四代目 豊臣秀勝

克全

文字の大きさ
上 下
84 / 103
第二章

堅守

しおりを挟む
 秀吉の援軍が、毛利家と四国勢だけであったら、兵力不足で鶴賀城は苦しい戦いを強いられていただろう。
 大友宗麟の命令で肥前遠征していた利光宗魚が急ぎ戻り、討ち死にするような事になっていたかもしれない。
 だが今は、十万の豊臣兵が豊後を守りを固めていた。
 上原館には、三好秀次率いる四国勢を中心に四万の兵が籠っていた。
 丹生島城には、丹羽長重率いる丹羽軍を中核に三万の兵が籠っていた。
 そして肝心の鶴賀城には、宇喜多秀家率いる宇喜多軍を中核に三万の兵が籠っていた。
 だが島津家久は、鶴賀城に三万もの兵が籠っている事を知らなかった。
 家久軍が鶴賀城を攻撃しようとしたが、伏兵となっていた宇喜多軍が奇襲を仕掛けた。
 家久軍は侵攻中に八千の兵が増え、一万八千に兵力が増えていたが、急激に増えた兵を完全に統率出来ていなかった。
 一方宇喜多軍は、自軍一万五千兵だけで奇襲を仕掛けていたので、十分統率が取れていた。
 しかも奇襲を仕掛けた側と仕掛けられた側なので、圧倒的に宇喜多軍が有利だった。
 混乱する家久軍に対して、鶴賀城に隠れていた山陰山陽勢一万五千兵が城を討って出た。
 火の出るような山陰山陽勢の猛攻は、勇猛を謳われた島津軍を打ち負かした。
 宇喜多軍も手を緩めることなく攻め立て、遂に島津家久を捕虜にした。
 もし豊後に四国勢しかいなければ、仙石秀久が愚かな戦を仕掛けていたかもしれない。
 その犠牲となって、長宗我部信親と十河存保が討ち死にしていたかもしれない。
 愛息を失った長宗我部元親が乱心してしまったかもしれない。
 だが豊後には、三好秀次率いる十万の軍勢がおり、島津家久を捕虜とし、島津義弘を防ぎとめていた。
 この間に与一郎は肥前と筑後を調略し、一気に肥後にまで攻め込んだ。
 家久軍が破れ、肥前と筑後の国衆地侍が次々と寝返り、撤退路が塞がれることを恐れた島津義弘は、仕方なく後退することにした。
 だが三好秀次に付けられた黒田官兵衛が、みすみす島津義弘を見逃す訳がなく、丹羽勢三万に追撃をさせた。
 丹羽長重は十三歳と若かったが、叔父の丹羽秀重が後見し、歴戦の溝口秀勝・村上頼勝・坂井直政・江口正吉・太田牛一・戸田勝成などがいたため、戦場では後れを取るはずはなかった。
 だが残念な事に、若い長重に戦国を生き残った猛将達を御する力はなかった。
 叔父の秀重も力不足だった。
 先陣争いと手柄争いが起こってしまい、陣形が乱れに乱れてしまった。
 それを見逃す島津義弘ではなかった。
 侵攻後に増えた八千兵を切り捨て、薩摩兵が中核の一万兵で釣り野伏を仕掛け、散々に丹羽勢を討ち負かしたのだ。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

大東亜戦争を有利に

ゆみすけ
歴史・時代
 日本は大東亜戦争に負けた、完敗であった。 そこから架空戦記なるものが増殖する。 しかしおもしろくない、つまらない。 であるから自分なりに無双日本軍を架空戦記に参戦させました。 主観満載のラノベ戦記ですから、ご感弁を

裏長屋の若殿、限られた自由を満喫する

克全
歴史・時代
貧乏人が肩を寄せ合って暮らす聖天長屋に徳田新之丞と名乗る人品卑しからぬ若侍がいた。月のうち数日しか長屋にいないのだが、いる時には自ら竈で米を炊き七輪で魚を焼く小まめな男だった。

改造空母機動艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。  そして、昭和一六年一二月。  日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。  「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。

SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。 伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。 そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。 さて、この先の少年の運命やいかに? 剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます! *この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから! *この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。

旧式戦艦はつせ

古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

処理中です...