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第1章
第21話:尾行
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「ショウが行くのなら私たちも行くわ」
「そうよ、私たちだけホテルで待っているなんて嫌よ」
荷役たちを説得して大城壁の外にある貧民街に行ける事になり、先にエマとリナをヒューズホテルに送ろうとしたのだが、素直にホテルに行ってくれなかった。
「貧民街にはヒューズホテルのようなトイレも風呂もないそうです。
見に行くなとは言いませんが、ホテルに戻る時間のある時にしませんか?」
「トイレとお風呂ですか……1度きれいなトイレを使うと、汚いトイレを使うのは嫌になってしまいましたが……」
「商業ギルドのトイレを使わせてもらったら大丈夫よ。
お風呂だって1日くらい入らなくても平気よ」
「寝るのはどうするんだい、ヒューズホテルのようなきれいな寝床じゃないよ?
ノミやシラミがいる貧民街の空き家で寝る気かい?
もしノミやシラミにつかれてしまったら、ヒューズホテルに泊まれなくなるよ」
「それは大丈夫、猟師特製の虫除けがあるから」
「食事も大丈夫よ、みんなのライ麦堅パンと一緒に自分たちの分も買うから」
僕はエマとリナの説得に失敗してしまった。
失敗してしまった以上、パーティーメンバーを置き去りにはできない。
無理に置いて行っても、エマとリナなら必ず追いかけてくる。
僕の目の届かない所で2人が好き勝手に動くのは危険過ぎる。
連れて行くしかないのだが、完璧な安全は保障できない。
貧民街に住んでいる者たちが全員善人とは限らない。
王都に出てきた悪人全員が冒険者ギルドに入ったとは限らない。
冒険者ギルドに善人がいたように、貧民街にも悪人がいるはずだ。
今日雇った荷役は襲ってこないと思うが、他の者たちは分からない。
僕たちが貧乏人なら襲われないかもしれないが、僕は貧民街の人たちの理性と良識を狂わせるくらいの大金を持っている。
「貧民街が危険なのは分かっているよね?
男の僕よりも女のエマとリナの方が危険だと分かっているよね?」
「ええ、分かっているわ、でも私たちなら撃退できるわ」
「撃退できないくらいの人数で襲って来たとしても、逃げる事くらいはできるわ」
「僕たちが雇った人たちは、貧民街では3流だよ。
もっと強い人たちが善人だとは限らないんだよ」
「分かっているわ、でもそんな人たちにも勝てると思うから行くのよね?」
「ショウなら簡単に撃退できるのでしょう?」
「僕の力に頼るのかい?」
「そうよ、パーティーメンバーは互いを信じて戦うと言ったのはショウよ」
「そうよ、私たちだけ安全なホテルにはいられないわ」
屁理屈だと言いたいが、言えない。
僕がエマとリナを心配して無理矢理パーティーを組んだように、エマとリナが僕を心配してついてくる気なのに、無理矢理残す事はできない。
「分かった、どうしてもついてくると言うなら、安全を買うために金を使おう。
貧民たちが罪を犯さなくても安定してお金を稼げるようにする。
多くの住民を味方に付けて、数で悪人たちを圧倒する」
エマとリナを貧民街に連れて行くなら、予定していた以上に安全を優先しなければいけないし、人殺しはもちろん暴力もできるだけさけたい。
特に僕たちが雇った人たちとは争わないようにしたい。
準備は全くできていないし資金も少ないけれど、子ども食堂を始めよう。
働けない者には無料で食糧を配って味方に付ける。
働く気のある者を雇って人並みの生活ができるようにする。
そうすれば襲ってくる者が激減するだろう。
「貧民街の人たちを味方に付けるって、どうする気なの?」
「まさか、貧民街の人を全員雇う気なの?」
「今言っただろう、全員雇う必要はないよ。
悪人よりも多くの住民を味方につければいいだけだよ。
ヒューズホテルに泊まるのに必要な2000アルで100個のパンを買うのさ。
それで100人の住民を味方にできる。
家族持ちが多いから100家族を味方につけられる」
「何を基準に100人で好いと言っているか分からないけれど、ショウがそれで安全だと言うのならかまわないわ」
「私たちのホテル代1200アルを渡せばいいのね」
荷役の47人は僕たちの会話を黙って聞いていた。
僕たちが貧民街の事を好き勝手言うのを黙って聞いてくれていた。
内心腹を立てていたのかも知れないが、黙って聞いてくれていた。
いつものパン屋でライ麦堅パンを買おうとしたのだが、127個もなかった。
仕方がないので他のパン屋を教えてもらって足らない分を買った。
1軒では足らない分を全部そろえられなかったので、2軒3軒と寄った。
荷役に昼食分として渡すのはライ麦堅パンで良いのだが、自分が食べる分とエマとリナが食べる分は、もっと美味しいパンが食べたいと思ってしまった。
パンだけでなく、チーズや肉も美味しい物が食べたいと思ってしまった。
お金がないのならともかく、結構な額を稼いでいる。
お金があるのに不味い物を食べる気にはなれなかった。
朝晩に食べる、柔らかくて小麦の風味が豊かな白パンが3人分。
グレーボアのバラ肉を絶妙な塩加減で燻製したベーコンが3人分。
ウシ系の魔獣、タマラオの乳で作られたクセの少ないチーズが3人前。
ところが、食べたい物を買っている間に敵対している連中に見つかってしまった。
連中は密かに後をつけているつもりなのだろうが、僕には丸分かりだった。
初日に叩きのめしたパーティーのクランなのか、エマとリナを助けた時に叩き潰したパーティーのクランなのか分からないが、敵意むき出しの連中に後を付けられ
「そうよ、私たちだけホテルで待っているなんて嫌よ」
荷役たちを説得して大城壁の外にある貧民街に行ける事になり、先にエマとリナをヒューズホテルに送ろうとしたのだが、素直にホテルに行ってくれなかった。
「貧民街にはヒューズホテルのようなトイレも風呂もないそうです。
見に行くなとは言いませんが、ホテルに戻る時間のある時にしませんか?」
「トイレとお風呂ですか……1度きれいなトイレを使うと、汚いトイレを使うのは嫌になってしまいましたが……」
「商業ギルドのトイレを使わせてもらったら大丈夫よ。
お風呂だって1日くらい入らなくても平気よ」
「寝るのはどうするんだい、ヒューズホテルのようなきれいな寝床じゃないよ?
