四代目 豊臣秀勝

克全

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第二章

紀伊征伐

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 天正十二年(一五八四年)三月二日、僅かな休息をとった秀吉は、各方面に万全の配備を行い、紀伊に攻め込んだ。
 特に後北条と徳川に対する備えは、厳重に行った。
 甲斐と上野の国境には、滝川一益に旧柴田軍と越後衆を付けて、総計一万六千の兵を任せ、調略をさせながら国境線を厳守させた。
 甲斐と駿河の国境線には、木下与一郎に譜代衆を付けて、総計一万四千兵で徳川軍の隙を伺わせた。
 その命令を受けた与一郎は、甲斐から駿河に攻め込む擬態を行い、家康が駿河衆に無理な兵力動員を命令するように仕向けた。
 その上で、旧今川衆に本領安堵の調略を仕掛けるとともに、夜盗組・伊賀衆・甲賀衆を使い、駿河と遠江で夜襲や焼き討ち等の後方攪乱を行わせ、両国の国衆と地侍を動揺させた。
 信濃と遠江の国境線には、池田恒興と毛利秀頼を配し、池田軍八千兵には隙あらば遠江に攻め込む用意をさせ、伊那郡の領主に返り咲いた毛利軍三千名には、国境線の厳守を命じた。
 信濃と三河の国境線には、羽柴秀長率いる一万三千兵を配し、何時でも三河に攻め込む擬態を示して徳川家康を牽制し、徳川軍が尾張に再侵攻出来ないようにさせた。
 尾張に駐屯する二万三千兵を加えれば、総計六万一千兵に四方面から侵攻に擬態を示された家康には、気の休まる時がなかった。
 尾張から撤退する時に、乾坤一擲の戦いを仕掛けたが、秀吉に無視されてしまった。
 国衆や地侍を休ませたかったが、四方面に対応するには、無理な根こそぎ動員を続けなければならなかった。
 少しでも国境線の戦力を減らすと、秀吉から略奪勝手の御墨付きをもらった四方面軍が、徳川領に入り込んで、乱暴狼藉の限りを尽くした。
 徳川軍が兵力を動員して駆けつけると、国境線の奥に逃げ込んでしまった。
 そう言う状態を創り出した秀吉は、毛利と長宗我部に対する備えの兵と、北陸・越後・信濃・甲斐に抑えに残した兵の内、丹羽長秀の一万兵を紀伊攻めに参加させた。
 元々紀伊一揆軍に対応していた、和泉の中村一氏三千兵と大和の筒井順慶一万八千兵に、秀吉軍四万八千兵を加え、総兵力七万が各方面から紀伊に攻め込んだ。

「紀伊征伐部隊」
羽柴秀吉 :二万兵        :本軍
羽柴秀勝 :一万兵        :本軍
美濃衆  :一万兵        
中川清秀 :三千兵(与力衆を付与)
黒田孝高 :三千兵(与力衆を付与)
信濃衆  :千兵
甲斐衆  :千兵
中村一氏 :三千兵(与力衆を付与)
筒井順慶 :一万八千兵
丹羽長秀 :一万兵
「甲斐と上野の国境」
滝川一益 :五千兵(与力衆を付与)
佐久間盛政:三千兵
佐々成政 :二千兵
前田利家 :二千兵
柴田勝政 :千兵
金森長近 :千兵
不破勝光 :千兵
越後衆  :千兵
「甲斐と駿河の国境」
木下与一郎:五千兵  
堀尾吉晴 :三千兵
宮部継潤 :三千兵(与力衆を付与)
前野長康 :三千兵(与力衆を付与)
「信濃と遠江の国境」
池田恒興 :八千兵
毛利秀頼 :三千兵(与力衆を付与)
「信濃と三河の国境」
羽柴長秀 :一万三千兵
「尾張と三河の国境線」
高山右近 :三千兵(与力衆を付与)
尾張衆  :二万兵
「各方面・守備駐留部隊」
木下利久 :三千兵・(与力衆を付与)小丸山城に残る
堀秀政  :三千兵・越後駐留
細川藤孝 :四千兵・越後駐留 
森長可  :五千兵・川中島海津城駐留
木下隼人正:三千兵(与力衆を付与)・木曽福島城駐留
仙石秀久 :三千兵(淡路で長宗我部に備える)
宇喜多秀家:二万五千兵(毛利への備えとして備前に残る)
蜂須賀正勝:宇喜多家の目付として備中にいる
木下将監 :七千兵(毛利への備えに出雲に残る)
南条元続 :四千兵(与力衆を付与・毛利への備えに伯耆に残る)
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