34 / 103
第二章
反撃
しおりを挟む
「秀吉だ。秀吉が戻ってきやがった」
全軍が阿波に渡ったはずの秀吉軍が、忽然と近江に現れた。
派手な馬印をはためかせ、山科方面から続々と軍勢が現れたのだ。
信孝軍は、羽柴長秀が援軍として入った瀬田城を攻めていたが、曲輪一つ落とす事が出来なかった。
瀬田川の対岸に、続々と秀吉の大軍が現れるのを見て、信孝軍は浮足立ってしまった。
この頃の雑兵は逃げ足が早い。
いつでもどこかで戦いがあるので、働き場所に困らないのだ。
大名や国衆も、兵糧や軍資金に限りがあるので、領地を与える家臣は勿論、常時扶持を与える足軽の人数も限られる。
それでも合戦前に無理矢理徴兵する農民兵はまだましだ。
合戦後に村に戻って生活しないといけないから、最低限は踏ん張ってくれる。
だが合戦前に一日五合の玄米で集めた足軽は、不利だと見ればすぐ逃げ出してしまう。
今回の信孝軍には、そう言う雑兵も数多く集まっていた。
軍装も煌びやかな秀吉軍七万が現れたことで、信孝軍の雑兵達に勝てないと思わせることに成功した。
秀吉軍は陣立ても鮮やかで、キビキビと瀬田大橋に近づいていった。
信孝も馬鹿ではないし、歴戦の家臣も揃っている。
瀬田城に抑えの兵を残し、渡河して来る秀吉軍を叩こうとした。
しかし秀吉軍は渡河を始める前に、昔から大声で評判だった秀吉が直々に対岸から調略を仕掛けた。
「逃げる者は家臣に取り立てて本領を安堵するぞ」
「雑兵は逃げ出したら見逃してやるぞ」
「神戸家は下総守殿に家督を継がせてやるぞ」
秀吉が次々と発する言葉に、信孝軍は激しく動揺した。
その後秀吉は右手に勝栗を持ち、左手に扇子を開きあおぎながら勝鬨をあげた。
「えい、えい、えい」
秀吉は発声の後に、法螺貝を吹かせ、太鼓を鳴らした。
「うぉぉぉぉ」
「えい、えい、えい」
「うぉぉぉぉ」
「えい、えい、えい」
「うぉぉぉぉ」
七万の将兵が一斉に。応じた。
「えい、えい、えい」
「うぉぉぉぉ」
瀬田城からも勝鬨があがった。
信孝軍の後方にいた雑兵が一斉に逃げ出した。
一人逃げ出してしまうと、もう軍を支える事など出来ない。
無理矢理集められた農民兵が逃げ出し、裏崩れが始まり、友崩れに発展しまった。
信孝が四国に渡河する前に、本能寺の変の知らせを受けた時の再来だった。
「三七郎様、我らが殿を務めますので、ここは岐阜まで御逃げ下さい」
「何を言うか。余に剥げ鼠から逃げろと申すか」
「三法師を御助け出来たのです。三七郎様の勝ちでございます」
「ここで三法師様に何かあれば、光秀同様逆臣の汚名を受けますぞ」
与力の稲葉良通と氏家行広が、それぞれ信孝を諫めた。
「分かった。後は頼んだぞ」
信孝は逃げ出した。
秀吉軍は、ゆっくりと瀬田の大橋を渡ってきたが、殿を務めるはずの稲葉良通と氏家行広は、まるで主君を迎えるような態度で秀吉軍を迎えた。
全軍が阿波に渡ったはずの秀吉軍が、忽然と近江に現れた。
派手な馬印をはためかせ、山科方面から続々と軍勢が現れたのだ。
信孝軍は、羽柴長秀が援軍として入った瀬田城を攻めていたが、曲輪一つ落とす事が出来なかった。
瀬田川の対岸に、続々と秀吉の大軍が現れるのを見て、信孝軍は浮足立ってしまった。
この頃の雑兵は逃げ足が早い。
いつでもどこかで戦いがあるので、働き場所に困らないのだ。
大名や国衆も、兵糧や軍資金に限りがあるので、領地を与える家臣は勿論、常時扶持を与える足軽の人数も限られる。
それでも合戦前に無理矢理徴兵する農民兵はまだましだ。
合戦後に村に戻って生活しないといけないから、最低限は踏ん張ってくれる。
