異世界子ども食堂:通り魔に襲われた幼稚園児を助けようとして殺されたと思ったら異世界に居た。

克全

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第1章

第46話:身代金代わりとお願い1

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「魔境に行って、何でも良いから狩って来てくれ」

 僕は人質宣誓で逃げないと誓ったスノードン伯爵家の騎士と兵士に命じた。

「分かりました、何も狩れなかったら薬草と薪を集めてきます」

 10騎士と100兵が魔境に行進していく。
 スノードン伯爵家が身代金の支払いを拒否したので、日々増えていく身代金の1部として狩りや輸送をさせている。

 全く信用できない指揮官は、人質宣誓させずに牢屋に閉じ込めている。
 落馬で死んでくれていれば良かったのだが、しぶとく生き延びた。

 大声でわめき散らすので、治療中の死病患者に思いっきり迷惑だった。
 迷惑にならないように、声が外にもれないように、地下室を造って閉じ込めた。
 騎士と兵士が寝起きする牢屋の下に、指揮官用の地下室を造ってやった。

「ショウ様、また王都の平民が治療して欲しいとやって来ております」

 結核療養所のようになった屋敷で働き始めた元荷役の代表が言う。

「いつも言っているように、貧民街の長が許可した者しか治療しない」

「貧民街の長は、そんな重大な権限を与えられて困っています」

 貧民の長は僕の力を認めてくれたのだろう。
 長の座を狙って暗殺するような、悪人ではないと分かってくれたのだろう。
 屈強な影武者ではなく、初老の本人が直接会いに来て謝ってくれた。

「困る事なんてないだろう?
 貧民街の人間に親切だった者は許可する。
 貧民街の人間を苦しめていた者は許可しない、それで良い」

「ショウ様は全ての人を助けたいと思っておられるのではないのですか?」

「僕はそんな聖人じゃないよ、好き嫌いの激しい普通の人間だよ。
 愚王やバカ貴族は絶対に助けたくない。
 仲良くなった人たちを苦しめてきた者を助けようとは思わない。
 僕のために恨みを忘れようなんて思わなくていい。
 僕を利用して、これまでの恨みを晴らしてくれ」

「分かりました、どうなるかは分かりませんが、そのように伝えます」

 荷役の代表、ジョーンズがそう言って長老の所に向かった。
 僕は死病患者用の薬草料理を作る。
 手伝いの女子供が露天街で売るモツ煮込みを作る。

「ショウ様、ウシ系のモツ煮込み13種が完成しました」

「露店に持って行ってくれ」

「はい、行ってきます」

 シカ系のホルモン13種を魔境の香草と根菜で煮込み塩で味付けしたモツ煮込み。  
 シカ系と同じように胃が4つあるウシ系魔獣のモツ煮込みも露店で売る事にした。

 常に煮込んでいるモツ煮込みなら、大城門の閉門まで売れ残っても腐らない。
 売れ残ったモツ煮込は、子ども食堂で無料の給食にする。
 これで餓死する貧民がいなくなる。

 僕の作るモツ煮込は美味しいと評判になっている。
 王都内の平民だけでなく、下級騎士や兵士も食べに来るくらい大評判だ。

 1杯5アルの値段だが、お腹一杯になるくらい量が多い。
 1店で100杯は売れるので、材料費や人件費を考えても十分利益がある。
 手伝ってくれる女子供に50アルの日当を払い、賄いも食べさせてあげられる。

 僕が露天街の店順を決めているので、同じ職種の露店を集めている。
 モツ煮込み店が26店も並んでいるので、それも評判になって人が集まっている。

 僕と縁のない貧民もモツ煮込店を出したいと言ってきたが、拒否した。
 汚く不味いモツ煮込を売られて評判が下がったら困るからだ。

 俺の縄張り、俺の街区ではなく、貧民街に勝手にモツ煮込店を出した奴がいた。
 元々食べずに捨てていた所だから、自分で魔獣や獣を狩れる者なら原価無しだ。
 男が獣を狩り薪を集めて女子供が売れば、原価無しで売れる。

 貧民街の自宅でモツ煮込みを売るのは禁止できない。
 そう思っていたが、僕との関係を大切に思っている長が即座に叩き潰した。

 僕と同じくらい美味しいモツ煮込みを作れるなら売ってもかまわない。
 だけど、長が配下に味見させたらとんでもなくまずかった。
 モツ料理の評判を落とされるのは困ると判断した長が、即座に叩き潰してくれた。

 僕も、長がつぶすのを黙って放っておくべきか迷った。
 迷ったけれど、異神眼で食中毒を出す未来が見えたので、潰すのを黙認した。
 何か良い方法を思いつくまでは、他人にモツ料理は作らせられない。

 そんな、僕の事を大切に思ってくれている長が、相談に来た。

「ショウ殿、何もかも頼ってしまうのを申し訳なく思っているのですが、それでもショウ殿に頼るしかないのです」

「僕にできる事なら頼ってもらってもかまいませんよ。
 ですが、何でもできる訳ではありませんから、それは分かってください」

「はい、それは分かっております、ありがとうございます」

「それで、何を頼りたいのですか?」

「ショウ殿のお陰で東大城門外の貧民街は豊かになっています。
 これまで餓死寸前だった女子供でさえ、毎日お腹一杯食べられています。
 それどころか、何かあった時のための貯金までできています。
 ただ、西南北の貧民街はこれまで以上に貧しくなったのです。
 東に人や仕事が集まった分、西南北が貧しくなってしまったのです」

「状況は分かりましたが、僕にどうしろというのです?
 西南北に露天街を作れと言われるなら作りますが、共倒れになりますよ」

「そのような事は申しません。
 私は東の長ですから、東の民を護るのが1番です。
 東の民を守るためなら西南北の民を見殺しにします。
 ただ、できる事もせずに見殺しにすると、連中も生きるために襲ってきます。
 そこで、西南北では生きていけない者たちを受け入れたいのです。
 ただ、自分たちだけでは生きていけない、最も弱い者たちなので、ショウ殿に雇ってもらいたいのですが、ダメでしょうか?」

「人数にもよりますが、50人位ならかまいませんよ」

「本当ですか、50人でも雇っていただけると西南北も大人しくなります」

「ああ、西南北の3ケ所でしたね、だったら公平に20人ずつ60人にしましょう。
 モツ煮込み店を手伝う人間が欲しかったので、それくらいは雇えます。
 性格がよくて料理の才能が有るなら、新たにモツ焼きの露店をだしましょう」

「モツ焼きの露店でございますか?」

「はい、僕がよく食べているような、焼きたてが美味しいモツ料理です。
 作り置きや保存がしにくいので、モツ煮込み店ほど売れないですが、あまり売れなくても損はしないですから、それだけで26人は雇えますよ」

「分かりました、できるだけ料理上手を送るように言います」

「ああ、料理上手と限定してしまうと、本当に困っている人が来られませんね。
 料理上手が26人と、最も弱い者から順に20人ずつとしましょう」

「ありがとうございます、感謝の言葉もありません、本当にありがとうございます」

 僕はその後も長と西南北から人を受け入れる話をした。
 追い込まれた西南北がネタミで襲ってこないようにする方法を相談した。
 
「ただいま戻りました、申し訳ありませんが、大したモノは狩れませんでした。
 魔獣とは言えないウサギとタヌキ、ネズミとキツネだけでした。
 その分、薬草と薪を持ち帰りましたので、お許しください」

 長と話している所に、人質宣誓をした騎士と兵士が戻って来た。

「長、今日の話はこれで終わりにさせていただきます。
 何かあれば直ぐに知らせてください。
 騎士長、狩って来た獲物を確認させてもらう」
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