74 / 103
第二章
飴と鞭
しおりを挟む
「どうであった」
「なかなか難しい事でございます」
「どう言う事だ」
「管領や守護が代わるたびに、領地争いが起こり、幾年前を基準にするかで境界が変わります。それに寺社の争いが加わり、複数の朱印状がございます」
「どの時代を基準にするか、どなたの朱印状を優先するかで、領主が代わると言うのか」
「はい。どう決めようと、何方かに恨まれることになりますし、有利な判定をしたからと言って、恩に感じるような殊勝な者達ではありません」
「では何方にも恨まれる事にしよう」
「どう言う事でございますか」
「全ての係争地を、余の領地とする」
「それでは、領内が治まらないのではありませんか」
「羽柴に歯向かった罰は、キッチリと思い知らさねばならない」
「はい」
「御前達には苦労をかけるが、係争地は功名の有った忍びに与えることにする」
「殿、真でございますか」
「伊賀衆や甲賀衆には飛び地になってしまうが、本貫地から領地替えになると、せっかく開墾した苦労が無になってしまうからな。子弟を分家させるなり、一門を代官に派遣するなり、忍びのやり方で統治してくれ」
「有難き幸せにございます」
伊賀衆の代表として報告に来ていた百地丹波は、深々と平伏して礼を言上した。
「夜盗衆には初めての領地となるが、治め難い領地で済まぬな」
与一郎は視線を転じ、夜盗組頭領の千坂対馬守景親に話しかけた。
「とんでもございません。忍びが日雇いや扶持ではなく領地を頂けるなど、これほどの御恩はございません。これほど有難きことは考えられない事でございます」
「そうか、喜んでくれるのならよかった」
「しかしながら、我らには望外の喜びでございますが、国衆や地侍の叛意を育てるのは、禍根を残すのではありませんか」
「どうやっても恨まれるところは厳しく接するが、別に恩も与えることにする」
「どう言う事でございますか」
「功名を上げさせて、新たな恩賞を与える」
「しかしながら、そう上手く功名を上げてくれるでしょうか」
「羽柴家に逆らった以上、次の戦では、最も危険な先方を任せることになる」
「はい」
「功名を上げられなければ、死ぬか怪我をするかのどちらかだ」
「確かにその通りでございますな」
「羽柴の為に死んでくれたなら、大きな恩賞を与えるのは当然だし、怪我をしてもそれなりの恩賞を与えることになる」
「そうでございますな」
「その時には、領地ではなく、足軽大将の役と役扶持を与える」
「なるほど、羽柴家に逆らうと、手に入らなくなる役や扶持を恩賞になさるのですね」
「恩に感じてくれる者には、その者が最も望む物を恩賞に与えるが、何時裏切るか分からない者には、何時でも取り上げられるモノしか与えない」
「流石殿でございますな」
「まあ、二代三代と主従の関係が続けば、何時か本当の君臣と成れるであろう。それまではその方達が頼みだ」
「有り難き御言葉でございます」
「なかなか難しい事でございます」
「どう言う事だ」
「管領や守護が代わるたびに、領地争いが起こり、幾年前を基準にするかで境界が変わります。それに寺社の争いが加わり、複数の朱印状がございます」
「どの時代を基準にするか、どなたの朱印状を優先するかで、領主が代わると言うのか」
「はい。どう決めようと、何方かに恨まれることになりますし、有利な判定をしたからと言って、恩に感じるような殊勝な者達ではありません」
「では何方にも恨まれる事にしよう」
「どう言う事でございますか」
「全ての係争地を、余の領地とする」
「それでは、領内が治まらないのではありませんか」
「羽柴に歯向かった罰は、キッチリと思い知らさねばならない」
「はい」
「御前達には苦労をかけるが、係争地は功名の有った忍びに与えることにする」
「殿、真でございますか」
「伊賀衆や甲賀衆には飛び地になってしまうが、本貫地から領地替えになると、せっかく開墾した苦労が無になってしまうからな。子弟を分家させるなり、一門を代官に派遣するなり、忍びのやり方で統治してくれ」
「有難き幸せにございます」
伊賀衆の代表として報告に来ていた百地丹波は、深々と平伏して礼を言上した。
「夜盗衆には初めての領地となるが、治め難い領地で済まぬな」
与一郎は視線を転じ、夜盗組頭領の千坂対馬守景親に話しかけた。
「とんでもございません。忍びが日雇いや扶持ではなく領地を頂けるなど、これほどの御恩はございません。これほど有難きことは考えられない事でございます」
「そうか、喜んでくれるのならよかった」
「しかしながら、我らには望外の喜びでございますが、国衆や地侍の叛意を育てるのは、禍根を残すのではありませんか」
「どうやっても恨まれるところは厳しく接するが、別に恩も与えることにする」
「どう言う事でございますか」
「功名を上げさせて、新たな恩賞を与える」
「しかしながら、そう上手く功名を上げてくれるでしょうか」
「羽柴家に逆らった以上、次の戦では、最も危険な先方を任せることになる」
「はい」
「功名を上げられなければ、死ぬか怪我をするかのどちらかだ」
「確かにその通りでございますな」
「羽柴の為に死んでくれたなら、大きな恩賞を与えるのは当然だし、怪我をしてもそれなりの恩賞を与えることになる」
「そうでございますな」
「その時には、領地ではなく、足軽大将の役と役扶持を与える」
「なるほど、羽柴家に逆らうと、手に入らなくなる役や扶持を恩賞になさるのですね」
「恩に感じてくれる者には、その者が最も望む物を恩賞に与えるが、何時裏切るか分からない者には、何時でも取り上げられるモノしか与えない」
「流石殿でございますな」
「まあ、二代三代と主従の関係が続けば、何時か本当の君臣と成れるであろう。それまではその方達が頼みだ」
「有り難き御言葉でございます」
3
お気に入りに追加
301
あなたにおすすめの小説
陣代『諏訪勝頼』――御旗盾無、御照覧あれ!――
黒鯛の刺身♪
歴史・時代
戦国の巨獣と恐れられた『武田信玄』の実質的後継者である『諏訪勝頼』。
一般には武田勝頼と記されることが多い。
……が、しかし、彼は正統な後継者ではなかった。
信玄の遺言に寄れば、正式な後継者は信玄の孫とあった。
つまり勝頼の子である信勝が後継者であり、勝頼は陣代。
一介の後見人の立場でしかない。
織田信長や徳川家康ら稀代の英雄たちと戦うのに、正式な当主と成れず、一介の後見人として戦わねばならなかった諏訪勝頼。
