上 下
20 / 57
第1章

第17話:グレーボア

しおりを挟む
「「「「「昨日は差し入れありがとうございました。
 精一杯働かせていただきますので、よろしくお願いします」」」」」

 貧民街の荷役10人が深々と頭を下げてお礼を言ってくれる。
 昨日ギルド職員を通じて差し入れした中小の鳥34羽の効果だろう。

 ギルド職員が必要な人数と条件を知らせに王都外の貧民街に行くと聞いたので、指弾の練習ついでに狩った中小の鳥で、商業ギルドで買い取ってもらえない奴を持って行ってもらったのだ。

「よろこんでもらえたのなら良かった、これは今日の昼食だ、運んでくれ」

「「「「「え?!」」」」」
「私たちは10人なのですが?」

「力仕事をしてもらうんだ、足らないと力が出ないだろう?
 多いのなら残りを晩飯にしてくれればいい」

「「「「「ありがとうございます」」」」」

 俺とエマとリナは、昼食用に買ったライ麦堅パンを荷役たちに渡した。
 荷役の昼食は雇い主が支給すると教えてもらったので、通常は1食用の小さいライ麦パンの所を、3人前の大きくて腹持ちがよくて日持ちもするライ麦堅パンを1人1つずつ用意したのだが、よろこんでもらえてよかった。

「その代わり、雇っている間は休みなく働いてもらう。
 商業ギルドから伝えてもらっているが、途中で集めた薬草はこちらのものになる」

「はい、聞いています。
 家に背負子が有る者を選んできました」

 荷役の代表と思われる者が1歩前に出て答えた。

「俺たち3人が前を歩く、エマとリナが集めて欲しい薬草を教える。
 ついて来てくれ」

「「「「「はい!」」」」」

 昨日と同じように3人で魔境の奥に進んだが、今日は10人の荷役がついてくる。
 エマとリナが指示した薬草を集めながらついてくる。
 元々薬草の知識があるのだろう、軽く言われただけで採取できている。

 シュン、ドサ

「歩きながら鳥を狩る、集めてくれ」

「はっ、はい!」

 今日も指弾の練習を兼ねて鳥を狩る。
 それほど大きな鳥はいないが、中小の鳥はけっこういる。
 スズメくらい小鳥だと、売る場合は3羽で1アルの値しかつかない。

 だが、自分たちで食べるのなら1アル以上の価値がある。
 特に貧民街の人間には貴重な食材になっている。
 安値で売るよりは荷役に渡した方がよろこんでもらえるので価値がある。

「うお、まただ、こんな簡単に狩れるのか?」

 この程度の事で驚くとは思わなかった。
 もっと時間をかけて異神眼で調べておけばよかった。
 神々の祝福を得ていたらこれくらい簡単にできるだろう?

 妻子がいる者を優先的に雇っていると聞いたが、長く生きているのに神々の祝福を得ていないのだろうか?

 ああ、よく考えれば、神々から良いスキルを与えられている者は貧民にならない。
 生きていくのに役に立たないスキルしかもらえなかった者、あるいはスキルを与えられなかった者が、貧民になっているのかもしれない。

「獲物を追い込んで来るわ」
「逃さないでよ」

 エマとリナがそう言って離れて行った。
 僕が指弾で鳥をたくさん狩っているので焦ったのかもしれない。

 2時間ほど魔境の奥に向かって歩いて、結構な量の薬草と鳥が集まった。
 荷役たちの背負子1杯とまではいわないが、8割くらいは入っていた。

 楽し気に歩いていた荷役たちが一気に緊張した。
 直ぐに獲物が追われて来ると思ったのだろう。

「良い獲物を見つけて追い込んで来るのには時間がかかります。
 直ぐに獲物を見つけられたら別だが、1時間や2時間はかかると思ってください。
 それまではこれまで通り薬草と鳥を集めてください」

「はい、わかりました、お前ら緊張しすぎるなよ、帰るまで身心がもたないぞ」

 荷役の代表が僕に返事をした後で他の者たちに言う。
 魔境の獲物を運ぶ仕事に慣れていると思ったが、違うのだろうか?

