます」

 本当にとんでもない無理難題を言ってきやがった。
 オメガ落ちしたジェネシスとアルファに成ったミアの正式な結婚だと?!

 だからこの二人を正使と副使に選んだのだな。
 オメガに殿付けできるアルファなど、この二人以外他に思い浮かばない。
 
「そうは言うが、肝心の王女が全貴族の前でジェネシスを性奴隷にすると言った。
 その後も、何度も俺様に喧嘩を売った。
 この前も王国の正使を名乗って俺様に喧嘩を売ってきた。
 そのような言動を重ねた王家や王女は信用できない」

「その事に関しては女王も申し訳ないと言っていました。
 ただ、その分ジェネシス殿の待遇をよくすると申しております。
 どうか長年の友情に免じて王女の無礼を許して頂けませんか?」

「形だけ詫びられても信用できない。
 無礼を重ねたのは王女なのに、詫びを口にしているのはお前達二人だけだ。
 これではとても信用できない。
 大切な孫を敵地とも言える王城にはやれない」

「その事なのですが、女王陛下は王女を公王陛下に預けてもいいと言われています。
 永遠には無理ですが、公王陛下に信じてもらうために、一時的になら王女を公城に預けてもいいと申されているのです」

 ちっ、ここまで下手に出られたら俺も無理難題は言えなくなる。

「分かった、二年だ、二年間王女をここに寄こすのなら、正式な結婚を認める」

「二年でございますか?
 女王陛下としては一カ月程度を考えておられたのですが」

「俺様が王女の言動に偽りがないと見極める期間が二年だ。
 それを認められないと言うのなら、この話はなかった事になる」

「そこを何とか考え直して頂けないでしょうか?」

「俺様の王女に対する印象は最悪だ。
 その印象を覆して信用を勝ち取りたいと言うのなら二年だ。
 二年に一日一時間たりともまからん!」
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