四代目 豊臣秀勝

克全

文字の大きさ
上 下
92 / 103
第二章

北野大茶湯

しおりを挟む
「与一郎、茶会の準備は出来たか」
「はい。奉行衆が滞りなく手配してくれています。茶の湯に執心している者は、上は大名から下は百姓町人を問わず、あらゆる者が来られるようにしております」
「余の政をどう考えているか、調べる手筈が整ったのだな」
「はい。伴天連を追放した事と、奴隷を解放したことは勿論、六宮を猶子とした事など、殿下の政を武家は勿論民もどう思っているか、忍びに聞き取らせる予定です」
「余も直接話を聞くが、余に胸襟を開いて本心を打ち明ける者は、とても少なくなった」
「殿下は天下人となられたのですから、言葉一つ間違っただけで、一族一門が滅ぶかもしれないのです。昔から仕えてきた者以外が、姿形だけではなく、心まで装うのも仕方がないでしょう」
「仕方あるまいのう。まあ、それはよい。それで、聚楽第はまだ完成せんのか」
「今少し時間がかかります」
「与右衛門は築城の名手ではなかったのか」
「単なる城ならば幾らでも早く造る事は出来ますが、殿下が朝廷で政をする為の政庁殿となる城ですから、隅々まで気を付けて築かなければなりません。更に伴天連が艦隊を引き連れて戻って来るとの噂もございます」
「そうだな。伴天連に誑かされたキリシタン共が、一向衆や根来衆のように一揆を起こしたら、領内が荒れるかもしれんのう」
「はい。万が一、十万の一揆勢が押し寄せてきても、守り切れる城にしなければなりませんから、簡単に完成させられる城ではありません」
「では完成するまでどうするかだが、亡き上様のように本丸に仮御殿を建てるか」
「それでは奇襲や暗殺に備えきれませんから、不便ではあるでしょうが、宝寺城で政を行って頂けますか」
「仕方あるまいのう。コエリョの奴がそんなに早く戻って来るとは思えんが、油断大敵じゃからな」
「はい。誰であろうと、兵を率いた者を殿下に近づけさせません。ですが殿下に害意を持った、女子供が近付くかもしれません」
「女遊びを控えよと申すのか」
「気心の知れた女となら、どれほど遊ばれても大丈夫ですが、殿下に恨みを持っている女子供は近づけられませんように」
「茶々の事を申しておるのか」
「浅井殿と柴田殿の事を考えれば、傾国の美女の疑いのある者を近づけてはいけません」
「黙れ。それ以上何も言うな。これ以上一言でも茶々の事をとやかく申したら、与一郎であろうと許さんぞ」
「はい。申し訳ありません」
「浅井と柴田に悪運を持ち込んだのは、正室であったお市の方様じゃ。茶々は関係ない」
「はい。申し訳ありません」
「与一郎こそ奥向きは大丈夫なのか。小六殿を泣かせるような事はしていまいな」
「人質も兼ねて、多くの大名国衆から婦女子が送られてきていますが、大切に預り手など付けておりません」
「そんな事を言わず、木下家の繁栄の為に、出来る限り多くの子を設けよ。これは氏の長者として命令じゃ」
「承りました」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

日本が危機に?第二次日露戦争

歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。 なろう、カクヨムでも連載しています。

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

本能のままに

揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください! ※更新は不定期になると思います。

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

近江の轍

藤瀬 慶久
歴史・時代
全ては楽市楽座から始まった――― 『経済は一流、政治は三流』と言われる日本 世界有数の経済大国の礎を築いた商人達 その戦いの歴史を描いた一大叙事詩 『皆の暮らしを豊かにしたい』 信長・秀吉・家康の天下取りの傍らで、理想を抱いて歩き出した男がいた その名は西川甚左衛門 彼が残した足跡は、現在(いま)の日本に一体何をもたらしたのか ※この小説は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』で掲載しています

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

蒼雷の艦隊

和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。 よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。 一九四二年、三月二日。 スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。 雷艦長、その名は「工藤俊作」。 身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。 これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。 これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。

枢軸国

よもぎもちぱん
歴史・時代
時は1919年 第一次世界大戦の敗戦によりドイツ帝国は滅亡した。皇帝陛下 ヴィルヘルム二世の退位により、ドイツは共和制へと移行する。ヴェルサイユ条約により1320億金マルク 日本円で200兆円もの賠償金を課される。これに激怒したのは偉大なる我らが総統閣下"アドルフ ヒトラー"である。結果的に敗戦こそしたものの彼の及ぼした影響は非常に大きかった。 主人公はソフィア シュナイダー 彼女もまた、ドイツに転生してきた人物である。前世である2010年頃の記憶を全て保持しており、映像を写真として記憶することが出来る。 生き残る為に、彼女は持てる知識を総動員して戦う 偉大なる第三帝国に栄光あれ! Sieg Heil(勝利万歳!)

処理中です...