だが合戦前に一日五合の玄米で集めた足軽は、不利だと見ればすぐ逃げ出してしまう。
今回の信孝軍には、そう言う雑兵も数多く集まっていた。
軍装も煌びやかな秀吉軍七万が現れたことで、信孝軍の雑兵達に勝てないと思わせることに成功した。
秀吉軍は陣立ても鮮やかで、キビキビと瀬田大橋に近づいていった。
信孝も馬鹿ではないし、歴戦の家臣も揃っている。
瀬田城に抑えの兵を残し、渡河して来る秀吉軍を叩こうとした。
しかし秀吉軍は渡河を始める前に、昔から大声で評判だった秀吉が直々に対岸から調略を仕掛けた。
「逃げる者は家臣に取り立てて本領を安堵するぞ」
「雑兵は逃げ出したら見逃してやるぞ」
「神戸家は下総守殿に家督を継がせてやるぞ」
秀吉が次々と発する言葉に、信孝軍は激しく動揺した。
その後秀吉は右手に勝栗を持ち、左手に扇子を開きあおぎながら勝鬨をあげた。
「えい、えい、えい」
秀吉は発声の後に、法螺貝を吹かせ、太鼓を鳴らした。
「うぉぉぉぉ」
「えい、えい、えい」
「うぉぉぉぉ」
「えい、えい、えい」
「うぉぉぉぉ」
七万の将兵が一斉に。応じた。
「えい、えい、えい」
「うぉぉぉぉ」
瀬田城からも勝鬨があがった。
信孝軍の後方にいた雑兵が一斉に逃げ出した。
一人逃げ出してしまうと、もう軍を支える事など出来ない。
無理矢理集められた農民兵が逃げ出し、裏崩れが始まり、友崩れに発展しまった。
信孝が四国に渡河する前に、本能寺の変の知らせを受けた時の再来だった。
「三七郎様、我らが殿を務めますので、ここは岐阜まで御逃げ下さい」
「何を言うか。余に剥げ鼠から逃げろと申すか」
「三法師を御助け出来たのです。三七郎様の勝ちでございます」
「ここで三法師様に何かあれば、光秀同様逆臣の汚名を受けますぞ」
与力の稲葉良通と氏家行広が、それぞれ信孝を諫めた。
「分かった。後は頼んだぞ」
信孝は逃げ出した。
秀吉軍は、ゆっくりと瀬田の大橋を渡ってきたが、殿を務めるはずの稲葉良通と氏家行広は、まるで主君を迎えるような態度で秀吉軍を迎えた。
3
お気に入りに追加
294
あなたにおすすめの小説
天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?
織田信長 -尾州払暁-
藪から犬
歴史・時代
織田信長は、戦国の世における天下統一の先駆者として一般に強くイメージされますが、当然ながら、生まれついてそうであるわけはありません。
守護代・織田大和守家の家来(傍流)である弾正忠家の家督を継承してから、およそ14年間を尾張(現・愛知県西部)の平定に費やしています。そして、そのほとんどが一族間での骨肉の争いであり、一歩踏み外せば死に直結するような、四面楚歌の道のりでした。
織田信長という人間を考えるとき、この彼の青春時代というのは非常に色濃く映ります。
そこで、本作では、天文16年(1547年)~永禄3年(1560年)までの13年間の織田信長の足跡を小説としてじっくりとなぞってみようと思いたった次第です。
毎週の月曜日00:00に次話公開を目指しています。
スローペースの拙稿ではありますが、お付き合いいただければ嬉しいです。
(2022.04.04)
※信長公記を下地としていますが諸出来事の年次比定を含め随所に著者の創作および定説ではない解釈等がありますのでご承知置きください。
※アルファポリスの仕様上、「HOTランキング用ジャンル選択」欄を「男性向け」に設定していますが、区別する意図はとくにありません。
校長室のソファの染みを知っていますか?
