上 下
2 / 10
第一章

第1話:断罪

しおりを挟む
「お前は竜聖女の役割を果たしていない。
 お前が力不足なせいで竜が暴れ出してしまい、ドラゴンダンジョンに入ることができなくなってしまったではないか。
 これでは狩りも採掘もできないではないか。
 国に大損害を与えたお前のような無能を、私の婚約者にしておくわけにはいかん。
 婚約を破棄して竜の生贄にするから覚悟しろ」

 このバカは何を言っているのでしょうか。
 自分が口にしている支離滅裂な言いがかりを理解しているのでしょうか。
 私が竜聖女にさせられたのは、ほんの十日前です。
 私の力不足で竜が現われてのではなく、私の前に竜聖女を務めていた、バッハマン公爵家のブリギッタの責任なのは誰の眼にも明らかではないですか。

「ほぉっほほほほほ。
 王太子殿下の申される通りですわ。
 竜が現れた責任は全部貴女にありますのよ、ベアトリクス。
 責任を取って竜の花嫁になるのよ、光栄でしょ。
 王太子殿下の妃は貴女の代わりに私がなってあげるわ」

 このバカは、そんな身勝手な言い分が通ると本気で思っているのでしょうか。
 そんな法も論もない無理無体が通るようでは、この国は滅んでしまいます。
 この国はちゃんとした法で統治されているのです。
 と、思っていたのですが、何時の間にか国の中枢が堕落していたようですね。
 王太子殿下とブリギッタの言葉を聞いて、多くの廷臣が頷いています。

「わたくしの父上と母上を、真っ当な廷臣と一緒にハーヴェイ王国使節団として宮廷から遠ざけたのは、このような愚かな謀略を仕掛けるためだったのですね」

「何が愚かだ。
 私が考えた策略を愚かだと言うのなら、その策略にまんまと引っかかったお前とアーダルベルトの方がよほど愚かだ」

 父上の事を爵位ではなく名前で呼び捨てにしますか。
 仮にも自分の大叔父に対して非礼極まりない言動ですね。
 内戦もハーヴェイ王国との戦争も恐れていないという事ですか。
 ならばこの愚かな策の後ろにコンプトン王国が控えているという事でしょうね。

「王太子殿下はこの国をコンプトン王国に売り渡すと言われるのですね。
 そのような愚かな事を国王陛下や王妃殿下が許されると思っておられるのですか」

 自分で口にしていながら期待薄だと分かっています。
 国王陛下や王妃殿下が正しい判断を下せる方なら、そもそもこのような事態にはなっていないのですから。
 王太子殿下やバッハマン公爵家の暴走を許したりはしませんからね。
 それとも国王陛下や王妃殿下は幽閉されてしまわれてしまわれたのでしょうか。

「ふん、父上も母上も私の考えに賛同してくださっておるわ。
 ハーヴェイ王国の手先となったアーダルベルトに王位を奪われるほど、父上も母上も愚かではないわ」

 なるほど、そういう事ですか。
 このバカはコンプトン王国の手先となったバルドゥイーン叔父に騙されて、自分が亡国に手を貸しているとは思ってもいないのですね。
 
「近衛騎士、ハーヴェイ王国の手先を捕らえて竜に捧げよ」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

貴方が選んだのは全てを捧げて貴方を愛した私ではありませんでした

ましゅぺちーの
恋愛
王国の名門公爵家の出身であるエレンは幼い頃から婚約者候補である第一王子殿下に全てを捧げて生きてきた。 彼を数々の悪意から守り、彼の敵を排除した。それも全ては愛する彼のため。 しかし、王太子となった彼が最終的には選んだのはエレンではない平民の女だった。 悲しみに暮れたエレンだったが、家族や幼馴染の公爵令息に支えられて元気を取り戻していく。 その一方エレンを捨てた王太子は着々と破滅への道を進んでいた・・・

命を狙われたお飾り妃の最後の願い

幌あきら
恋愛
【異世界恋愛・ざまぁ系・ハピエン】 重要な式典の真っ最中、いきなりシャンデリアが落ちた――。狙われたのは王妃イベリナ。 イベリナ妃の命を狙ったのは、国王の愛人ジャスミンだった。 短め連載・完結まで予約済みです。設定ゆるいです。 『ベビ待ち』の女性の心情がでてきます。『逆マタハラ』などの表現もあります。苦手な方はお控えください、すみません。

あなたが望んだ、ただそれだけ

cyaru
恋愛
いつものように王城に妃教育に行ったカーメリアは王太子が侯爵令嬢と茶会をしているのを目にする。日に日に大きくなる次の教育が始まらない事に対する焦り。 国王夫妻に呼ばれ両親と共に登城すると婚約の解消を言い渡される。 カーメリアの両親はそれまでの所業が腹に据えかねていた事もあり、領地も売り払い夫人の実家のある隣国へ移住を決めた。 王太子イデオットの悪意なき本音はカーメリアの心を粉々に打ち砕いてしまった。 失意から寝込みがちになったカーメリアに追い打ちをかけるように見舞いに来た王太子イデオットとエンヴィー侯爵令嬢は更に悪意のない本音をカーメリアに浴びせた。 公爵はイデオットの態度に激昂し、処刑を覚悟で2人を叩きだしてしまった。 逃げるように移り住んだリアーノ国で静かに静養をしていたが、そこに1人の男性が現れた。 ♡注意事項~この話を読む前に~♡ ※胸糞展開ありますが、クールダウンお願いします。  心拍数や血圧の上昇、高血糖、アドレナリンの過剰分泌に責任はおえません。 ※外道な作者の妄想で作られたガチなフィクションの上、ご都合主義です。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。イラっとしたら現実に戻ってください。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

記憶がないので離縁します。今更謝られても困りますからね。

せいめ
恋愛
 メイドにいじめられ、頭をぶつけた私は、前世の記憶を思い出す。前世では兄2人と取っ組み合いの喧嘩をするくらい気の強かった私が、メイドにいじめられているなんて…。どれ、やり返してやるか!まずは邸の使用人を教育しよう。その後は、顔も知らない旦那様と離婚して、平民として自由に生きていこう。  頭をぶつけて現世記憶を失ったけど、前世の記憶で逞しく生きて行く、侯爵夫人のお話。   ご都合主義です。誤字脱字お許しください。

【完結】夫は王太子妃の愛人

紅位碧子 kurenaiaoko
恋愛
侯爵家長女であるローゼミリアは、侯爵家を継ぐはずだったのに、女ったらしの幼馴染みの公爵から求婚され、急遽結婚することになった。 しかし、持参金不要、式まで1ヶ月。 これは愛人多数?など訳ありの結婚に違いないと悟る。 案の定、初夜すら屋敷に戻らず、 3ヶ月以上も放置されーー。 そんな時に、驚きの手紙が届いた。 ーー公爵は、王太子妃と毎日ベッドを共にしている、と。 ローゼは、王宮に乗り込むのだがそこで驚きの光景を目撃してしまいーー。 *誤字脱字多数あるかと思います。 *初心者につき表現稚拙ですので温かく見守ってくださいませ *ゆるふわ設定です

【完結】潔く私を忘れてください旦那様

なか
恋愛
「子を産めないなんて思っていなかった        君を選んだ事が間違いだ」 子を産めない お医者様に診断され、嘆き泣いていた私に彼がかけた最初の言葉を今でも忘れない 私を「愛している」と言った口で 別れを告げた 私を抱きしめた両手で 突き放した彼を忘れるはずがない…… 1年の月日が経ち ローズベル子爵家の屋敷で過ごしていた私の元へとやって来た来客 私と離縁したベンジャミン公爵が訪れ、開口一番に言ったのは 謝罪の言葉でも、後悔の言葉でもなかった。 「君ともう一度、復縁をしたいと思っている…引き受けてくれるよね?」 そんな事を言われて……私は思う 貴方に返す返事はただ一つだと。

婚約破棄が成立したので遠慮はやめます

カレイ
恋愛
 婚約破棄を喰らった侯爵令嬢が、それを逆手に遠慮をやめ、思ったことをそのまま口に出していく話。

婚約破棄直前に倒れた悪役令嬢は、愛を抱いたまま退場したい

矢口愛留
恋愛
【全11話】 学園の卒業パーティーで、公爵令嬢クロエは、第一王子スティーブに婚約破棄をされそうになっていた。 しかし、婚約破棄を宣言される前に、クロエは倒れてしまう。 クロエの余命があと一年ということがわかり、スティーブは、自身の感じていた違和感の元を探り始める。 スティーブは真実にたどり着き、クロエに一つの約束を残して、ある選択をするのだった。 ※一話あたり短めです。 ※ベリーズカフェにも投稿しております。

処理中です...