四代目 豊臣秀勝

克全

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第一章

中国大返し

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 姫路城に到着した秀吉は、丸一日を将兵の休養日とした。
 いや、遅れてくる歩兵部隊を待つ時間でもあった。
 細長い悪路を、二万を越える軍勢が細長く行軍するのだから、先頭部隊と殿部隊では到着時間に大きな違いが出てきて当然なのだ。
 秀吉はその時間を使って、姫路城内に備蓄してあった軍資金と兵糧を調べさせた。
 そしてそれを、身分に応じて全て分配した。
 秀吉らしい演出だ。
 於次公の弔い合戦に全力を注ぎ、籠城などしない事を宣言したのだ。
 明智光秀に負けても姫路に戻ることはなく、勝てば更なる恩賞を与えると宣言した。
 だがこれは偽りだった。
 既に長秀と与一郎が、姫路城にある軍資金と兵糧を計算しており、全て放出しても大丈夫と報告していたのだ。
 軍資金に関しては、生野銀山から幾らでも補充が出来る。
 当面の軍資金と兵糧に関しても、長秀の出石城と与一郎の稲荷山城に、莫大な量が蓄えられている。
 更に商人に貸し与えている軍資金からも、毎月運上金が納められる。
 六月九日に、秀吉は姫路城を出陣した。
 姫路城の留守居役には、寧々の義弟・浅野長吉を残し、秘密裏に軍資金と兵糧の手配をさせた。
 明石を通り抜け、兵庫湊に野営した。
 伊予の来島村上水軍を使って、毛利攻めに運び込んでいた膨大な物資を、兵庫湊にまで輸送させていたのだ。
 淡路では、一度敗れた菅達長が、明智光秀に加担して挙兵した。
 一旦は仙石秀久の洲本城を奪取するが、秀吉が派遣した別動隊に再奪還され、四国の長曾我部元親を頼って落ちていった。
 秀吉は播磨と摂津の国境に岩屋砦を作り、光秀の攻撃に備えた。
 秀吉と光秀は、互いの出方を探りつつ欺瞞情報を流し、日和見を決め込んでいる大名国衆を味方につけるべく、各地に使者を派遣していた。
 十日の朝に秀吉は明石を出陣し、夜には兵庫に到着した。
 翌十一日には兵庫を出陣し、夕刻には尼崎に到着した。
 秀吉は更なる演出として、於次公を奉じて主君の弔い合戦をする決意を示すため、栖賢寺で自身の髻を切り、配下の将兵の気持ちを掴んだ。
 同時に大坂に陣を張っている丹羽長秀と神戸信孝、有岡城主の池田恒興等に尼崎着陣の使者を送り、味方になってくれるように伝えた。
 秀吉の調略は冴え渡り、光秀に近い者には、中立を守ってくれるだけで大領を与えると約束し、細川藤孝を丹後田辺城に居座らせることに成功した。
 一旦光秀に協力した筒井順慶にも使者を送り、光秀陣営から脱落させることに成功した。
 筒井順慶は近江から引き揚げ、郡山城に籠城する構えを見せた。
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