フルーツパフェ
大衆娯楽
校長室ならば必ず置かれている黒いソファ。
しかしそれが何のために置かれているのか、考えたことはあるだろうか。
座面にこびりついた幾つもの染みが、その真実を物語る
武田義信は謀略で天下取りを始めるようです ~信玄「今川攻めを命じたはずの義信が、勝手に徳川を攻めてるんだが???」~
田島はる
歴史・時代
桶狭間の戦いで今川義元が戦死すると、武田家は外交方針の転換を余儀なくされた。
今川との婚姻を破棄して駿河侵攻を主張する信玄に、義信は待ったをかけた。
義信「此度の侵攻、それがしにお任せください!」
領地を貰うとすぐさま侵攻を始める義信。しかし、信玄の思惑とは別に義信が攻めたのは徳川領、三河だった。
信玄「ちょっ、なにやってるの!?!?!?」
信玄の意に反して、突如始まった対徳川戦。義信は持ち前の奇策と野蛮さで織田・徳川の討伐に乗り出すのだった。
かくして、武田義信の敵討ちが幕を開けるのだった。
鶴が舞う ―蒲生三代記―
藤瀬 慶久
歴史・時代
対い鶴はどのように乱世の空を舞ったのか
乱世と共に世に出で、乱世と共に消えていった蒲生一族
定秀、賢秀、氏郷の三代記
六角定頼、織田信長、豊臣秀吉
三人の天下人に仕えた蒲生家三代の歴史を描く正統派歴史小説(のつもりです)
注)転生はしません。歴史は変わりません。一部フィクションを交えますが、ほぼ史実通りに進みます
※この小説は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』『ノベルアップ+』で掲載します
ソラノカケラ ⦅Shattered Skies⦆
みにみ
歴史・時代
2026年 中華人民共和国が台湾へ軍事侵攻を開始
台湾側は地の利を生かし善戦するも
人海戦術で推してくる中国側に敗走を重ね
たった3ヶ月ほどで第2作戦区以外を掌握される
背に腹を変えられなくなった台湾政府は
傭兵を雇うことを決定
世界各地から金を求めて傭兵たちが集まった
これは、その中の1人
台湾空軍特務中尉Mr.MAITOKIこと
舞時景都と
台湾空軍特務中士Mr.SASENOこと
佐世野榛名のコンビによる
台湾開放戦を描いた物語である
※エースコンバットみたいな世界観で描いてます()
戦神の星・武神の翼 ~ もしも日本に2000馬力エンジンが最初からあったなら
もろこし
歴史・時代
架空戦記ファンが一生に一度は思うこと。
『もし日本に最初から2000馬力エンジンがあったなら……』
よろしい。ならば作りましょう!
史実では中途半端な馬力だった『火星エンジン』を太平洋戦争前に2000馬力エンジンとして登場させます。そのために達成すべき課題を一つ一つ潰していく開発ストーリーをお送りします。
そして火星エンジンと言えば、皆さんもうお分かりですね。はい『一式陸攻』の運命も大きく変わります。
しかも史実より遙かに強力になって、さらに1年早く登場します。それは戦争そのものにも大きな影響を与えていきます。
え?火星エンジンなら『雷電』だろうって?そんなヒコーキ知りませんw
お楽しみください。
剣客居酒屋 草間の陰
松 勇
歴史・時代
酒と肴と剣と闇
江戸情緒を添えて
江戸は本所にある居酒屋『草間』。
美味い肴が食えるということで有名なこの店の主人は、絶世の色男にして、無双の剣客でもある。
自分のことをほとんど話さないこの男、冬吉には実は隠された壮絶な過去があった。
多くの江戸の人々と関わり、その舌を満足させながら、剣の腕でも人々を救う。
その慌し日々の中で、己の過去と江戸の闇に巣食う者たちとの浅からぬ因縁に気付いていく。
店の奉公人や常連客と共に江戸を救う、包丁人にして剣客、冬吉の物語。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる