異世界子ども食堂:通り魔に襲われた幼稚園児を助けようとして殺されたと思ったら異世界に居た。

克全

文字の大きさ
上 下
22 / 57
第1章

第19話:人気者

しおりを挟む
「すみません、荷役は20人と言われていたのですが、日当はいらないので薬草の採取や鳥を運ぶのに連れて行って欲しいと言う者が集まってしまいました」

 グレーボアを狩った翌日、東大城門を出ると47人の貧民が集まっていた。

「ライ麦堅パンは20個しか用意していないが、それでも良いのかい?」

「勝手に集まった者までパンがもらえるとは思っていません。
 私たちがいただいたライ麦堅パンを分けて食べさせていただきます。
 昨日のように鳥を分けて頂ければ十分です」

「そういう事ならついて来てくれてかまわない」

 予定以上の大人数、47人もの貧民を連れて東南魔境に入った。
 さすがに脚の弱い者は連れてこなかったのだろう。
 予定していた早さで魔境の奥に進めた。

 昨日一昨日と同じように薬草を集めながら奥に進んだ。
 僕が指弾で狩った中小の鳥を拾いながら奥に進んだ。

 1番数を狩れるのは、商業ギルドで買ってもらえない、美味しくない小鳥だ。
 次に狩れるのが、3羽で1アルの価値しかないスズメくらいの小鳥だ。

 色鮮やかな小鳥は羽が飾りに使えるので1羽で1アルから2アル、美味しい小鳥も1羽で1アルになるそうだが、興味はない。
 
 少し大きな魔鳥で、極小でも魔石があれば10アルで売れる。
 カラスやハトくらいの大きさでも、魔石のない鳥は3アルにしかならないし、食べてみたいとも思わないので、全部荷役に渡す。
 
 1度渡した鳥や魔鳥はどのようにしてくれてもかまわない。
 売りたければ売れば良い、食べたければ食べて良い。
 僕としては、まだ始められない子ども食堂の代わりに渡しているだけだ。

「獲物を探してくるわ」
「大物よりも数を優先するわ」

 エマとリナがそう言って離れて行った。
 心優しいエマとリナは、集まった全員に日当を渡したいのだろう。

 ボオオオオオ、ボオオオオオ、ボオオオオオ

 1時間ほどして、独特の鳴き声をあげながらダチョウが走ってきた。
 ダチョウとは言っているが、テレビで観たダチョウとは違うそうだ。

 異神眼で確かめた事があるのだが、かなり身体が大きくて群の頭数も多い、地球にいるダチョウとは少し違う魔鳥だ。

「僕に加護を与えてくださっているオキナガタラシヒメノミコト様、強大な魔獣を狩れる力を授けてください、荷役たちを守れる力を授けてください【身体強化】」

 200kgくらいのダチョウが50頭くらい走ってきた。
 本気で蹴られると人間の頭など簡単に潰れてしまうそうだ。
 荷役たちを襲いそうなダチョウを優先的に狩る!

 左右の両手に鉄剣を握り、ダチョウの首をスパスパ刎ねる。
 頭が飛んでいったダチョウの首から血が吹き出す。
 走りながら血抜きができるので、この狩り方が1番効率が良い。

 200kgのダチョウだと、担い棒を使って肩で担ぐにしても、4人で1頭運ぶのが精一杯だろう。

 今日は47人いるので、無理をして3人で運ぶ組を1つだけ作れば、12頭のダチョウを狩ることができる。

 僕が1人で4頭運び、エマとリナが1頭運んでくれるとしたら、19頭を運べる。
 荷役たちを襲って逃げようとするダチョウから順に狩る。
 運べないダチョウまで殺す気はないので、他はおどかして外回りさせる。

「今日はたくさん狩れたので、集まってくれた全員にダチョウを運んでもらいたい。
 日当は商業ギルドを通して雇ったのと同じ50アル。
 昼食用のライ麦堅パンは帰りに買って渡します、どうでしょう?」

「ありがとうございます、助かります」
「がんばって運ばせていただきます」
「ライ麦堅パンがいただけたら、家で待つ子供たちがよろこびます」
「「「「「ありがとうございます」」」」」

