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第1章

第44話:結核療養所

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「ショウ様、下ごしらえが終わりました、料理お願いします」
「こちらの下ごしらえも終わりました、料理お願いします」
「ショウ様、北大城門外から治療をして欲しいという者が来ました」
「モツ煮込みができました、味見お願いします」

 王都行政官閣下が奥方様の治療をして欲しいと言って来てから20日経った。
 僕が死病を薬草料理で治せる事は、誰にも話さないように口止めした。
 だけど、やっぱり、完全な口止めはできなかった。

 王侯貴族にまでは広まっていないが、貧民街には広がってしまった。
 東大城門外の貧民街だけでなく、西南北の大城門外にある3ケ所の貧民街住民には広まってしまっていて、毎日のように治療をして欲しいとやって来る。

「下ごしらえができた鍋から順番に料理していく。
 治療希望者は先に長の許可をもらってくれ。
 長が許可しない者の治療はできない、信用できない者を長に排除してもらう。
 モツの味見は薬草料理を作り終わってからやる。
 味見の終わったモツ煮込みから露店で売ってくれ」

 僕の魔法で結核を治す成分を含む薬草料理が完成した。
 手伝ってくれている貧民街の女性が薬草料理を持って患者さんの所に行く。
 だが、手伝いの女性たちが持って行くのは薬草料理だけではない。

 僕以外の料理人が作ったモツ煮込みも持って行く。
 ただ、モツ煮込みは死病患者さんの所に持って行くわけじゃない。
 モツ煮込みは商品として露天街の店に持って行く。

 それと、僕が治療をしているのは貧民街の死病患者だけではない。
 王都行政官閣下の奥方様の治療もしている。

 奥方様は家臣に守られ使用人にお世話され、野営テントで暮らしている。
 冷凍倉庫の改装が終わったら引っ越ししてもらう。

「ショウ、ご飯ができたわよ」
「マルチョウが焼けたわよ」

 僕のご飯を作ってくれているエマとリナが呼んでくれる。

「ありがとう、薬草料理が全部完成したら行くよ」

「早く来ないとミノの香草焼きが硬くなっちゃうよ」
「ミノのモツ煮込みも作っておこうか?」

「マルチョウは焼きながら食べるから、先に焼いた分は誰かに食べてもらって。
 ミノを薄切りにして茹でといてくれる?
 シードルビネガーと葱で和えておいて、冷めた頃に美味しくなるから」

「「は~い」」

 ホルモンは焼きながら熱々を食べるのが好きだ。
 好き嫌いとは別に、エマとリナが作ってくれた料理は別格で美味しい。
 愛情を感じられて、評判の調理人が作った料理よりも美味しい。

 ただ、誰が作ったのとは別の次元で、冷めてしまうと魅力がなくなる料理がある。
 ホルモンは焼きたてを食べるのが美味しい。
 自分で焼きながら食べる美味しさは、愛情とは別の美味しさがある。

 誰かに作ってもらう料理は、冷めても美味しい料理が良い。
 もしくは、二度煮や二度焼きしても美味しい料理が良い。

「朝早くから作ってくれてありがとう、うれしいよ」

「あ、当たり前のことをしているだけよ」
「ショ、ショウだって、みんなの料理を作っているじゃない」

 僕のご飯を作ってくれたエマとリナにお礼を言うと、真っ赤になって照れる。
 
「一緒に食べよう」

「「うん」」

「「「いただきます」」」

 エマとリナが僕の習慣に合わせて『いただきます』と言ってくれる。
 魔境に行かなくなって、毎日3度一緒にご飯を食べるようになった。

 死病を治して欲しいと集まってくる人を診察して回っているけれど、本気で狩りをしていた時より忙しくない。

 魔境で狩りをしていた頃は緊張していたけれど、今はそれほどでもない。
 死病の人たちの命を預かっている責任は、とても重く感じている。
 でも、狩りの時のように、一瞬の油断で誰かが殺される事はない。

 初めて診る時は緊張するけれど、1度でも薬草料理を食べた後なら、目を離している間に死んでしまった、なんてことは起こらない。
 だから安心してエマとリナと一緒に笑顔でご飯が食べられる。

「あ、そうだ、ホルモン焼きに合う赤ワインがあるの」
「そう、そう、露店で赤ワインを買ったの、一緒に飲もうよ」

「うん、飲もう、楽しみ」

 最初は14歳でお酒を飲むのに抵抗があった。
 でも、この世界ではもっと小さな子でもお酒を飲む。
 
 僕は神様のお陰で美味しい水もスポーツドリンクも飲み放題だ。
 でもこの世界の子供は、少なくともこの国の子は、水に困っている。
 この国は水の質が悪くて、生水を飲むと死ぬ事があるのだ。

 だから少しでも安全な飲み物を求めてお酒が造られるようになった。
 ワインの原料になるブドウは貴重なので、平民でもめったに飲めない。
 まして貧民がワインを飲むなんて夢のまた夢だ。

 平民の間でよく飲まれているのは大麦から造ったエール。
 少し余裕のある人がリンゴから造ったシードルを飲む。

 食べるのが好きなエマとリナが、めったに手に入らない赤ワインを露店で見かけて、大金を払ってでも買う気持ちは分かる。
 その赤ワインを僕と一緒に飲もうとする気持ちがうれしい。

「「「かんぱい」」」

 エマとリナがもの凄く美味しそうに飲んでいる。
 この世界に来て初めてお酒を飲んだ僕には、赤ワインが美味しいのか不味いのか分からないけれど、エマとリナが楽しそうにしているから幸せだ。

「エマもリナも赤ワインが好きなの?」

「私はお酒なら何でも好きよ」
「私もお酒は何でも好き」

「エールとシードルとワインなら何が好きなの?」

「どれとは決められないわ、甘みが強いお酒なら何でも好きよ」
「私も甘いお酒が好き、だからエールよりはシードルかワインね」

 商業ギルドに使いを出して、甘いお酒を買い占めさせよう。
 いや、神様にお願いして甘いお酒を造れるようにしてもらおう。

「ショウ様、治療を望む人を寝泊まりさせる新しい家が完成しました。
 食べ終わられたら見て回って頂けますか?」
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