33 / 103
第二章
三法師流転
しおりを挟む
織田信孝は、美濃国内の男を根こそぎ動員して、二万五千の軍勢を整えた。
織田信長の残した旗本の半数と、軍資金と兵糧の二割を引き継いだ信孝は、その全てをこの合戦に投入した。
だがこれは、秀吉の罠だった。
柴田勝家が雪で動けない季節に四国に渡り、信孝の暴発を誘ったのだ。
信孝は春まで待つべきであったが、待てなかった。
秀吉の数々の実績が、信孝に強大な圧力をかけていた。
秀吉だったら、冬の間に四国を平定してしまうのではないかと言う恐怖で、春を待つことが出来なかった。
準備万端整えていた秀吉は、三法師の傅役・織田信包と堀秀政を調略していた。
三法師の旗本衆と、織田信包と堀秀政の家臣を合わせ、六千の兵力が安土城を守っていた。
開城を命じる信孝に対して、織田家に対する謀叛だと厳しく指摘した手紙を送ったのだ。
激怒した信孝は、織田信包と堀秀政を逆臣と断じ、安土城に攻めかかった。
下克上の時代である。
幾ら三法師が織田家の頭領であろうと、信孝が命じれば家臣達は攻撃を躊躇わない。
明智光秀の家臣が、織田信長を攻め殺したのと同じだ。
信長の元旗本衆も同じだ。
秀吉と光秀の合戦では、共に肩を並べて戦った者同士が、命を奪い合ったのだ。
二万五千対六千では、普通は六千に勝ち目はない。
籠城戦とは言っても、三対一の比率を越えてしまっている。
だが信孝の謀叛を誘った秀吉は、この日の為に安土城を強化していた。
それに期限のない籠城なら苦しいが、秀吉が戻るまでの限定的な籠城だ。
しかも近江各地の城には味方がいて、瀬田城には羽柴長秀の五千兵が援軍に入っていた。
信孝は数に任せて猛攻を繰り返した。
その度に撃退され、手痛い損害を受けた。
中国大返しを成し遂げた秀吉への恐怖が、信孝に我攻めを行わせていた。
そして秀吉は、準備万端用意していたので、与一郎から信孝謀叛の知らせを受けて、すぐさま全軍を反転進軍させていた。
中国大返しの時と同じように、進軍路の村々に宿泊と食事の準備を整えさせていた。
重い武器や装備は小荷駄に後から運ばせて、身一つで移動していた。
宝寺城は勿論、高槻城や茨木城と言った西国街道沿いの諸城にも、武器弾薬に兵糧を準備させていた。
秀吉の瀬田城到着が後一日となった十二月二十七日に、蜂須賀正勝配下の忍者が、安土城に向けて狼煙を上げた。
狼煙を見た織田信包と堀秀政は、信孝に使者を送った。
信孝を三法師の後見人として認め、三法師を預けるから、安土城の囲みを説いて欲しいと言うモノだった。
信孝としても、天下の主の象徴ともいえる安土城を焼きたくはなかった。
それに、一日でも早く京に入り、天下の主であることを朝廷に認めさせたかった。
秀吉が戻ってくる前に、宝寺城を攻め落としておきたかった。
だがこれも秀吉の仕掛けた罠だった。
織田信長の残した旗本の半数と、軍資金と兵糧の二割を引き継いだ信孝は、その全てをこの合戦に投入した。
だがこれは、秀吉の罠だった。
柴田勝家が雪で動けない季節に四国に渡り、信孝の暴発を誘ったのだ。
信孝は春まで待つべきであったが、待てなかった。
秀吉の数々の実績が、信孝に強大な圧力をかけていた。
秀吉だったら、冬の間に四国を平定してしまうのではないかと言う恐怖で、春を待つことが出来なかった。
準備万端整えていた秀吉は、三法師の傅役・織田信包と堀秀政を調略していた。
三法師の旗本衆と、織田信包と堀秀政の家臣を合わせ、六千の兵力が安土城を守っていた。
開城を命じる信孝に対して、織田家に対する謀叛だと厳しく指摘した手紙を送ったのだ。
激怒した信孝は、織田信包と堀秀政を逆臣と断じ、安土城に攻めかかった。
下克上の時代である。
幾ら三法師が織田家の頭領であろうと、信孝が命じれば家臣達は攻撃を躊躇わない。
明智光秀の家臣が、織田信長を攻め殺したのと同じだ。
信長の元旗本衆も同じだ。
秀吉と光秀の合戦では、共に肩を並べて戦った者同士が、命を奪い合ったのだ。
二万五千対六千では、普通は六千に勝ち目はない。
籠城戦とは言っても、三対一の比率を越えてしまっている。
だが信孝の謀叛を誘った秀吉は、この日の為に安土城を強化していた。
それに期限のない籠城なら苦しいが、秀吉が戻るまでの限定的な籠城だ。
しかも近江各地の城には味方がいて、瀬田城には羽柴長秀の五千兵が援軍に入っていた。
信孝は数に任せて猛攻を繰り返した。
その度に撃退され、手痛い損害を受けた。
中国大返しを成し遂げた秀吉への恐怖が、信孝に我攻めを行わせていた。
そして秀吉は、準備万端用意していたので、与一郎から信孝謀叛の知らせを受けて、すぐさま全軍を反転進軍させていた。
中国大返しの時と同じように、進軍路の村々に宿泊と食事の準備を整えさせていた。
重い武器や装備は小荷駄に後から運ばせて、身一つで移動していた。
宝寺城は勿論、高槻城や茨木城と言った西国街道沿いの諸城にも、武器弾薬に兵糧を準備させていた。
秀吉の瀬田城到着が後一日となった十二月二十七日に、蜂須賀正勝配下の忍者が、安土城に向けて狼煙を上げた。
狼煙を見た織田信包と堀秀政は、信孝に使者を送った。
信孝を三法師の後見人として認め、三法師を預けるから、安土城の囲みを説いて欲しいと言うモノだった。
信孝としても、天下の主の象徴ともいえる安土城を焼きたくはなかった。
それに、一日でも早く京に入り、天下の主であることを朝廷に認めさせたかった。
秀吉が戻ってくる前に、宝寺城を攻め落としておきたかった。
だがこれも秀吉の仕掛けた罠だった。
13
お気に入りに追加
298
あなたにおすすめの小説
日本が危機に?第二次日露戦争
杏
歴史・時代
2023年2月24日ロシアのウクライナ侵攻の開始から一年たった。その日ロシアの極東地域で大きな動きがあった。それはロシア海軍太平洋艦隊が黒海艦隊の援助のために主力を引き連れてウラジオストクを離れた。それと同時に日本とアメリカを牽制する為にロシアは3つの種類の新しい極超音速ミサイルの発射実験を行った。そこで事故が起きた。それはこの事故によって発生した戦争の物語である。ただし3発も間違えた方向に飛ぶのは故意だと思われた。実際には事故だったがそもそも飛ばす場所をセッティングした将校は日本に向けて飛ばすようにセッティングをわざとしていた。これは太平洋艦隊の司令官の命令だ。司令官は黒海艦隊を支援するのが不服でこれを企んだのだ。ただ実際に戦争をするとは考えていなかったし過激な思想を持っていた為普通に海の上を進んでいた。
なろう、カクヨムでも連載しています。
幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。
克全
歴史・時代
西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。
幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。
北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。
清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。
色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。
一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。
印旛沼開拓は成功するのか?
蝦夷開拓は成功するのか?
オロシャとは戦争になるのか?
蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか?
それともオロシャになるのか?
西洋帆船は導入されるのか?
幕府は開国に踏み切れるのか?
アイヌとの関係はどうなるのか?
幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?
本能のままに
揚羽
歴史・時代
1582年本能寺にて織田信長は明智光秀の謀反により亡くなる…はずだった
もし信長が生きていたらどうなっていたのだろうか…というifストーリーです!もしよかったら見ていってください!
※更新は不定期になると思います。
織田信長IF… 天下統一再び!!
華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。
この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。
主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。
※この物語はフィクションです。
滝川家の人びと
卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した
若き日の滝川一益と滝川義太夫、
尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として
天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が
からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。
近江の轍
藤瀬 慶久
歴史・時代
全ては楽市楽座から始まった―――
『経済は一流、政治は三流』と言われる日本
世界有数の経済大国の礎を築いた商人達
その戦いの歴史を描いた一大叙事詩
『皆の暮らしを豊かにしたい』
信長・秀吉・家康の天下取りの傍らで、理想を抱いて歩き出した男がいた
その名は西川甚左衛門
彼が残した足跡は、現在(いま)の日本に一体何をもたらしたのか
※この小説は『小説家になろう』『カクヨム』『アルファポリス』で掲載しています
蒼雷の艦隊
和蘭芹わこ
歴史・時代
第五回歴史時代小説大賞に応募しています。
よろしければ、お気に入り登録と投票是非宜しくお願いします。
一九四二年、三月二日。
スラバヤ沖海戦中に、英国の軍兵四二二人が、駆逐艦『雷』によって救助され、その命を助けられた。
雷艦長、その名は「工藤俊作」。
身長一八八センチの大柄な身体……ではなく、その姿は一三○センチにも満たない身体であった。
これ程までに小さな身体で、一体どういう風に指示を送ったのか。
これは、史実とは少し違う、そんな小さな艦長の物語。
超克の艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
「合衆国海軍ハ 六〇〇〇〇トン級戦艦ノ建造ヲ計画セリ」
米国駐在武官からもたらされた一報は帝国海軍に激震をもたらす。
新型戦艦の質的アドバンテージを失ったと判断した帝国海軍上層部はその設計を大幅に変更することを決意。
六四〇〇〇トンで建造されるはずだった「大和」は、しかしさらなる巨艦として誕生する。
だがしかし、米海軍の六〇〇〇〇トン級戦艦は誤報だったことが後に判明。
情報におけるミスが組織に致命的な結果をもたらすことを悟った帝国海軍はこれまでの態度を一変、貪欲に情報を収集・分析するようになる。
そして、その情報重視への転換は、帝国海軍の戦備ならびに戦術に大いなる変化をもたらす。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる