四代目 豊臣秀勝

克全

文字の大きさ
上 下
28 / 103
第二章

清州会議

しおりを挟む
 天正十年六月二十七日(一五八二年七月一六日)、尾張の清洲城で、織田家の後継者と遺領の分配をめぐる話し合いが行われた。
 次男の北畠信雄、三男の三好信孝、四男の羽柴秀勝が後継の座を争い、三者一歩も引かなかった。
 信雄は次男であることを主張し、自分こそが織田家の当主に相応しいと言い張った。
 信孝は三男だが産まれたのは自分の方が早いと主張し、更に自分は仇討ちに参加しているが、信雄は参加していないと主張した。
 秀勝は四男だが、仇討ちの主力軍は自分であり、怨敵光秀の首を取ったのは自分の家臣であり、しかも義理の従兄だと主張した。
 会議に参加した重臣は、四人だった。
 神流川の戦いで後北条氏に惨敗した滝川一益は、信濃から伊勢へ敗走中で会議に間に合わなかった。
 各方面の総大将を務めていたもので、生き残り会議に出られるのは柴田勝家・丹羽長秀・羽柴秀吉の三人だけだった。
 激減した重臣を補う為に、母親が信長の乳母を務め、信長と乳兄弟である池田恒興が加えられた。
 乳母であった母が、後に信長の父親の側室になった事や、明智光秀を破った戦いで、大きな武功を上げたことが考慮された。
 だがその推薦は、柴田勝家と反目する羽柴秀吉と丹羽長秀が結託して決めたことだった。
 しかも遺領の分配で池田恒興に大領を与える事を約束していた。
 最初に北畠信雄が脱落した。
 本人は最後まで激しく次男であることを主張したが、四人の重臣の誰も支持しなかった。
 激論に激論が重ねられたが、信孝と勝家組と秀勝と秀吉組が一歩も引かなかった。
 丹羽長秀と池田恒興が秀勝を押したが、三対一になっても勝家は折れなかった。
 重臣ではない織田一門や譜代衆を巻き込んで、必死の抵抗を繰り返した。
「三法師様、これはどうですか」
 秀吉は秀勝と共に度々三法師に会いに行き、三法師を手懐けることに成功していた。
 僅か三歳の三法師では、人誑しと言われた秀吉に抗する事などできるはずがなかった。
 秀吉は最初から次善の策を用意していたのだ。
 三法師を織田家当主として、羽柴秀勝が後見人を務めると言う代案を出した。
 これにも信孝と勝家組は反対し、後見人には三好信孝が相応しいと言い募ったが、北畠信雄が秀勝と秀吉組支持したので、屈服することになった。
 秀吉と秀勝が、三好信孝と柴田勝家が権力を握ったら、北畠信雄を殺すと囁いたのだ。
 話し合いの最中、特に三好信孝・柴田勝家と対立し、激しく罵り合った北畠信雄は、その言葉を信じてしまった。
 北畠信雄が秀勝と秀吉組に傾いた事で、三好信孝と柴田勝家に賛同していた者も、秀勝と秀吉組支持に代わった。
 最後の止めは、秀勝を引き連れた秀吉が、三法師を抱いて上段に現れたことだった。
 北畠信雄・三好信孝・柴田勝家・丹羽長秀・池田恒興の五人が、三法師・羽柴秀勝・羽柴秀吉に頭を下げる形になった。
 次に問題だったのは、遺領の分配だった。
 誰が織田家の当主になるのか、誰が三法師の後見人になるのかに絡み、激しい駆け引きが繰り広げられた結果だった。
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

幻の十一代将軍・徳川家基、死せず。長谷川平蔵、田沼意知、蝦夷へ往く。

克全
歴史・時代
 西欧列強に不平等条約を強要され、内乱を誘発させられ、多くの富を収奪されたのが悔しい。  幕末の仮想戦記も考えましたが、徳川家基が健在で、田沼親子が権力を維持していれば、もっと余裕を持って、開国準備ができたと思う。  北海道・樺太・千島も日本の領地のままだっただろうし、多くの金銀が国外に流出することもなかったと思う。  清国と手を組むことも出来たかもしれないし、清国がロシアに強奪された、シベリアと沿海州を日本が手に入れる事が出来たかもしれない。  色々真剣に検討して、仮想の日本史を書いてみたい。 一橋治済の陰謀で毒を盛られた徳川家基であったが、奇跡的に一命をとりとめた。だが家基も父親の十代将軍:徳川家治も誰が毒を盛ったのかは分からなかった。家基は田沼意次を疑い、家治は疑心暗鬼に陥り田沼意次以外の家臣が信じられなくなった。そして歴史は大きく動くことになる。 印旛沼開拓は成功するのか? 蝦夷開拓は成功するのか? オロシャとは戦争になるのか? 蝦夷・千島・樺太の領有は徳川家になるのか? それともオロシャになるのか? 西洋帆船は導入されるのか? 幕府は開国に踏み切れるのか? アイヌとの関係はどうなるのか? 幕府を裏切り異国と手を結ぶ藩は現れるのか?

滝川家の人びと

卯花月影
歴史・時代
故郷、甲賀で騒動を起こし、国を追われるようにして出奔した 若き日の滝川一益と滝川義太夫、 尾張に流れ着いた二人は織田信長に会い、織田家の一員として 天下布武の一役を担う。二人をとりまく織田家の人々のそれぞれの思惑が からみ、紆余曲折しながらも一益がたどり着く先はどこなのか。

小沢機動部隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1941年4月10日に世界初の本格的な機動部隊である第1航空艦隊の司令長官が任命された。 名は小沢治三郎。 年功序列で任命予定だった南雲忠一中将は”自分には不適任”として望んで第2艦隊司令長官に就いた。 ただ時局は引き返すことが出来ないほど悪化しており、小沢は戦いに身を投じていくことになる。 毎度同じようにこんなことがあったらなという願望を書き綴ったものです。 楽しんで頂ければ幸いです!

真田幸村の女たち

沙羅双樹
歴史・時代
六文銭、十勇士、日本一のつわもの……そうした言葉で有名な真田幸村ですが、幸村には正室の竹林院を始め、側室や娘など、何人もの女性がいて、いつも幸村を陰ながら支えていました。この話では、そうした女性たちにスポットを当てて、語っていきたいと思います。 なお、このお話はカクヨムで連載している「大坂燃ゆ~幸村を支えし女たち~」を大幅に加筆訂正して、読みやすくしたものです。

戦国を駆ける軍師・山本勘助の嫡男、山本雪之丞

沙羅双樹
歴史・時代
川中島の合戦で亡くなった軍師、山本勘助に嫡男がいた。その男は、山本雪之丞と言い、頭が良く、姿かたちも美しい若者であった。その日、信玄の館を訪れた雪之丞は、上洛の手段を考えている信玄に、「第二啄木鳥の戦法」を提案したのだった……。 この小説はカクヨムに連載中の「武田信玄上洛記」を大幅に加筆訂正したものです。より読みやすく面白く書き直しました。

天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。

岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。 けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。 髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。 戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜

雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。 そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。 これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。 主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美 ※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。 ※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。 ※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。

帝国夜襲艦隊

ypaaaaaaa
歴史・時代
1921年。すべての始まりはこの会議だった。伏見宮博恭王軍事参議官が将来の日本海軍は夜襲を基本戦術とすべきであるという結論を出したのだ。ここを起点に日本海軍は徐々に変革していく…。 今回もいつものようにこんなことがあれば良いなぁと思いながら書いています。皆さまに楽しくお読みいただければ幸いです!

処理中です...