18 / 103
第一章
和議交渉
しおりを挟む
「小六殿、まだ吉報は届かぬか」
「もう少し待たれよ。先の報告では、いよいよ好機が迫っておる」
「そうなると、ますます毛利と戦うわけにはいかんな」
「だが、不用意に背中を見せたら、追い討ちをかけて来るぞ」
「分かっている。だから敵の間者は絶対に毛利に行かせてはならん」
「その敵とは、徳川殿か、それとも明智殿か」
「さあな。誰であろうと、天下の敵は討たねばならん」
「はてさて、それはいったい誰の天下なのだ」
「上様の天下よ」
「よく言う」
毛利家は敗北を受け入れ、講和する決断をした。
戦いたくても、地面が泥田となっていて、羽柴軍に近づくのも困難だった。
このまま時間が経てば、高松城は鳥取城のように、大量の餓死者が出る。
そんな事になれば、毛利から国衆が離れてしまい、大内や尼子、朝倉や武田のように、族滅してしまうかもしれない。
信長の援軍が到着し、天候が回復すれば、国衆が逃げ出して、裏崩れや友崩れが起きてしまうだろう。
そう考えた小早川隆景と安国寺恵瓊が、吉川元春を筆頭とする主戦派を説き、毛利家を降伏講和に導いたのだ。
毛利軍は、軍僧の安国寺恵瓊を黒田官兵衛に送り、備中・備後・美作・伯耆・出雲の五カ国割譲で、清水宗治以下の高松城の将兵全てを助ける和議を整えようとした。
秀吉は内藤広俊を派遣し、美作は既に宇喜多が攻めとっており、備中も攻め取ったも同然であるとして、備後・伯耆・出雲・石見・長門の割譲を要求した。
更に城兵の命は保証するが、城主・清水宗治の切腹は譲らなかった。
交渉は難航し、物別れに終わった。
毛利家は安国寺恵瓊を高松城に送り、清水宗治が独自で降伏交渉を行うように持ちかけた。
鳥取城の時のように、木下与一郎が出てくることを期待したのだ。
だが清水宗治はその話を拒否した。
武士の願いの一つ、名を残すと言う事に拘ったのだ。
武士には家名と血脈を残すと言う願いと、武名を残すと言う、相反する願いがある。
清水宗治は、自分の切腹で城兵を助けたと言う名を残した上で、子供達も逃がして家名と血脈を残すと言う、武士の願いを二つとも叶えることに拘ったのだ。
毛利家は苦渋した。
一門の吉川経家は命を助けたのに、国衆の清水宗治は見殺しにすると言う評判は、毛利家から国衆が離れ、毛利家崩壊に直結するからだ。
毛利輝元が着陣するまでに、多くの国衆を見殺しにしたが、その責任と汚名は、吉川元春と小早川隆景が被ることが出来る。
だが毛利輝元が着陣した後で、清水宗治を見殺しにするようでは、毛利の評判は地に落ちてしまう。
国衆から頼りないと思われては、大名としては終わりなのだ。
それでなくても、毛利元就の娘婿である上原元祐が裏切っているのだ。
毛利家には後がなかった。
だがここで、天下が大きく動いた。
「もう少し待たれよ。先の報告では、いよいよ好機が迫っておる」
「そうなると、ますます毛利と戦うわけにはいかんな」
「だが、不用意に背中を見せたら、追い討ちをかけて来るぞ」
「分かっている。だから敵の間者は絶対に毛利に行かせてはならん」
「その敵とは、徳川殿か、それとも明智殿か」
「さあな。誰であろうと、天下の敵は討たねばならん」
「はてさて、それはいったい誰の天下なのだ」
「上様の天下よ」
「よく言う」
毛利家は敗北を受け入れ、講和する決断をした。
戦いたくても、地面が泥田となっていて、羽柴軍に近づくのも困難だった。
このまま時間が経てば、高松城は鳥取城のように、大量の餓死者が出る。
そんな事になれば、毛利から国衆が離れてしまい、大内や尼子、朝倉や武田のように、族滅してしまうかもしれない。
信長の援軍が到着し、天候が回復すれば、国衆が逃げ出して、裏崩れや友崩れが起きてしまうだろう。
そう考えた小早川隆景と安国寺恵瓊が、吉川元春を筆頭とする主戦派を説き、毛利家を降伏講和に導いたのだ。
毛利軍は、軍僧の安国寺恵瓊を黒田官兵衛に送り、備中・備後・美作・伯耆・出雲の五カ国割譲で、清水宗治以下の高松城の将兵全てを助ける和議を整えようとした。
秀吉は内藤広俊を派遣し、美作は既に宇喜多が攻めとっており、備中も攻め取ったも同然であるとして、備後・伯耆・出雲・石見・長門の割譲を要求した。
更に城兵の命は保証するが、城主・清水宗治の切腹は譲らなかった。
交渉は難航し、物別れに終わった。
毛利家は安国寺恵瓊を高松城に送り、清水宗治が独自で降伏交渉を行うように持ちかけた。
鳥取城の時のように、木下与一郎が出てくることを期待したのだ。
だが清水宗治はその話を拒否した。
武士の願いの一つ、名を残すと言う事に拘ったのだ。
武士には家名と血脈を残すと言う願いと、武名を残すと言う、相反する願いがある。
清水宗治は、自分の切腹で城兵を助けたと言う名を残した上で、子供達も逃がして家名と血脈を残すと言う、武士の願いを二つとも叶えることに拘ったのだ。
毛利家は苦渋した。
一門の吉川経家は命を助けたのに、国衆の清水宗治は見殺しにすると言う評判は、毛利家から国衆が離れ、毛利家崩壊に直結するからだ。
毛利輝元が着陣するまでに、多くの国衆を見殺しにしたが、その責任と汚名は、吉川元春と小早川隆景が被ることが出来る。
だが毛利輝元が着陣した後で、清水宗治を見殺しにするようでは、毛利の評判は地に落ちてしまう。
国衆から頼りないと思われては、大名としては終わりなのだ。
それでなくても、毛利元就の娘婿である上原元祐が裏切っているのだ。
毛利家には後がなかった。
だがここで、天下が大きく動いた。
12
お気に入りに追加
303
あなたにおすすめの小説
改造空母機動艦隊
蒼 飛雲
歴史・時代
兵棋演習の結果、洋上航空戦における空母の大量損耗は避け得ないと悟った帝国海軍は高価な正規空母の新造をあきらめ、旧式戦艦や特務艦を改造することで数を揃える方向に舵を切る。
そして、昭和一六年一二月。
日本の前途に暗雲が立ち込める中、祖国防衛のために改造空母艦隊は出撃する。
「瑞鳳」「祥鳳」「龍鳳」が、さらに「千歳」「千代田」「瑞穂」がその数を頼みに太平洋艦隊を迎え撃つ。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す
山家
歴史・時代
榎本艦隊北上せず。
それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。
生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。
また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。
そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。
土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。
そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。
(「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です)
勇者の如く倒れよ ~ ドイツZ計画 巨大戦艦たちの宴
もろこし
歴史・時代
とある豪華客船の氷山事故をきっかけにして、第一次世界大戦前にレーダーとソナーが開発された世界のお話です。
潜水艦や航空機の脅威が激減したため、列強各国は超弩級戦艦の建造に走ります。史実では実現しなかったドイツのZ計画で生み出された巨艦たちの戦いと行く末をご覧ください。
天竜川で逢いましょう 起きたら関ヶ原の戦い直前の石田三成になっていた 。そもそも現代人が生首とか無理なので平和な世の中を作ろうと思います。
岩 大志
歴史・時代
ごくありふれた高校教師津久見裕太は、ひょんなことから頭を打ち、気を失う。
けたたましい轟音に気付き目を覚ますと多数の軍旗。
髭もじゃの男に「いよいよですな。」と、言われ混乱する津久見。
戦国時代の大きな分かれ道のド真ん中に転生した津久見はどうするのか!?

皇国の栄光
ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。
日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。
激動の昭和時代。
皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか?
それとも47の星が照らす夜だろうか?
趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。
こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです

世界はあるべき姿へ戻される 第二次世界大戦if戦記
颯野秋乃
歴史・時代
1929年に起きた、世界を巻き込んだ大恐慌。世界の大国たちはそれからの脱却を目指し、躍起になっていた。第一次世界大戦の敗戦国となったドイツ第三帝国は多額の賠償金に加えて襲いかかる恐慌に国の存続の危機に陥っていた。援助の約束をしたアメリカは恐慌を理由に賠償金の支援を破棄。フランスは、自らを救うために支払いの延期は認めない姿勢を貫く。
ドイツ第三帝国は自らの存続のために、世界に隠しながら軍備の拡張に奔走することになる。
また、極東の国大日本帝国。関係の悪化の一途を辿る日米関係によって受ける経済的打撃に苦しんでいた。
その解決法として提案された大東亜共栄圏。東南アジア諸国及び中国を含めた大経済圏、生存圏の構築に力を注ごうとしていた。
この小説は、ドイツ第三帝国と大日本帝国の2視点で進んでいく。現代では有り得なかった様々なイフが含まれる。それを楽しんで貰えたらと思う。
またこの小説はいかなる思想を賛美、賞賛するものでは無い。
この小説は現代とは似て非なるもの。登場人物は史実には沿わないので悪しからず…
大日本帝国視点は都合上休止中です。気分により再開するらもしれません。
【重要】
不定期更新。超絶不定期更新です。
旧式戦艦はつせ
古井論理
歴史・時代
真珠湾攻撃を行う前に機動艦隊が発見されてしまい、結果的に太平洋戦争を回避した日本であったが軍備は軍縮条約によって制限され、日本国に国名を変更し民主政治を取り入れたあとも締め付けが厳しい日々が続いている世界。東南アジアの元列強植民地が独立した大国・マカスネシア連邦と同盟を結んだ日本だが、果たして復権の日は来るのであろうか。ロマンと知略のIF戦記。

連合艦隊司令長官、井上成美
ypaaaaaaa
歴史・時代
2・26事件に端を発する国内の動乱や、日中両国の緊張状態の最中にある1937年1月16日、内々に海軍大臣就任が決定していた米内光政中将が高血圧で倒れた。命には別状がなかったものの、少しの間の病養が必要となった。これを受け、米内は信頼のおける部下として山本五十六を自分の代替として海軍大臣に推薦。そして空席になった連合艦隊司令長官には…。
毎度毎度こんなことがあったらいいな読んで、楽しんで頂いたら幸いです!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる