四代目 豊臣秀勝

克全

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第二章

与一郎追撃

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「入庵殿、勝三殿、河内殿、この度は大変でございましたな。今は何も考えず御休み下さい」
「労りの言葉痛み入る。しかしそういうわけにもいかん」
「どう言う事です」
 与一郎が信雄軍を追い散らした際に、滝川一益、森長可、毛利秀頼は信雄の元を離れ、与一郎の軍に合流した。
 飛騨の三木自綱は、徳川家康や柴田勝家との関係もあったのか、信雄と共に清州城に逃げていった。
「与一郎殿が三介様をどう扱うのか、それを御聞きせねばならぬ」
 与一郎は、元々羽柴秀吉の家臣であり、信長公が健在の時は陪臣でしかなかった。
 だが信長公の怨敵・明智光秀の首を取った事で、織田家の直臣扱いとなっていた。
 織田家恩顧の諸大名からも、一目も二目も置かれる存在で、重臣の立場から降ろされたとは言え、滝川一益から殿付けで呼ばれるほどだった。
「私の一存では決められませんので、三法師様と御次公に使いを送り、御指図を仰ぐつもりです」
「では、攻め殺す心算ではないのですな」
「今は亡き上様の御次男で、三法師様の叔父上であり、御次公の兄君でも御有りです。謀叛を起こされたとは言え、独断で攻め殺す事はできません」
「それを聞いて安心しました」
「ですが」
「ですが、何ですか」
「三介様が攻めてきたならば、戦わねばなりません」
「それはそうですな」
「出来るだけ生け捕りにする心算ですが、抵抗なさるようなら誤って殺してしまうかもしれません」
「それは、不忠ではありませんか」
「率直に申しますが、愚かな主筋一人の命を守るために、黄金よりも貴重な将兵を失う気はありません」
「しかし、それは」
「入庵殿ならば、謀叛を企んだ三介様の御命を優先して、命懸けで忠誠を尽くしてくれる家臣を、無駄死にさせるのですか」
「・・・・・」
「勝三殿、河内殿はどうなのですか」
「入庵殿、与一郎殿の申す通りじゃ。此方から攻めるのは不忠だが、三介様から攻撃を仕掛けてくるようなら、討ち取るのが武士の習いじゃ。河内殿はどう思う」
「儂も勝三殿に賛成じゃ。率直に申すが、三介様が織田家の家督を継いだら、織田家は滅んでしまうぞ」
「そうか、そうだな。今は儂から降伏の使者を送るのが忠義と言うモノだな」
「では私と一緒に、逃げ散った尾張衆に使者を送って頂けますか」
「降伏の手助けをしろと言われるのか」
「いえ、各自三法師様か御次公の使者が来るまでは、自分の城を固く守ってくれと言う指示を伝えてもらいたいのです」
「それならば構わないが、何故ですかな」
「今回三介様が謀叛に走られたのも、川尻殿が武田遺臣に討ち取られたのも、徳川殿の手の者が動いているようなのです」
「何だと」
 手配りを終えた与一郎は、逃げる信雄軍を追撃し清州城を包囲した。
 しかし攻撃はせず、ただ包囲するだけにとどめた。
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