四代目 豊臣秀勝

克全

文字の大きさ
上 下
12 / 103
第一章

転機

しおりを挟む
「私に行かせてください」
「駄目だ」
「しかし経家殿ほどの勇将を、むざむざ死なすわけには行きません」
「絶対に駄目だ」
「しかし殿も、経家殿の切腹には反対されていたではありませんか」
「確かに経家の切腹には反対だが、だからと言って与一郎を危険にさらすわけにはいかん」
「殿も父上も、何度も敵城に行って説得に当たられたではありませんか」
「駄目だ。与一郎は木下家の跡取りではないか」
「私には亀千代がいます」
「だからこそだ。亀千代を父なし子にする心算か」
「大丈夫です。経家程の漢が、この期に及んで使者を傷つけたりしません」
「う~む」
「それに、ここで経家に見事な切腹をされたら、毛利家の結束が固まってしまいます」
「それはそうなのだが」
「どうか、私に今一度説得させてください」
「だが、既に上様にも切腹の許可を頂いておる」
「上様には殿と父上から、後々の調略の為に、前言を翻し再度の説得を試み成功したと御伝え下さい」
「もう成功する心算なのか」
「私は殿の甥ですから」
 秀吉は、表向きには吉川経家の奮戦を讃え、切腹するのは森下道誉と中村春続だけでよいと伝えた。
 本心は、毛利一族の端に連なる吉川経家を助け、国衆の森下道誉と中村春続を切腹させ、毛利家と国衆地侍を離間するためだ。
 だが吉川経家は、天下分け目の合戦で切腹出来るのは武士の誉れと、頑として譲らなかったのだ。
「式部少輔殿。意地を張るのは止められてはどうですか」
「何だと。武士の決意を意地と言い捨てるか」
「ええ、むしろ命の押し売りです」
「おのれ、儂の決意を愚弄するか」
「愚弄はしていませんが、命の賭け時を間違っています」
「儂が何を間違っていると言うのか」
「今回は殿も織田家も、式部少輔殿の命はいらないと言っているのに、腹を切らせろと言い募って困らせています」
「だが、城兵の命と引き換えに切腹するのは武士の誉れだ」
「だから、それは、主君の意に逆らい、事もあろうに主君を放逐するような暴挙を行い、あまつさえ籠城するのに金に眼が眩んで兵糧を売り払っておきながら、吉川殿に援軍に来てもらうような、下劣極まる森下道誉と中村春続で十分だと言っているのです」
「だが、儂が城主なのだ」
「卑怯な森下道誉と中村春続が、自分達の命だけは惜しんで、生贄として式部少輔殿を引き入れたとしてもですか」
「何だと」
「二人は鳥取城の兵糧を売った金を、隠し持っているのですよ」
「そんな。嘘だ」
「嘘ではありませんよ。兵糧攻めの為に、鳥取城の米を買ったのは我が配下です。誰が金を受け取り、どこに隠したのかも調べています」
「おのれ、外道が」
「話を戻しますが、武士が誉とする切腹は、家臣領民を助けるために、敵の求めに応じて切るものです」
「左様。だからわしは切腹するのだ」
「ですが羽柴も織田も、式部少輔殿の切腹は不要と言っているのです」
「しかし・・・・・」
「なのに無理に腹を切ると言い立てるのは、切腹の押し売りですよ」
「・・・・・」
「後々、式部少輔殿が腹を切らねば、家臣領民を助けられない時が来るかもしれません」
「・・・・・」
「今式部少輔殿が切腹の押し売りをすると、その時は他の誰かが腹を切らねばなりません」
「う~む」
「それは、式部少輔殿の父上か御子になるのではありませんか」
「本当に、今切腹するのは、押し売りになってしまうのか」
「はい。無駄腹です」
「分かった」
しおりを挟む
感想 7

あなたにおすすめの小説

【完結】風天の虎 ――車丹波、北の関ヶ原

糸冬
歴史・時代
車丹波守斯忠。「猛虎」の諱で知られる戦国武将である。 慶長五年(一六〇〇年)二月、徳川家康が上杉征伐に向けて策動する中、斯忠は反徳川派の急先鋒として、主君・佐竹義宣から追放の憂き目に遭う。 しかし一念発起した斯忠は、異母弟にして養子の車善七郎と共に数百の手勢を集めて会津に乗り込み、上杉家の筆頭家老・直江兼続が指揮する「組外衆」に加わり働くことになる。 目指すは徳川家康の首級ただ一つ。 しかし、その思いとは裏腹に、最初に与えられた役目は神指城の普請場での土運びであった……。 その名と生き様から、「国民的映画の主人公のモデル」とも噂される男が身を投じた、「もう一つの関ヶ原」の物語。