ノミやシラミがいる貧民街の空き家で寝る気かい?
もしノミやシラミにつかれてしまったら、ヒューズホテルに泊まれなくなるよ」
「それは大丈夫、猟師特製の虫除けがあるから」
「食事も大丈夫よ、みんなのライ麦堅パンと一緒に自分たちの分も買うから」
僕はエマとリナの説得に失敗してしまった。
失敗してしまった以上、パーティーメンバーを置き去りにはできない。
無理に置いて行っても、エマとリナなら必ず追いかけてくる。
僕の目の届かない所で2人が好き勝手に動くのは危険過ぎる。
連れて行くしかないのだが、完璧な安全は保障できない。
貧民街に住んでいる者たちが全員善人とは限らない。
王都に出てきた悪人全員が冒険者ギルドに入ったとは限らない。
冒険者ギルドに善人がいたように、貧民街にも悪人がいるはずだ。
今日雇った荷役は襲ってこないと思うが、他の者たちは分からない。
僕たちが貧乏人なら襲われないかもしれないが、僕は貧民街の人たちの理性と良識を狂わせるくらいの大金を持っている。
「貧民街が危険なのは分かっているよね?
男の僕よりも女のエマとリナの方が危険だと分かっているよね?」
「ええ、分かっているわ、でも私たちなら撃退できるわ」
「撃退できないくらいの人数で襲って来たとしても、逃げる事くらいはできるわ」
「僕たちが雇った人たちは、貧民街では3流だよ。
もっと強い人たちが善人だとは限らないんだよ」
「分かっているわ、でもそんな人たちにも勝てると思うから行くのよね?」
「ショウなら簡単に撃退できるのでしょう?」
「僕の力に頼るのかい?」
「そうよ、パーティーメンバーは互いを信じて戦うと言ったのはショウよ」
「そうよ、私たちだけ安全なホテルにはいられないわ」
屁理屈だと言いたいが、言えない。
僕がエマとリナを心配して無理矢理パーティーを組んだように、エマとリナが僕を心配してついてくる気なのに、無理矢理残す事はできない。
「分かった、どうしてもついてくると言うなら、安全を買うために金を使おう。
貧民たちが罪を犯さなくても安定してお金を稼げるようにする。
多くの住民を味方に付けて、数で悪人たちを圧倒する」
エマとリナを貧民街に連れて行くなら、予定していた以上に安全を優先しなければいけないし、人殺しはもちろん暴力もできるだけさけたい。
特に僕たちが雇った人たちとは争わないようにしたい。
準備は全くできていないし資金も少ないけれど、子ども食堂を始めよう。
働けない者には無料で食糧を配って味方に付ける。
働く気のある者を雇って人並みの生活ができるようにする。
そうすれば襲ってくる者が激減するだろう。
「貧民街の人たちを味方に付けるって、どうする気なの?」
「まさか、貧民街の人を全員雇う気なの?」
「今言っただろう、全員雇う必要はないよ。
悪人よりも多くの住民を味方につければいいだけだよ。
ヒューズホテルに泊まるのに必要な2000アルで100個のパンを買うのさ。
それで100人の住民を味方にできる。
家族持ちが多いから100家族を味方につけられる」
「何を基準に100人で好いと言っているか分からないけれど、ショウがそれで安全だと言うのならかまわないわ」
「私たちのホテル代1200アルを渡せばいいのね」
荷役の47人は僕たちの会話を黙って聞いていた。
僕たちが貧民街の事を好き勝手言うのを黙って聞いてくれていた。
内心腹を立てていたのかも知れないが、黙って聞いてくれていた。
いつものパン屋でライ麦堅パンを買おうとしたのだが、127個もなかった。
仕方がないので他のパン屋を教えてもらって足らない分を買った。
1軒では足らない分を全部そろえられなかったので、2軒3軒と寄った。
荷役に昼食分として渡すのはライ麦堅パンで良いのだが、自分が食べる分とエマとリナが食べる分は、もっと美味しいパンが食べたいと思ってしまった。
パンだけでなく、チーズや肉も美味しい物が食べたいと思ってしまった。
お金がないのならともかく、結構な額を稼いでいる。
お金があるのに不味い物を食べる気にはなれなかった。
朝晩に食べる、柔らかくて小麦の風味が豊かな白パンが3人分。
グレーボアのバラ肉を絶妙な塩加減で燻製したベーコンが3人分。
ウシ系の魔獣、タマラオの乳で作られたクセの少ないチーズが3人前。
ところが、食べたい物を買っている間に敵対している連中に見つかってしまった。
連中は密かに後をつけているつもりなのだろうが、僕には丸分かりだった。
初日に叩きのめしたパーティーのクランなのか、エマとリナを助けた時に叩き潰したパーティーのクランなのか分からないが、敵意むき出しの連中に後を付けられ
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