愛孫と婚約破棄して性奴隷にするだと？！

第一章

第1話：成人式

神暦３１０３年王国暦２５５年１月１日１０時：ジャクスティン視点

「マーガデール男爵家令嬢キャサリン様」

　一番身分の低い家から呼び出されていく。

「はい！」

　王城で一番広い部屋は痛いくらいに張り詰めた緊張感に満ちている。
　今日の成人式で個人の人生だけでなく家の運命も決まるのだから当然だ。

「栄えある成人式の一番手として、判定の儀式を受けてもらいます」

　俺はもう二人も後継者に恵まれたから気が楽だが、まだ一人の後継者も得られていない貴族は、心臓が口から出そうなくらい緊張しているだろう。

「はい！」

　キャサリン嬢が緊張感丸出しで魔法陣の所まで進んでいく。
　あの魔法陣が令嬢の属性を証明してくれるのだ。
　
「キャサリン、ベータ」

　これでキャサリンは貴族ではなくなった。
　王侯貴族に成れるアルファは千人に一人だからそう簡単には現れない。
　毎年の成人式でアルファに成れるのは一人いればいい方だ。

「「「「「……」」」」」

　確率的には普通の事なのだが、まだ一人の後継者も得られていないマーガデール男爵家の失望は当然だ。
　同じ状態の貴族家も同情と期待を浮かべた複雑な表情になっている。

「ヘレンズ男爵家令嬢アレイナ様」

　今日この場には男爵以上の爵位を持つ貴族と、成人を迎えた男爵家以上の令息と令嬢が儀式を受けにやってきている。

「はい！」

　成人の儀式に参加する者が一家に一人とは限らない。
　できるだけ多くの子供に儀式を受けさせて、自分の血を継ぐ者に貴族家を継がせたいのだから、時間がかかって仕方がない。

「判定の儀式を受けてもらいます」

　身分が高いほど成人の儀式を後で受ける事になる。
　つまり、高位貴族ほど待たされるのだ。
　公爵家筆頭の初孫が待たされるのはしかたがないのだが、暇すぎる。

「はい！」

　まあ、余裕の俺様にとっては暇な時間だが、まだ一人の後継者も現れない女王にとっては拷問のような時間だろう。

「アレイナ、ベータ」

　こいつもベータ、平民落ちだ。
　オメガ判定されて性奴隷に落とされるよりはマシだし、貴族家の血を引く女としてベータの中では優遇される。

「レンウィック男爵家令嬢レイチェル様」

　貴族はその財力の大半をハーレムに費やしている。
　アルファが生まれる確率はほぼ千人に一人。
　二百人の女性を囲い込んで一人に五人生ませれば後継者を得られる計算だ。

「はい！」

　だが、アルファの能力もピンからキリまである。
　騎士の地位しか得られないアルファだと、とても二百人の女性は養えない。

「判定の儀式を受けてもらいます」

　いや、今儀式を受けている男爵でも、貴族の体面を維持しながら二百人もの愛妾をハーレムで養う事は不可能だ。

「はい！」

　だからアルファの子供を得られなかった貴族は、アルファ士族やベータ平民から生まれた優秀なアルファを婿に取る事になる。

「レイチェル、ベータ」

　だからベータ判定された貴族の血を受け継ぐ女性は、ほんの少しだけ優遇されるのだが、娘がアルファを生んでくれなければ貴族としての自分の血脈を途切れる事になる。

「グリムストン男爵家令嬢マイア様」

　もっとも、アルファ至上主義の世の中だから、例え王家に生まれたベータ女性であろうと、アルファ騎士に望まれたら逆らえない。
　百分の一の確率でオメガに生まれた場合は最悪で、うなじに番の印をつけられたら性奴隷になるしかない。

「はい！」

　だからこそ、心あるアルファはできるだけ多くの家族でこの儀式に参加する。
　慈しんで育てた子供が、性奴隷にされて連れ去られるのを指をくわえて見ている訳にはいかないのだ！

「判定の儀式を受けてもらいます」

　幸いにして、俺の子供はもちろん、弟妹も誰一人他人に奪われなかった。
　オメガが生まれずベータばかりだったからだが、皆領地で幸せに暮らしている。
　俺様に全ての家族を養えるだけの力があるからだけどな。

「はい！」

　可哀想なのはオメガの男性だ。
　これまで男として育てられてきたのに、いきなり女扱いされで性奴隷だ。
　それも女性器まで現れて両性具有になってしまうのだ。

「マイア、ベータ」

　オメガ落ちしてしまった元貴族の令息。
　可哀想だが、アルファの性欲を激しく刺激する存在だ。

「グレンデヴォン男爵家令嬢エブリー」

　どれほど強靭な理性をもってしても抑えられない、とてつもなく激しい支配欲と加虐心は、アルファになってしまった者しか分からない。

「はい」

　俺も若い頃は支配欲を加虐心を抑えるのに苦労した。
　幸い子供や甥姪にオメガになる奴がいなかったからよかったが、もしいたら自分の子供や甥姪に襲いかかっていたかもしれない。

「判定の儀式を受けてもらいます」

　現にこの会場でも、毎年目を覆うような惨劇が繰り返されている。
　この国でも最も強いアルファ達、現役貴族家当主が全員参加しているのだ。
　オメガが見つかった時の争奪戦は凄まじいものがある。

「はい」

　もっとも、最強の俺が止めるから、最悪の事態になる事はない。
　それに、最高権力者である女王がまだ後継者を得られていないのだ。
　俺が女王に配慮すれば、オメガの行き先は王宮のハーレム以外にはなくなる。

「エブリー、ベータ」

　まだ五人しか儀式が終わっていないが、全員ベータだ。
　ベータの確立が百分の九十八・九だから当然なのだが、暇すぎる。
　時間を潰すために、毎年同じような事を考えてしまう。

「イングルウッド男爵家令息ハーパー」

　最近では、こんな風に息子に男女兼用の名前を付ける者が現れた。
　息子がオメガになってしまった時の事を考えているのだろう。

「はい」

　だがそんな弱気な考えでいると、本当にオメガ判定されてしまうぞ。

「判定の儀式を受けてもらいます」

　俺としては、オメガになる者が一人もいないで欲しい。
　性欲に狂った格下アルファ達を抑えるくらいは大した事ではないが、運命に涙する若い子を見るのは心が痛む。

「はい」

　令息がオメガ落ちするのが一番不幸だからな。
　そうなった時に助けられるように気合を入れておくか。
　群がるアルファに指一本触れさせずに撃退するなら、本気で戦う必要がある。

「ハーパー、オメガ」

　げっ、百分の一を引くか？！