 ああ、そうか、以前から貧民街の人間を荷役に雇っている人がいるんだ。
 荷運びに慣れた者ほど、以前から貧民街の人間を雇っている、実績のある雇い主の所に行く、初めて雇う僕の所に良い荷役は集まらない。

 ブッヒー!

 エマとリナが獲物を探しにパーティーを離れて1時間。
 コンスタンティナ師匠の所にいる時に何度も狩ったグレーボアが、敵と戦う時に出す声が聞こえて来た。

「僕を加護してくださっているオキナガタラシヒメノミコト様、パーティーメンバーにケガをさせる事無くグレーボアを狩る力を授けてください【身体強化】」

 エマとリナががんばったのか、これまでよりも数の多い群だった。
 グレーボアは母親を頂点とした雌が群れをつくり、雄は単独で暮らしている。
 だから雄は1歳以下の子供しかいない。

 パッと見ただけの推定だが、300kg級1頭、200㎏級4頭、50kg級8頭の群れだった。

 足元の悪い魔境だから、力のある男が担い棒を使ったとしても、300kg級を運ぶのに6人は必要だろう。

 僕なら、左右と前後に振り分けたら、折れない担い棒があれば、800kgの重さでも軽々と運べる、200kgのグレーボアを4頭運べる。

 50kgのグレーボアをそのまま背中に担ぐと背負子がじゃまになる。
 2頭のグレーボアを担い棒にくくって2人で肩にかつぐのなら、背負子の鳥と薬草を捨てないで運べる。

 エマとリナなら、50kgのグレーボア4頭を担い棒にくくって運べるだろう。
 厳しいなら300kgを担ぐ荷役6人と1人ずつ交替しながら運んでもいい。

 などと考えながら、牙を振るって突っ込んで来るグレーボアを狩る。
 レッドディアの時と同じように、流れるような動きで左右の頸動脈を斬る。
 失血死するまで好きに走らせる。

「数が多くて重いから、硬い木を斬って担い棒にする。
 俺が担い棒を斬る間に丈夫な樹皮をはいでロープ代わりに使えるようにしてくれ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

運よく生まれ変われたので、今度は思いっきり身体を動かします!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞」重度の心臓病のため、生まれてからずっと病院のベッドから動けなかった少年が12歳で亡くなりました。両親と両祖父母は毎日のように妾(氏神)に奇跡を願いましたが、叶えてあげられませんでした。神々の定めで、現世では奇跡を起こせなかったのです。ですが、記憶を残したまま転生させる事はできました。ほんの少しだけですが、運動が苦にならない健康な身体と神与スキルをおまけに付けてあげました。(氏神談)

両親大好きっ子平民聖女様は、モフモフ聖獣様と一緒に出稼ぎライフに勤しんでいます

井藤 美樹
児童書・童話
 私の両親はお人好しなの。それも、超が付くほどのお人好し。  ここだけの話、生まれたての赤ちゃんよりもピュアな存在だと、私は内心思ってるほどなの。少なくとも、六歳の私よりもピュアなのは間違いないわ。  なので、すぐ人にだまされる。  でもね、そんな両親が大好きなの。とってもね。  だから、私が防波堤になるしかないよね、必然的に。生まれてくる妹弟のためにね。お姉ちゃん頑張ります。  でもまさか、こんなことになるなんて思いもしなかったよ。  こんな私が〈聖女〉なんて。絶対間違いだよね。教会の偉い人たちは間違いないって言ってるし、すっごく可愛いモフモフに懐かれるし、どうしよう。  えっ!? 聖女って給料が出るの!? なら、なります!! 頑張ります!!  両親大好きっ子平民聖女様と白いモフモフ聖獣様との出稼ぎライフ、ここに開幕です!!

生まれたばかりですが、早速赤ちゃんセラピー?始めます!

mabu
児童書・童話
超ラッキーな環境での転生と思っていたのにママさんの体調が危ないんじゃぁないの? ママさんが大好きそうなパパさんを闇落ちさせない様に赤ちゃんセラピーで頑張ります。 力を使って魔力を増やして大きくなったらチートになる! ちょっと赤ちゃん系に挑戦してみたくてチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんが宜しくお願いします。 誤字や意味がわからない時は皆様の感性で受け捉えてもらえると助かります。 流れでどうなるかは未定なので一応R15にしております。 現在投稿中の作品と共に地道にマイペースで進めていきますので宜しくお願いします🙇 此方でも感想やご指摘等への返答は致しませんので宜しくお願いします。

理想の王妃様

青空一夏
児童書・童話
公爵令嬢イライザはフィリップ第一王子とうまれたときから婚約している。 王子は幼いときから、面倒なことはイザベルにやらせていた。 王になっても、それは変わらず‥‥側妃とわがまま遊び放題! で、そんな二人がどーなったか? ざまぁ?ありです。 お気楽にお読みください。

村から追い出された変わり者の僕は、なぜかみんなの人気者になりました~異種族わちゃわちゃ冒険ものがたり~

めーぷる
児童書・童話
グラム村で変わり者扱いされていた少年フィロは村長の家で小間使いとして、生まれてから10年間馬小屋で暮らしてきた。フィロには生き物たちの言葉が分かるという不思議な力があった。そのせいで同年代の子どもたちにも仲良くしてもらえず、友達は森で助けた赤い鳥のポイと馬小屋の馬と村で飼われている鶏くらいだ。 いつもと変わらない日々を送っていたフィロだったが、ある日村に黒くて大きなドラゴンがやってくる。ドラゴンは怒り村人たちでは歯が立たない。石を投げつけて何とか追い返そうとするが、必死に何かを訴えている. 気になったフィロが村長に申し出てドラゴンの話を聞くと、ドラゴンの巣を荒らした者が村にいることが分かる。ドラゴンは知らぬふりをする村人たちの態度に怒り、炎を噴いて暴れまわる。フィロの必死の説得に漸く耳を傾けて大人しくなるドラゴンだったが、フィロとドラゴンを見た村人たちは、フィロこそドラゴンを招き入れた張本人であり実は魔物の生まれ変わりだったのだと決めつけてフィロを村を追い出してしまう。 途方に暮れるフィロを見たドラゴンは、フィロに謝ってくるのだがその姿がみるみる美しい黒髪の女性へと変化して……。 「ドラゴンがお姉さんになった?」 「フィロ、これから私と一緒に旅をしよう」 変わり者の少年フィロと異種族の仲間たちが繰り広げる、自分探しと人助けの冒険ものがたり。 ・毎日7時投稿予定です。間に合わない場合は別の時間や次の日になる場合もあります。

冒険者ではない、世界一のトレジャーハンターになる!

克全
児童書・童話
「第1回きずな児童書大賞参加作」宝船竜也は先祖代々宝探しに人生を賭けるトレジャーハンターの家に生まれた。竜也の夢は両親や祖父母のような世界1番のトレジャーハンターになる事だ。だが41年前、曾祖父が現役の時代に、世界に突然ダンジョンが現れた。ダンジョンの中でだけレベルアップしたり魔術が使えたりする上に、現れるモンスターを倒すと金銀財宝貴金属を落とす分かって、世は大ダンジョン時代となった。その時代に流行っていたアニメやラノベの影響で、ダンジョンで一攫千金を狙う人たちは冒険者と呼ばれるようになった。だが、宝船家の人たちは頑なに自分たちはトレジャーハンターだと名乗っていた。

水色オオカミのルク

月芝
児童書・童話
雷鳴とどろく、激しい雨がやんだ。 雲のあいだから光が差し込んでくる。 天から地上へとのびた光の筋が、まるで階段のよう。 するとその光の階段を、シュタシュタと風のような速さにて、駆け降りてくる何者かの姿が! それは冬の澄んだ青空のような色をしたオオカミの子どもでした。 天の国より地の国へと降り立った、水色オオカミのルク。 これは多くの出会いと別れ、ふしぎな冒険をくりかえし、成長して、やがて伝説となる一頭のオオカミの物語。

【完結】玩具の青い鳥

かのん
児童書・童話
 かつて偉大なる王が、聖なる塔での一騎打ちにより、呪われた黒竜を打倒した。それ以来、青は幸福を、翼は王を、空は神の領域を示す時代がここにある。  トイ・ブルーバードは玩具やとして国々を旅していたのだが、貿易の町にてこの国の王女に出会ったことでその運命を翻弄されていく。  王女と玩具屋の一幕をご覧あれ。

処理中です...