大日本帝国、アラスカを購入して無双する

雨宮 徹
歴史・時代
1853年、ロシア帝国はクリミア戦争で敗戦し、財政難に悩んでいた。友好国アメリカにアラスカ購入を打診するも、失敗に終わる。1867年、すでに大日本帝国へと生まれ変わっていた日本がアラスカを購入すると金鉱や油田が発見されて……。 大日本帝国VS全世界、ここに開幕! ※架空の日本史・世界史です。 ※分かりやすくするように、領土や登場人物など世界情勢を大きく変えています。 ※ツッコミどころ満載ですが、ご勘弁を。

土方歳三ら、西南戦争に参戦す

山家
歴史・時代
 榎本艦隊北上せず。  それによって、戊辰戦争の流れが変わり、五稜郭の戦いは起こらず、土方歳三は戊辰戦争の戦野を生き延びることになった。  生き延びた土方歳三は、北の大地に屯田兵として赴き、明治初期を生き抜く。  また、五稜郭の戦い等で散った他の多くの男達も、史実と違えた人生を送ることになった。  そして、台湾出兵に土方歳三は赴いた後、西南戦争が勃発する。  土方歳三は屯田兵として、そして幕府歩兵隊の末裔といえる海兵隊の一員として、西南戦争に赴く。  そして、北の大地で再生された誠の旗を掲げる土方歳三の周囲には、かつての新選組の仲間、永倉新八、斎藤一、島田魁らが集い、共に戦おうとしており、他にも男達が集っていた。 (「小説家になろう」に投稿している「新選組、西南戦争へ」の加筆修正版です) 

皇国の栄光

ypaaaaaaa
歴史・時代
1929年に起こった世界恐慌。 日本はこの影響で不況に陥るが、大々的な植民地の開発や産業の重工業化によっていち早く不況から抜け出した。この功績を受け犬養毅首相は国民から熱烈に支持されていた。そして彼は社会改革と並行して秘密裏に軍備の拡張を開始していた。 激動の昭和時代。 皇国の行く末は旭日が輝く朝だろうか? それとも47の星が照らす夜だろうか? 趣味の範囲で書いているので違うところもあると思います。 こんなことがあったらいいな程度で見ていただくと幸いです

大日本帝国領ハワイから始まる太平洋戦争〜真珠湾攻撃?そんなの知りません!〜

雨宮 徹
歴史・時代
1898年アメリカはスペインと戦争に敗れる。本来、アメリカが支配下に置くはずだったハワイを、大日本帝国は手中に収めることに成功する。 そして、時は1941年。太平洋戦争が始まると、大日本帝国はハワイを起点に太平洋全域への攻撃を開始する。 これは、史実とは異なる太平洋戦争の物語。 主要登場人物……山本五十六、南雲忠一、井上成美 ※歴史考証は皆無です。中には現実性のない作戦もあります。ぶっ飛んだ物語をお楽しみください。 ※根本から史実と異なるため、艦隊の動き、編成などは史実と大きく異なります。 ※歴史初心者にも分かりやすいように、言葉などを現代風にしています。

幕府海軍戦艦大和

みらいつりびと
歴史・時代
IF歴史SF短編です。全3話。 ときに西暦1853年、江戸湾にぽんぽんぽんと蒸気機関を響かせて黒船が来航したが、徳川幕府はそんなものへっちゃらだった。征夷大将軍徳川家定は余裕綽々としていた。 「大和に迎撃させよ!」と命令した。 戦艦大和が横須賀基地から出撃し、46センチ三連装砲を黒船に向けた……。

札束艦隊

蒼 飛雲
歴史・時代
 生まれついての勝負師。  あるいは、根っからのギャンブラー。  札田場敏太(さつたば・びんた)はそんな自身の本能に引きずられるようにして魑魅魍魎が跋扈する、世界のマーケットにその身を投じる。  時は流れ、世界はその混沌の度を増していく。  そのような中、敏太は将来の日米関係に危惧を抱くようになる。  亡国を回避すべく、彼は金の力で帝国海軍の強化に乗り出す。  戦艦の高速化、ついでに出来の悪い四姉妹は四一センチ砲搭載戦艦に改装。  マル三計画で「翔鶴」型空母三番艦それに四番艦の追加建造。  マル四計画では戦時急造型空母を三隻新造。  高オクタン価ガソリン製造プラントもまるごと買い取り。  科学技術の低さもそれに工業力の貧弱さも、金さえあればどうにか出来る!

織田信長IF… 天下統一再び!!

華瑠羅
歴史・時代
日本の歴史上最も有名な『本能寺の変』の当日から物語は足早に流れて行く展開です。 この作品は「もし」という概念で物語が進行していきます。 主人公【織田信長】が死んで、若返って蘇り再び活躍するという作品です。 ※この物語はフィクションです。

処理中です...