 全員がよろこんで運ぶと言ってくれたので、担い棒に使う硬くて丈夫な魔境の木を人数分斬り倒した。

 昨日一昨日手伝ってくれた荷役は僕のやり方を知ってくれているので、獲物を固定するための樹皮をナイフや短剣ではいでくれる。

「ふん、足の速いダチョウを19頭も狩るなんて、やるじゃない」
「偉そうな口を利くだけの事があると認めてあげるわ」

 ダチョウたちから少し遅れてエマとリナが戻ってきた。
 最初は息をするのも苦しそうだったけど、直ぐに元通りになった。
 息を整えて直ぐに少し照れながらほめてくれる。
 
「エマとリナも凄いね、左右に逃がさず正確に追い込むのは難しいのに」

「な、何を言っているの、私たちなら当然のことよ!」
「そ、そうよ、この程度の事ではできて当たり前よ!」

「いやいや、そう簡単にできる事じゃないよ。
 ダチョウの脚力はもの凄い、急所を蹴られたら即死するくらいもの凄い。
 そのダチョウを思いのままに追い込めるのは、1流の猟師だけだよ」

「そ、そんなにほめたって好きにならないからね!」
「そ、そんな口説き文句に騙されたりしないんだからね!」

 いつものように楽しく言い合いながら魔境から王都に戻る。
 肩に食い込むくらい重いダチョウを運んでいる荷役たちもうれしそうだ。
 重くて痛くて苦しいが、思っていた以上の物が手に入るからだろう。

 信用があって力もある者から商業ギルドの仕事がもらえる。
 会員になったばかりの僕に雇われる荷役は、荷役の中でも2流や3流なのだろう。
 無理矢理押しかけて来た荷役は、仕事がもらえない非力な者たちなのだろう。

 そんな人たちが1流の荷役と同じ50アル稼げるのだ。
 いや、1流の荷役以上の報酬、中小の鳥やライ麦堅パンまでもらえるのだ。

 さっきも言っていたが、家で待つ子供たちにライ麦堅パンを持って帰れるのがうれしいのだろう。

「左右の警戒をおこたるな、ケガなく家まで帰らないと意味がないぞ」

 心配のし過ぎだとは思うが、油断して魔獣の奇襲される訳にはいかない。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

異世界子供会:呪われたお母さんを助ける!

克全
児童書・童話
常に生死と隣り合わせの危険魔境内にある貧しい村に住む少年は、村人を助けるために邪神の呪いを受けた母親を助けるために戦う。村の子供会で共に学び育った同級生と一緒にお母さん助けるための冒険をする。

盲目魔女さんに拾われた双子姉妹は恩返しをするそうです。

桐山一茶
児童書・童話
雨が降り注ぐ夜の山に、捨てられてしまった双子の姉妹が居ました。 山の中には恐ろしい魔物が出るので、幼い少女の力では山の中で生きていく事なんか出来ません。 そんな中、双子姉妹の目の前に全身黒ずくめの女の人が現れました。 するとその人は優しい声で言いました。 「私は目が見えません。だから手を繋ぎましょう」 その言葉をきっかけに、3人は仲良く暮らし始めたそうなのですが――。 (この作品はほぼ毎日更新です)

【完結】イケメン旦那と可愛い義妹をゲットして、幸せスローライフを掴むまで

トト
児童書・童話
「私も異世界転生して、私を愛してくれる家族が欲しい」  一冊の本との出会いが、平凡女子をミラクルシンデレラに変える

ローズお姉さまのドレス

有沢真尋
児童書・童話
最近のルイーゼは少しおかしい。 いつも丈の合わない、ローズお姉さまのドレスを着ている。 話し方もお姉さまそっくり。 わたしと同じ年なのに、ずいぶん年上のように振舞う。 表紙はかんたん表紙メーカーさまで作成

魔法が使えない女の子

咲間 咲良
児童書・童話
カナリア島に住む九歳の女の子エマは、自分だけ魔法が使えないことを悩んでいた。 友だちのエドガーにからかわれてつい「明日魔法を見せる」と約束してしまったエマは、大魔法使いの祖母マリアのお使いで魔法が書かれた本を返しに行く。 貸本屋ティンカーベル書房の書庫で出会ったのは、エマそっくりの顔と同じエメラルドの瞳をもつ男の子、アレン。冷たい態度に反発するが、上から降ってきた本に飲み込まれてしまう。

処理中です...