四代目 豊臣秀勝

克全

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第二章

紀伊炎上

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 秀吉は泉南の城を攻撃しながらも、得意の調略を駆使した。
 いくつかの派閥に別れる雑賀衆の内、雑賀荘の岡衆を寝返らすことに成功した。
 岡衆が同じ雑賀の湊衆に襲い掛かったので、雑賀は内部で大混乱に陥った。
 このままでは滅びると判断した土橋平丞は、長宗我部元親を頼って船で土佐へ逃亡した。
 湊衆も船で雑賀を脱出しようとしたが、人が乗りすぎて沈没する船が出てしまい、大勢の死者を出してしまった。
 秀吉軍の先方の一部が一揆勢の戦線を突破し、雑賀荘に攻め込んだ。
 僅か三日で一揆勢の泉南防衛線を取り除いた秀吉は、本陣の岸和田城から兵を動かし、根来寺に攻め込んだ。
 富裕と精強を誇った根来寺の僧兵も、戦闘が出来る者の殆どが各戦線に出払い、根来寺に残っているのは学僧ばかりだった。
 根来寺は抵抗することなく占領された。
 秀吉は根来寺の抵抗を終わらせ、多くの者に自分の勝利を分からせるために、根来寺の全ての建物に火をかけ炎上させた。
 その火災は三日三晩燃え続け、遠く離れた貝塚の本願寺からさえ、空が赤く輝く様子が見えたほどだった。
 秀吉が根来寺を焼いた翌日には、粉河寺も焼かれた。
 その秀吉も、根来寺を焼いた翌日には、紀ノ川北岸を西進して雑賀に入った。
 秀吉は、湊・中之島一円に放火を命じ、他の地域もおおむね半分から三分の二を焼き払わせた。
 しかし寝返った岡衆などが住む、鷺森寺内及び岡や宇治には、放火略奪を厳しく禁じた。
 雑賀の残党が太田城に籠城したので、秀吉の本体は太田城を囲んだ。
 中村一氏・小西行長・筒井順慶などを、別働隊として紀南へ派遣し、国衆や地侍を攻めさせた。
 秀吉の大軍を目前にした一揆勢は、雑賀衆のように内部分裂を起こした。
 勿論秀吉得意の調略が行われたのだ。
 名目上の大将に祭り上げられていた、紀伊守護の家格を持つ畠山政尚と貞政の父子は、秀吉の別動隊に本拠の岩室城を攻め落とされ敗走した。
 家臣が内部分裂して殺し合っている状況では、碌な抵抗が出来なかったのだ。
 秀吉は太田城を囲みながら、高野山にも降伏の使者を送った。
 秀吉は寺社の世俗介入を厳しく糾弾し、拡大した領地の大半を返上すること、武装を禁じ、謀反人を山内に匿うこと等も禁じた。
 そして条件を呑まねば、全山焼き討ちすると宣言した。
 高野山の僧侶達は、根来寺も焼き滅ぼされ、雑賀衆も内部分裂して力を失っているので、秀吉の出した条件を全面的に受け入れることにした。
 秀吉は強力な寺社の力を削ぐことに成功したが、未だ国衆と地侍の抵抗が激しく、紀伊を離れることが出来なかった。
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