上 下
56 / 57
第1章

第53話:戦闘と政争

しおりを挟む
「……330万アルで落札です……」

 敵の馬鹿な手先が競売を競ってきたが、僕も王都行政官も競わなかった。
 僕たちが下りたのに気が付いて、仲間だと思われたくない者たちも手を引いた。
 王都行政官を敵に回したら、王都内で何もできなくなる。

 最後のエルフ系ドレイも敵が自分たちで落札した。
 僕を殺すための刺客として落札させる予定だったのに、全員自分たちで落札した。
 馬鹿の極みとしか言いようのない、愚か極まりない行いだった。

「……ファイナルのドレイでございます。
 別の世界からの落ち人で、強力な土属性のスキルがあります。
 鉱山ドレイとしてとても有用ですし、戦闘ドレイとしても利用できます。
 初値300万アルです、どうぞ!」

「300万アル」

 僕は言った、初めて直接入札に参加した。
 参加しただけでなく、競売会場をぐるりと見まわした。
 強めの殺気を放ちながら、敵の手先だけでなく競争相手になりそうな奴を見た。

 『競い合ってきたら殺すぞ』という気持ちを込めて見た。
 本気の殺気だと全員を気絶させてしまうので、頑張って怒りを抑えてにらんだ。

 落ち人が日本で子供たちを助けた時の保母さんが落ち人だったので、会場にいる人間を皆殺しにしてでも助ける覚悟だった。

「……さ、さ、さん、さんびゃく、300万アルで落札です」

 僕の殺気を恐れたのか、誰も入札しなかった。
 初値で有能な落ち人を落札できるなんて、普通はありえないのだろう。
 僕の時のように、無能だと思われないと高額落札されると異神眼で見た。

「動くな、王都行政官として命じる、全員1歩も動くな!」

 王都行政官のディルホーン子爵が競売会場の全員に命じる。
 王都行政官の護衛や家臣が戦闘体制をとって、全員をおどしている。
 僕も、僕の護衛や使用人を演じていた騎士と兵士も、全員をおどしている。

「ガタノトーア教会にはショウ殿の暗殺を謀った疑いがある。
 異国の王族を殺そうとした疑いがある。
 ここにいる者全員に共犯の疑いがある。
 王都行政官として捕らえて厳しく取り調べる。
 ガタノトーア教会は王都警備隊が厳重に包囲している。
 協力すれば暗殺容疑以外は調べないが、抵抗すれば他の容疑も取り調べる。
 それを理解した上で王都行政府について来い」

「不当だ、教会を取り調べるなど、神を恐れぬ大悪行だ!
 そのような事をしたら神罰が下るぞ!
 レンウィック皇国の大神殿を敵に回す事になるのだぞ!」

「黙れ、それはガタノトーア教の大神殿が暗殺に加わったという事か?!
 レンウィック皇国がグレンデール王国内で暗殺をさせたという事か?!
 ホウィック王家とグレンデール王国のめんもくにかけて絶対に許せん!
 捕らえよ、忠誠心のある者は王家王国の敵を捕らえよ!」

「「「「「おう!」」」」」

 王都行政官を敵の回したくない連中が、一斉に動いた。
 王都行政官にくわしく取り調べられたくない連中が、一斉に動いた。
 落札価格をつり上げていた連中も、神官と一緒に捕らえられた。

★★★★★★

「で、僕は異国の王族とは認められなかったのですか?」

「申し訳ない、私の証言だけでは王族とは認められなかった。
 だが、ショウ殿の強さは国王陛下も認めておられる。
 大臣の方々もショウ殿と敵対する事を恐れている。
 そこで、王族と証明できるまでは上級貴族待遇と決まりました」

 ブルーアルクトドゥス級の魔獣3頭を見せつけたのが効いているのかな?
 それとも、今回やった事が効いているのかな?

「明確な爵位は決めなかったのですか?」

「伯爵あつかいしていて、後で王子と分かったら責任問題になります。
 異国の賓客としておいて、王族に接するようにするのが無難と決まりました」

「僕が王族を詐称していた時に困るからですか?」

「はい、それもあります。
 ただ、異論は出ても、表立ってショウ殿を責める者は現れないでしょう。
 ストックトン宮中伯やスノードン伯爵のように、無理矢理決闘させられて、領地も王都屋敷も奪われたい者は誰もいません」

 王都行政官は、ガタノトーア教会の神官たちを捕らえて厳しく取り調べた。
 落札価格をつり上げていた手先が真っ先に真実を話した。
 競売汚職だけでも神官たちの死刑が確定する。

 他の罪で死刑が決まった者に人権などない。
 激しい拷問が加えられ、僕を暗殺しようとした事も自白させた。
 秘密を守るために自殺したくても、僕を護る神たちが自殺させなかった。

 神官たちは、自分たちに暗殺を依頼したのがストックトン宮中伯とスノードン伯だと証言した、手先たちもストックトン宮中伯とスノードン伯爵が黒幕だと証言した。

 僕は、僕に勝ったら暗殺を許すという条件で決闘を申し込んだ。
 100人まで、誰を助っ人にしても良いという条件を付けて決闘を申し込んだ。
 ただ、僕が勝ったら領地と爵位を含む全財産をもらう事も条件とした。

 異神眼でも未来は読み切れない。
 常識的に考えて絶対に受けないと思っていたのに、馬鹿が受けやがった。
 譜代の家臣や使用人の諫言を無視して受けやがった。

「……それで……2人の爵位と領地なのですが……
 国王陛下も、決闘での取り決めであろうと、他国の王族に爵位や領地を与える事はできないと言われているのです」

「ストックトン宮中伯の爵位と領地は王家が与えたモノでしたね?
 それを王が与えないと言うのは、まあ、当然といえば当然でしょう。
 ですが貴族が自らの手で切り取った爵位は、王が与えた物ではありません。
 貴族が独自で開拓した領地も、戦い手に入れた領地も、王が与えた物ではない。
 スノードン伯爵位と領地は僕がもらいます。
 他国の王族には渡せないと言うなら、王族待遇を要求します。
 それと、ガタノトーア教会の持っていた建物と土地、債権は僕がもらいます!」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!

克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。

【1章完】GREATEST BOONS ~幼なじみのほのぼのバディがクリエイトスキルで異世界に偉大なる恩恵をもたらします!~

丹斗大巴
児童書・童話
 幼なじみの2人がグレイテストブーンズ(偉大なる恩恵)を生み出しつつ、異世界の7つの秘密を解き明かしながらほのぼの旅をする物語。  異世界に飛ばされて、小学生の年齢まで退行してしまった幼なじみの銀河と美怜。とつじょ不思議な力に目覚め、Greatest Boons(グレイテストブーンズ:偉大なる恩恵)をもたらす新しい生き物たちBoons(ブーンズ)とアイテムを生みだした! 彼らのおかげでサバイバルもトラブルもなんのその! クリエイト系の2人が旅するほのぼの異世界珍道中。  便利な「しおり」機能を使って読み進めることをお勧めします。さらに「お気に入り登録」して頂くと、最新更新のお知らせが届いて便利です! レーティング指定の描写はありませんが、万が一気になる方は、目次※マークをさけてご覧ください。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

少年騎士

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」ポーウィス王国という辺境の小国には、12歳になるとダンジョンか魔境で一定の強さになるまで自分を鍛えなければいけないと言う全国民に対する法律があった。周囲の小国群の中で生き残るため、小国を狙う大国から自国を守るために作られた法律、義務だった。領地持ち騎士家の嫡男ハリー・グリフィスも、その義務に従い1人王都にあるダンジョンに向かって村をでた。だが、両親祖父母の計らいで平民の幼馴染2人も一緒に12歳の義務に同行する事になった。将来救国の英雄となるハリーの物語が始まった。

稀代の悪女は死してなお

楪巴 (ゆずりは)
児童書・童話
「めでたく、また首をはねられてしまったわ」 稀代の悪女は処刑されました。 しかし、彼女には思惑があるようで……? 悪女聖女物語、第2弾♪ タイトルには2通りの意味を込めましたが、他にもあるかも……? ※ イラストは、親友の朝美智晴さまに描いていただきました。

処理中です...