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第二章
じり貧
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「糞」
「・・・・・」
徳川家康は、思い通りにいかない現状に苛立ち、激しく爪を噛んでいた。
本多正信は黙って見つめていた。
賤ケ岳で柴田勝家が破れ、北陸が次々と秀吉に降伏臣従するのを見て、家康も次々と手を打った。
上杉景勝は勿論、北条氏政にも使者を送り、羽柴秀吉に対抗しようとした。
だが上杉景勝は鎧袖一触で破れ、北条氏政の腰は重かった。
再び甲斐信濃に兵を送ることなく、北関東の領地を争い、上野を確保する事を最優先にしていた。
北条家にとって大切なのは、関東だと言う事だった。
根来寺と一向衆は善戦していたが、岸和田城を抜くことが出来ず、毛利水軍が秀吉に付いた事も大きく、大和での筒井軍との戦闘も一進一退で、紀伊国内を席巻するだけに留まっていた。
各地の反秀吉勢力に使者を送り、小さな一揆を引き起こすことには成功していたが、秀吉軍の駐留部隊に鎮圧されてしまっていた。
長曾我部元親は四国を席巻し、阿波三好家を圧迫していたが、それはあくまで四国内に限った事で、畿内には全く影響がなかった。
起死回生の策として、毛利家を寝返らそうと、足利義昭と吉川元春に使者を送った。
足利義昭は乗り気で、毛利輝元と毛利家重臣に働きかけた。
吉川元春も出雲と伯耆を取り返そうと、毛利輝元と重臣達を説得した。
だがこれに対して、小早川隆景が猛反対した。
既に石見衆と備後衆が羽柴軍に雇われ、大金を得ているのだ。
その利益を失う危険を犯し、勝てるかどうかわからない、毛利家への手伝い戦を喜ぶわけがない。
それどころか、安芸・周防・長門の切り取り勝手を約束して、和泉にいる石見衆と備後衆を派兵してくる可能性すらあったのだ。
万が一出雲と伯耆で勝てたとしても、宇喜多家が大軍で守っている備中備前を抜くのは至難の業だ。
全軍を動かせば、九州の大友が海を渡って攻め込んでくる可能性がある。
徳川家康の口車に乗せられて秀吉と敵対した後で、秀吉と家康・信雄が和睦をして、三法師を奉じる織田体制を認めてしまったら、秀吉の全軍が毛利を滅ぼしにやって来るぞ。
そう言って吉川元春を始めとする反秀吉派の重臣を論破した。
だから家康が幾ら使者を送り、足利義昭が騒いでも、毛利家は動かなかった。
それよりも毛利水軍や村上水軍を使い、傭船料を稼ぎ、合戦続きで嵩んだ借財を返そうとした。
家康の調略が成功しない間に、長秀軍と与一郎軍は、燎原の火のように越後・信濃・甲斐を席巻した。
家康が武田遺臣や旧信濃衆を操っていても、どうにもならない勢いで、武田遺臣と旧信濃衆も、草木が靡くように、長秀と与一郎に降伏臣従してしまった。
家康は激しく動揺した。
このままでは伊那口から遠江に、甲府口から駿河に秀吉軍が侵攻してくる。
だが今対峙している秀吉軍に背を向ける訳にはいかない。
仕方なく家康は、来年の年貢の事を無視して、一万石当たり五百兵と言う根こそぎ動員をかけて、伊那口と甲府口を厳守した。
「・・・・・」
徳川家康は、思い通りにいかない現状に苛立ち、激しく爪を噛んでいた。
本多正信は黙って見つめていた。
賤ケ岳で柴田勝家が破れ、北陸が次々と秀吉に降伏臣従するのを見て、家康も次々と手を打った。
上杉景勝は勿論、北条氏政にも使者を送り、羽柴秀吉に対抗しようとした。
だが上杉景勝は鎧袖一触で破れ、北条氏政の腰は重かった。
再び甲斐信濃に兵を送ることなく、北関東の領地を争い、上野を確保する事を最優先にしていた。
北条家にとって大切なのは、関東だと言う事だった。
根来寺と一向衆は善戦していたが、岸和田城を抜くことが出来ず、毛利水軍が秀吉に付いた事も大きく、大和での筒井軍との戦闘も一進一退で、紀伊国内を席巻するだけに留まっていた。
各地の反秀吉勢力に使者を送り、小さな一揆を引き起こすことには成功していたが、秀吉軍の駐留部隊に鎮圧されてしまっていた。
長曾我部元親は四国を席巻し、阿波三好家を圧迫していたが、それはあくまで四国内に限った事で、畿内には全く影響がなかった。
起死回生の策として、毛利家を寝返らそうと、足利義昭と吉川元春に使者を送った。
足利義昭は乗り気で、毛利輝元と毛利家重臣に働きかけた。
吉川元春も出雲と伯耆を取り返そうと、毛利輝元と重臣達を説得した。
だがこれに対して、小早川隆景が猛反対した。
既に石見衆と備後衆が羽柴軍に雇われ、大金を得ているのだ。
その利益を失う危険を犯し、勝てるかどうかわからない、毛利家への手伝い戦を喜ぶわけがない。
それどころか、安芸・周防・長門の切り取り勝手を約束して、和泉にいる石見衆と備後衆を派兵してくる可能性すらあったのだ。
万が一出雲と伯耆で勝てたとしても、宇喜多家が大軍で守っている備中備前を抜くのは至難の業だ。
全軍を動かせば、九州の大友が海を渡って攻め込んでくる可能性がある。
徳川家康の口車に乗せられて秀吉と敵対した後で、秀吉と家康・信雄が和睦をして、三法師を奉じる織田体制を認めてしまったら、秀吉の全軍が毛利を滅ぼしにやって来るぞ。
そう言って吉川元春を始めとする反秀吉派の重臣を論破した。
だから家康が幾ら使者を送り、足利義昭が騒いでも、毛利家は動かなかった。
それよりも毛利水軍や村上水軍を使い、傭船料を稼ぎ、合戦続きで嵩んだ借財を返そうとした。
家康の調略が成功しない間に、長秀軍と与一郎軍は、燎原の火のように越後・信濃・甲斐を席巻した。
家康が武田遺臣や旧信濃衆を操っていても、どうにもならない勢いで、武田遺臣と旧信濃衆も、草木が靡くように、長秀と与一郎に降伏臣従してしまった。
家康は激しく動揺した。
このままでは伊那口から遠江に、甲府口から駿河に秀吉軍が侵攻してくる。
だが今対峙している秀吉軍に背を向ける訳にはいかない。
仕方なく家康は、来年の年貢の事を無視して、一万石当たり五百兵と言う根こそぎ動員をかけて、伊那口と甲府口を厳守した。
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