四代目 豊臣秀勝

克全

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第一章

攻防

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「与一郎、よくやってくれた」
「いえ、私は将監と与右衛門の申す通りにしただけです」
「いやいや、それを許す度量が与一郎にあるからじゃ」
「御褒めの言葉を賜り、恐悦至極でございます」
 破竹の勢いで毛利の領地を侵食している秀吉だが、毛利も足利公方も一向衆も、手をこまねいていたわけではない。
 別所や荒木を寝返らしたように、手を変え品を変え調略を行っていた。
 その成果の一つとして、但馬で一揆を起こす事に成功させた。
 但馬国主の長秀は、秀吉の許可を受けて与一郎を派遣した。
 秀吉の最も近い身内とは言え、異例の出世を遂げる与一郎に、周りが納得する手柄を立てさせるためだ。
 いや、それ以上に重視したことがある。
 与一郎に、大地と共に生きる、百姓や地侍の気持ちを理解させるためだった。
 領主が誰に替わろうと、平和に暮らしたいと願う者達の気持ち。
 末端に列しているだけだが、それでも主家に忠誠を尽くそうとする者の気持ち。
 己の利権を守るためなら、形振り構わず命懸けで戦う者の気持ち。
 そんな想いを与一郎に理解させ、よき大将、よき領主に育てようとした。
 そしてその後見に、百姓として育ち、義兄の憎しみの中で暮らす、木下将監昌利を今まで通り後見人とするだけでなく、主人を幾人も変え、時には流浪の生活までした、苦労人の藤堂与右衛門高虎を与力に付けた。
 兄秀吉同様に、幾人もの主人に仕えた経験を、与右衛門が与一郎に伝えてくれれば、与一郎も家臣の気持ちがわかる主人になれるのではないかと、長秀は期待したのだ。
 将監と与右衛門は、長秀の期待通りの働きをしてくれた。
 単に一揆勢を滅ぼすだけではなく、地道に領民の話を聞いて回り、領国の統治経営に必要な民の声を、与一郎の耳と心に届けてくれた。
 長秀は二人の働きに報いるため、将監を秀吉から貰い受け、五千石の知行地を与えた。
 与右衛門に対しては、一気に三千石を加増し、三千三百石の鉄砲大将とした。
 その間に秀吉は播磨に城割令を発し、反乱分子が籠城出来ないように破却し、その資材を集めて、自身の新居城。姫路城築城の資材とした。

 この時忘れてならないのが、備前美作の宇喜多和泉守直家だ。
 毛利を裏切った直家には、毛利家の怒りがぶつけられていた。
 直家は末期の大腸癌に苦しみながら、毛利と戦い続けた。
 下血による思考の低下に苦しみながら、休む間もなく備前・美作・備中を転戦した。
 天正九年(一五八一年)二月に、直家は苦しみながら死んだ。
 毛利との苦しい戦いの中では、直家の死を公表することは出来なかった。
 毛利を勢いづけせるのはもちろん、宇喜多家が内部崩壊する恐れがあったのだ。
 宇喜多家が崩壊し、美作と備前が混乱してしまうと、因幡はもちろん但馬にも兵力を投入できなくなる。
 宇喜多家は直家の死を隠しながら、毛利との激烈な戦いを続けた。
  だが遂に毛利家は、主力軍を備前児島に侵攻させてきた。
  麦医山に拠る穂井田元清に援軍を送って来たのだ。
  村上水軍まで動員した毛利軍には、宇喜多軍は対抗出来ず、総崩れとなって敗走してしまった。
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