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第二章
北野大茶湯
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「与一郎、茶会の準備は出来たか」
「はい。奉行衆が滞りなく手配してくれています。茶の湯に執心している者は、上は大名から下は百姓町人を問わず、あらゆる者が来られるようにしております」
「余の政をどう考えているか、調べる手筈が整ったのだな」
「はい。伴天連を追放した事と、奴隷を解放したことは勿論、六宮を猶子とした事など、殿下の政を武家は勿論民もどう思っているか、忍びに聞き取らせる予定です」
「余も直接話を聞くが、余に胸襟を開いて本心を打ち明ける者は、とても少なくなった」
「殿下は天下人となられたのですから、言葉一つ間違っただけで、一族一門が滅ぶかもしれないのです。昔から仕えてきた者以外が、姿形だけではなく、心まで装うのも仕方がないでしょう」
「仕方あるまいのう。まあ、それはよい。それで、聚楽第はまだ完成せんのか」
「今少し時間がかかります」
「与右衛門は築城の名手ではなかったのか」
「単なる城ならば幾らでも早く造る事は出来ますが、殿下が朝廷で政をする為の政庁殿となる城ですから、隅々まで気を付けて築かなければなりません。更に伴天連が艦隊を引き連れて戻って来るとの噂もございます」
「そうだな。伴天連に誑かされたキリシタン共が、一向衆や根来衆のように一揆を起こしたら、領内が荒れるかもしれんのう」
「はい。万が一、十万の一揆勢が押し寄せてきても、守り切れる城にしなければなりませんから、簡単に完成させられる城ではありません」
「では完成するまでどうするかだが、亡き上様のように本丸に仮御殿を建てるか」
「それでは奇襲や暗殺に備えきれませんから、不便ではあるでしょうが、宝寺城で政を行って頂けますか」
「仕方あるまいのう。コエリョの奴がそんなに早く戻って来るとは思えんが、油断大敵じゃからな」
「はい。誰であろうと、兵を率いた者を殿下に近づけさせません。ですが殿下に害意を持った、女子供が近付くかもしれません」
「女遊びを控えよと申すのか」
「気心の知れた女となら、どれほど遊ばれても大丈夫ですが、殿下に恨みを持っている女子供は近づけられませんように」
「茶々の事を申しておるのか」
「浅井殿と柴田殿の事を考えれば、傾国の美女の疑いのある者を近づけてはいけません」
「黙れ。それ以上何も言うな。これ以上一言でも茶々の事をとやかく申したら、与一郎であろうと許さんぞ」
「はい。申し訳ありません」
「浅井と柴田に悪運を持ち込んだのは、正室であったお市の方様じゃ。茶々は関係ない」
「はい。申し訳ありません」
「与一郎こそ奥向きは大丈夫なのか。小六殿を泣かせるような事はしていまいな」
「人質も兼ねて、多くの大名国衆から婦女子が送られてきていますが、大切に預り手など付けておりません」
「そんな事を言わず、木下家の繁栄の為に、出来る限り多くの子を設けよ。これは氏の長者として命令じゃ」
「承りました」
「はい。奉行衆が滞りなく手配してくれています。茶の湯に執心している者は、上は大名から下は百姓町人を問わず、あらゆる者が来られるようにしております」
「余の政をどう考えているか、調べる手筈が整ったのだな」
「はい。伴天連を追放した事と、奴隷を解放したことは勿論、六宮を猶子とした事など、殿下の政を武家は勿論民もどう思っているか、忍びに聞き取らせる予定です」
「余も直接話を聞くが、余に胸襟を開いて本心を打ち明ける者は、とても少なくなった」
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「仕方あるまいのう。まあ、それはよい。それで、聚楽第はまだ完成せんのか」
「今少し時間がかかります」
「与右衛門は築城の名手ではなかったのか」
「単なる城ならば幾らでも早く造る事は出来ますが、殿下が朝廷で政をする為の政庁殿となる城ですから、隅々まで気を付けて築かなければなりません。更に伴天連が艦隊を引き連れて戻って来るとの噂もございます」
「そうだな。伴天連に誑かされたキリシタン共が、一向衆や根来衆のように一揆を起こしたら、領内が荒れるかもしれんのう」
「はい。万が一、十万の一揆勢が押し寄せてきても、守り切れる城にしなければなりませんから、簡単に完成させられる城ではありません」
「では完成するまでどうするかだが、亡き上様のように本丸に仮御殿を建てるか」
「それでは奇襲や暗殺に備えきれませんから、不便ではあるでしょうが、宝寺城で政を行って頂けますか」
「仕方あるまいのう。コエリョの奴がそんなに早く戻って来るとは思えんが、油断大敵じゃからな」
「はい。誰であろうと、兵を率いた者を殿下に近づけさせません。ですが殿下に害意を持った、女子供が近付くかもしれません」
「女遊びを控えよと申すのか」
「気心の知れた女となら、どれほど遊ばれても大丈夫ですが、殿下に恨みを持っている女子供は近づけられませんように」
「茶々の事を申しておるのか」
「浅井殿と柴田殿の事を考えれば、傾国の美女の疑いのある者を近づけてはいけません」
「黙れ。それ以上何も言うな。これ以上一言でも茶々の事をとやかく申したら、与一郎であろうと許さんぞ」
「はい。申し訳ありません」
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「そんな事を言わず、木下家の繁栄の為に、出来る限り多くの子を設けよ。これは氏の長者として命令じゃ」
「承りました」
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