四代目 豊臣秀勝

克全

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第二章

信孝敗走

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 敗走する信孝軍からは、次々と将兵が逃げ出していた。
 夜陰に乗じて逃げ出す者が多く、夜が明けた時点で、二万五千いた将兵が一万を割り込んでいた。
 特に影響が大きかったのは、神戸四百八十人衆が消えていたことだった。
 信孝が神戸家に養子に入ったころからの家臣が逃げ出したことで、信孝に見切りをつける者がさらに増えた。
「殿、このまま岐阜まで御進みください。我らはここで秀吉を防ぎます」
「分かった」
 心底気落ちした信孝は、家老の岡本良勝と斎藤利堯が勧めるままに、関ヶ原に五千の兵を置き、秀吉が美濃に入れないように手配りした。
 そして三法師を伴い、岐阜城に逃げていった。
 騎馬部隊だけを伴い、先を急いで逃げ帰った事で、歩兵部隊を後方に残してしまった。
 いや、わざと遅れて、岐阜城に入らないようにした歩兵が多かった。
 騎馬武者の中にも、付いて行けない風を装い、敗軍の将となった信孝から離れる者が続出した。
「太郎右衛門尉殿、玄蕃殿、これからは頼んだぞ」
「「は」」
 関ヶ原で秀吉を防ぐはずの岡本良勝と斎藤利堯も、主君を迎えるように秀吉を迎えた。
 秀吉は易々と美濃に入った。
 美濃各地の城に残っていた国衆や地侍が、先を争って秀吉の元に馳せ参じてきた。
 まさに勝馬に乗ろうとしていた。
 秀吉も頓着せずに家臣に迎え入れた。
 羽柴秀勝がいる限り、織田恩顧の将兵も降伏臣従してくると判断した秀吉は、急ぐことなくゆっくりと岐阜城に向かった。
 多くの将兵に信孝を見限る時間を与えたかったのだ。
 信孝の事は心配していなかった秀吉だが、柴田勝家と佐々成政には警戒していた。
 雪で動けないはずだが、万が一と言う事もある。
 羽柴長秀と木下与一郎の親子一万兵を別働させて、長浜城の柴田勝豊を包囲させた。
 柴田勝豊は、柴田勝家の甥にあたり、養子となっていた。
 だが勝家は、もう一人の養子で甥の柴田勝政を優遇しており、勝豊は心の中に闇を抱えていた。
 敵中に孤立した重要な拠点を任された。
 そう解釈することも出来れば、落城必死の死地に追いやられたと解釈することも出来た。
 重い病に侵されていた勝豊は、心の闇に抗することが出来なかった。
 かねてから秀吉の調略を受けていた勝豊、羽柴長秀と木下与一郎の大軍に囲まれ、心からの労りがこもった説得を受けて、降伏臣従する決断をした。
 秀吉の心の中にも闇があった。
 三法師を除きたいと言う気持ちだ。
 だが自分が手をかけるのは外聞が悪すぎる。
 これから天下を統一するうえで、三法師を自分の手で殺すことは不利に働く。
 そう考えて、信孝が殺すように仕向けたのだ。
 乱戦の中で死んでくれてもいい。
 だが絶対に、自分から殺せと命ずるわけにはいかなかった。
 秀吉は慎重に岐阜城を包囲し、信孝を追い込んで、平常心をなくすように仕向けて行った。
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