四代目 豊臣秀勝

克全

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第二章

飴と鞭

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「どうであった」
「なかなか難しい事でございます」
「どう言う事だ」
「管領や守護が代わるたびに、領地争いが起こり、幾年前を基準にするかで境界が変わります。それに寺社の争いが加わり、複数の朱印状がございます」
「どの時代を基準にするか、どなたの朱印状を優先するかで、領主が代わると言うのか」
「はい。どう決めようと、何方かに恨まれることになりますし、有利な判定をしたからと言って、恩に感じるような殊勝な者達ではありません」
「では何方にも恨まれる事にしよう」
「どう言う事でございますか」
「全ての係争地を、余の領地とする」
「それでは、領内が治まらないのではありませんか」
「羽柴に歯向かった罰は、キッチリと思い知らさねばならない」
「はい」
「御前達には苦労をかけるが、係争地は功名の有った忍びに与えることにする」
「殿、真でございますか」
「伊賀衆や甲賀衆には飛び地になってしまうが、本貫地から領地替えになると、せっかく開墾した苦労が無になってしまうからな。子弟を分家させるなり、一門を代官に派遣するなり、忍びのやり方で統治してくれ」
「有難き幸せにございます」
 伊賀衆の代表として報告に来ていた百地丹波は、深々と平伏して礼を言上した。
「夜盗衆には初めての領地となるが、治め難い領地で済まぬな」
 与一郎は視線を転じ、夜盗組頭領の千坂対馬守景親に話しかけた。
「とんでもございません。忍びが日雇いや扶持ではなく領地を頂けるなど、これほどの御恩はございません。これほど有難きことは考えられない事でございます」
「そうか、喜んでくれるのならよかった」
「しかしながら、我らには望外の喜びでございますが、国衆や地侍の叛意を育てるのは、禍根を残すのではありませんか」
「どうやっても恨まれるところは厳しく接するが、別に恩も与えることにする」
「どう言う事でございますか」
「功名を上げさせて、新たな恩賞を与える」
「しかしながら、そう上手く功名を上げてくれるでしょうか」
「羽柴家に逆らった以上、次の戦では、最も危険な先方を任せることになる」
「はい」
「功名を上げられなければ、死ぬか怪我をするかのどちらかだ」
「確かにその通りでございますな」
「羽柴の為に死んでくれたなら、大きな恩賞を与えるのは当然だし、怪我をしてもそれなりの恩賞を与えることになる」
「そうでございますな」
「その時には、領地ではなく、足軽大将の役と役扶持を与える」
「なるほど、羽柴家に逆らうと、手に入らなくなる役や扶持を恩賞になさるのですね」
「恩に感じてくれる者には、その者が最も望む物を恩賞に与えるが、何時裏切るか分からない者には、何時でも取り上げられるモノしか与えない」
「流石殿でございますな」
「まあ、二代三代と主従の関係が続けば、何時か本当の君臣と成れるであろう。それまではその方達が頼みだ」
「有り難き御言葉でございます」
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