……これは、そんな悲運の名将のお話である。
【画像引用】……諏訪勝頼・高野山持明院蔵
【注意】……武田贔屓のお話です。
所説あります。
あくまでも一つのお話としてお楽しみください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜
雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。
そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。
これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。
主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美
※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。
※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。
※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
【架空戦記】蒲生の忠
糸冬
歴史・時代
天正十年六月二日、本能寺にて織田信長、死す――。
明智光秀は、腹心の明智秀満の進言を受けて決起当初の腹案を変更し、ごく少勢による奇襲により信長の命を狙う策を敢行する。
その結果、本能寺の信長、そして妙覚寺の織田信忠は、抵抗の暇もなく首級を挙げられる。
両名の首級を四条河原にさらした光秀は、織田政権の崩壊を満天下に明らかとし、畿内にて急速に地歩を固めていく。
一方、近江国日野の所領にいた蒲生賦秀(のちの氏郷)は、信長の悲報を知るや、亡き信長の家族を伊勢国松ヶ島城の織田信雄の元に送り届けるべく安土城に迎えに走る。
だが、瀬田の唐橋を無傷で確保した明智秀満の軍勢が安土城に急速に迫ったため、女子供を連れての逃避行は不可能となる。
かくなる上は、戦うより他に道はなし。
信長の遺した安土城を舞台に、若き闘将・蒲生賦秀の活躍が始まる。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
大日本帝国、アラスカを購入して無双する
雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。
大日本帝国VS全世界、ここに開幕!
※架空の日本史・世界史です。
※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。
※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。
戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら
もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。
『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』
よろしい。ならば作りましょう!
史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。
そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。
しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。
え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw
お楽しみください。
![](https://www.alphapolis.co.jp/v2/img/books/no_image/novel/history.png?id=c54a38c2a36c3510c993)
いや、婿を選べって言われても。むしろ俺が立候補したいんだが。
SHO
歴史・時代
時は戦国末期。小田原北条氏が豊臣秀吉に敗れ、新たに徳川家康が関八州へ国替えとなった頃のお話。
伊豆国の離れ小島に、弥五郎という一人の身寄りのない少年がおりました。その少年は名刀ばかりを打つ事で有名な刀匠に拾われ、弟子として厳しく、それは厳しく、途轍もなく厳しく育てられました。
そんな少年も齢十五になりまして、師匠より独立するよう言い渡され、島を追い出されてしまいます。
さて、この先の少年の運命やいかに?
剣術、そして恋が融合した痛快エンタメ時代劇、今開幕にございます!
*この作品に出てくる人物は、一部実在した人物やエピソードをモチーフにしていますが、モチーフにしているだけで史実とは異なります。空想時代活劇ですから!
*この作品はノベルアップ+様に掲載中の、「いや、婿を選定しろって言われても。だが断る!」を改題、改稿を経たものです。
札束艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
生まれついての勝負師。
あるいは、根っからのギャンブラー。
札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。
時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。
そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。
亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。
戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。
マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。
マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。
高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。
科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる