四代目 豊臣秀勝

克全

文字の大きさ
上 下
57 / 103
第二章

上杉開戦

しおりを挟む
 七万七千兵となった羽柴長秀と木下与一郎の軍勢は、怒涛の勢いで越後に攻めかかった。
 羽柴秀吉は、上杉とは和議を結び、織田信雄と徳川家康を先に滅ぼす心算だったのだが、長秀と与一郎の諫言を入れて、先に上杉家を滅ぼすことにした。
 長秀と与一郎は、経済的にも戦力的にも厳しい上杉家を先に滅ぼし、関東優先上野確保の為に、後北条家が撤退した甲斐信濃を再確保する事を献策したのだ。
 献策を受けた秀吉は、熟考の末で長秀と与一郎の献策を受け入れた。
 尾張と美濃の国境を固く守り、徳川家康に付け入るすきを与えなかった。
 一方長秀と与一郎は、越後・新発田城主の新発田重家に使者を送り、上杉景勝を背後から討つ事を要請した。
 新発田重家は、上杉謙信亡き後の後継者争い、御館の乱で上杉景勝に味方したが、景勝勝利後の不公平な恩賞の配分に激怒し、独立して景勝と争っていたのだ。
 上杉家を二分した後継争いの後遺症は大きく深かった。
 勝利した後で、景勝の血族である上田衆に、明らかに不公平に重い恩賞が与えられたため、上田衆以外の国衆や地侍に大きな不満を与え、恩賞を巡る争いまで勃発させていた。
 長秀と与一郎は、その傷を的確に突いた。
『上杉謙信公の遺徳と遺臣を蔑ろにする景勝を許すな』
『景勝亡き後は、本来の越後守護家である上杉家血統を引き継ぐ、山浦国清か上条義春に上杉家の名跡を継がす』
『北条家との合戦で功名をあげれば、本領安堵は勿論、御館の乱での不公平な恩賞をやり直す』
 などの手紙を使者や密偵に持たせ、上杉家中を混乱させた。
 その上で旧柴田軍の佐久間盛政・佐々成政・前田利家・柴田勝政・金森長近・不破勝光を先方に、越中と越後の国境にある、勝山城に攻めかかった。
 勝山城を守っていた、須賀盛能、秋山伊賀守定綱、荻田主馬は必死の抵抗を試みるも、上杉景勝の援軍が間に合わず、旧柴田が生き残りをかけて猛攻を仕掛けたこともあり、僅か一日で落城してしまった。
 勝山城に続いて金山城と不動山城が落とされ、長秀軍と与一郎軍は越後に雪崩れ込んだ。
 この勢いを見た越後の国衆と地侍は、上田衆と一部の側近を除いて上杉景勝から離反した。
 特に御館の乱で景勝に味方したにもかかわらず、後の恩賞争いで粛清された国衆の遺臣が激しく蜂起し、越後国内は再び未曾有の内乱を勃発させた。
 放生橋の戦いで新発田重家に敗れ、武名を著しく低下せていたことも影響し、揚北衆が揃って羽柴家に臣従してきた。
 景勝は春日山城での籠城を考えるが、余りにも大城郭となった春日山城を守り切るための兵数がなかった。
 景勝の親衛隊とも言える上田衆も、雑兵が逃げ出してしまい、巨大な城郭全てに万全の兵力を配備する事が出来ない状況で、秀長と与一郎の軍勢に春日山城を囲まれることになった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?

織田信長 -尾州払暁-

藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。 守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。 織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。 そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。 毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。 スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。 (2022.04.04) ※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。 ※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。

和ませ屋仇討ち始末

志波 連
歴史・時代
山名藩家老家次男の三沢新之助が学問所から戻ると、屋敷が異様な雰囲気に包まれていた。 門の近くにいた新之助をいち早く見つけ出した安藤久秀に手を引かれ、納戸の裏を通り台所から屋内へ入っる。 久秀に手を引かれ庭の見える納戸に入った新之助の目に飛び込んだのは、今まさに切腹しようとしている父長政の姿だった。 父が正座している筵の横には変わり果てた長兄の姿がある。 「目に焼き付けてください」 久秀の声に頷いた新之助だったが、介錯の刀が振り下ろされると同時に気を失ってしまった。 新之助が意識を取り戻したのは、城下から二番目の宿場町にある旅籠だった。 「江戸に向かいます」 同行するのは三沢家剣術指南役だった安藤久秀と、新之助付き侍女咲良のみ。 父と兄の死の真相を探り、その無念を晴らす旅が始まった。 他サイトでも掲載しています 表紙は写真ACより引用しています R15は保険です

校長室のソファの染みを知っていますか?

フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。 しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。 座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る

武田義信は謀略で天下取りを始めるようです ~信玄「今川攻めを命じたはずの義信が、勝手に徳川を攻めてるんだが???」~

田島はる
歴史・時代
桶狭間の戦いで今川義元が戦死すると、武田家は外交方針の転換を余儀なくされた。 今川との婚姻を破棄して駿河侵攻を主張する信玄に、義信は待ったをかけた。 義信「此度の侵攻、それがしにお任せください!」 領地を貰うとすぐさま侵攻を始める義信。しかし、信玄の思惑とは別に義信が攻めたのは徳川領、三河だった。 信玄「ちょっ、なにやってるの!?!?!?」 信玄の意に反して、突如始まった対徳川戦。義信は持ち前の奇策と野蛮さで織田・徳川の討伐に乗り出すのだった。 かくして、武田義信の敵討ちが幕を開けるのだった。

鶴が舞う ―蒲生三代記―

藤瀬 慶久
歴史・時代
対い鶴はどのように乱世の空を舞ったのか 乱世と共に世に出で、乱世と共に消えていった蒲生一族 定秀、賢秀、氏郷の三代記 六角定頼、織田信長、豊臣秀吉 三人の天下人に仕えた蒲生家三代の歴史を描く正統派歴史小説(のつもりです) 注)転生はしません。歴史は変わりません。一部フィクションを交えますが、ほぼ史実通りに進みます ※この小説は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』『ノベルアップ+』で掲載します

ソラノカケラ    ⦅Shattered Skies⦆

みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始 台湾側は地の利を生かし善戦するも 人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される 背に腹を変えられなくなった台湾政府は 傭兵を雇うことを決定 世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった これは、その中の1人 台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと 舞時景都と 台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと 佐世野榛名のコンビによる 台湾開放戦を描いた物語である ※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()

戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら

もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。 『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』 よろしい。ならば作りましょう! 史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。 そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。 しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。 え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw お楽しみください。

処理中です...