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第一章

第2話:野望

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 カタカタ、ゴトゴトと跳ね回る荷馬車でドラゴンダンジョンまで運ばれました。
 途中で下劣な騎士や徒士に襲われるかと思いましたが、それはありませんでした。
 狂竜への生贄に手出ししたら、自分だけでなく家族まで身代わりに竜の生贄にすると、国王と王妃に厳しく脅されたせいだと思われます。
 よほどの馬鹿でない限り、性欲よりも命の方を優先しますよね。

 パジェット王国はそれなりの歴史を誇っています。
 前王朝や前々王朝の時代も考えれば、大陸屈指の歴史を誇る地域です。
 大陸中央部にあるため、四方から攻められかねない立地でもあります。
 そのため、王都は他国から奇襲急襲を受けないように、領地の中央に位置していて、侵攻を受けた国境に援軍を送り易くもなっています。

 ですがその分、危機感が希薄になり、王都の貴族や士族が堕落してしまった。
 それが今回の下劣な行為の遠因なのでしょう。
 この国は転換期を迎えているのかもしれません。
 この時期を上手く乗り越えないと、この国はよくて属国、悪くするとどこかの国に併合されてしまう事になるでしょう。

「ベアトリクス王女殿下、着きましたぞ」

 この護衛隊長は愚かで性格の悪い嫌味な騎士ですね。
 狂竜の生贄にされる可哀想な私に、嫌味を言って嗜虐心を満足させて何の意味があると思っているのでしょうか。
 国王が狂竜に少しでも王家を印象付けようと、私を自分の養女にしてから生贄にしようとしているのは、今回の狂竜騒動が真実だという証拠です。

 私を殺すためだけに狂竜の話しをでっちあげた訳ではないようです。
 現に冒険者の町は驚くほど寂れています。
 ドラゴンダンジョンの御陰で繁栄していた王国一豊かな町が、ゴーストタウンとまでは言いませんが、まるで活気を失っています。
 
「おい、騎士様よう、金を恵んでくれないか。
 なんなら金の代わりにその姫様を置いていってくれてもいいぜ」

 何所の町に行ってもこのようなバカで下劣な男はいるのですね。
 真っ当に働く弱い者から金を巻き上げて楽をしようとする。
 人の苦しむ姿を見て愉悦を感じる腐れ外道。
 こういう奴を見るとは腹が立って仕方がありません。
 ですが、外道ではありますが、よほど自分の強さに自信があるのでしょう。

「バカ者、王国騎士団に逆らってタダですむと思っているのか。
 このバカを殺してしまえ」

 当然の反応ですよね。
 実力ではなく血統だけで選ばれた愚劣な騎士団長とは言え、配下として与えられた兵力はそれなりにあります。
 騎士が一〇〇騎に従士が一〇〇〇兵。
 これだけの数を用意しなければ、安心して私をドラゴンダンジョンに送れない、情けないほど臆病な王家なのですが、この現状だとそれが正解だったのでしょうね。

「おお、おお、おお、おお。
 狂竜一匹殺せない、情けない王家とバッハマン公爵家が、この町の住民を皆殺しにすると言ってやがるぞ。
 このまま卑怯な連中に殺されていいのか、お前ら。
 こいつらを皆殺しにして、王家とバッハマン公爵家に思い知らせてやれ」

 あら、あら、あら。
 単なるバカかと思っていましたが、内戦を引き起こして成り上がろうとする野望家だったようですね。
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