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第一章
敗戦
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「義伯父上、大丈夫でしょうか」
「小一郎殿は戦上手です。相手が豪勇の淡河と言えど、小一郎殿が後れを取られることはないでしょう」
「それならばいいのですが」
「それに万が一の事を考え、小一郎殿は五百騎の手勢を半数に分け、与一郎殿に預けられたのです」
「そうですね。私がしっかりしなければならないのですね」
「そうです。与一郎殿の名をあげる絶好の機会です」
「痛」
「うわ、痛い」
「痛、何だ、これは」
「どうしたのだ」
「殿」
「楓。何故このような場所におる」
「殿、淡河は菱の実を巻いて備えております」
「何だと」
「このままだと、御味方は足を痛めて満足に戦えなくなります」
「一旦引くか」
「はい。十分な足拵えを整えてから、再度攻めかかるべきだと思います」
「義伯父上、父上に御知らせしてください」
「敵が討って出ました」
「何。間に合わなかったか。者共迎え討て」
「「「「「おう」」」」」
「うわ」
「与一郎殿」
「殿」
「楓、儂はどうしたのだ」
「馬から落とされたのです」
「何たる不覚」
「いえ、殿の所為ではありません」
「何。どう言う事だ」
「恐らく雌馬を放ったのです。それで牡馬が暴れたのです」
「姑息な。いや、よくぞ考えたな」
「とにかく今は御逃げ下さい。このままでは討ち取られてしまいます」
「うむ。痛」
「どうなさいました」
「足を挫いたようだ。儂を置いて逃げろ。このままでは楓まで討ち取られてしまう」
「嫌です」
「楓を無駄死にさせるわけにはいかん」
「殿は子供を父無し子にする御心算ですか」
「何。子が出来たのか」
「はい」
「ならば、それこそ楓を死なせるわけにはいかん。生き延びて儂の子を産んでくれ」
「嫌でございます。死ぬも生きるも一緒でございます」
「楓」
「殿」
「御邪魔して申し訳ありませんが、ここは私が防ぎますので、与一郎殿と楓殿はこの馬に乗って御逃げ下さい」
「義伯父上。それでは義伯父上が討ち取られてしまいます」
「もしここで与一郎殿を見捨てて生き延びたとしても、藤吉郎に殺されてしまいますよ」
「義伯父上」
「与一郎殿を見殺しにしたとなれば、仲の義母上が口添えしてくれても、許してはもらえませんよ」
「分かりました。何としても生き延びて見せますから、義伯父上も死なないでください」
「分かっています。私もまだ死にたくはないですから」
「殿急いでください」
「分かった。楓は馬にも乗れるかの」
「はい。任せて下さい」
「いや、だか、馬になど乗って腹の子は大丈夫なのか」
「馬鹿」
「小一郎殿は戦上手です。相手が豪勇の淡河と言えど、小一郎殿が後れを取られることはないでしょう」
「それならばいいのですが」
「それに万が一の事を考え、小一郎殿は五百騎の手勢を半数に分け、与一郎殿に預けられたのです」
「そうですね。私がしっかりしなければならないのですね」
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「痛」
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「うわ」
「与一郎殿」
「殿」
「楓、儂はどうしたのだ」
「馬から落とされたのです」
「何たる不覚」
「いえ、殿の所為ではありません」
「何。どう言う事だ」
「恐らく雌馬を放ったのです。それで牡馬が暴れたのです」
「姑息な。いや、よくぞ考えたな」
「とにかく今は御逃げ下さい。このままでは討ち取られてしまいます」
「うむ。痛」
「どうなさいました」
「足を挫いたようだ。儂を置いて逃げろ。このままでは楓まで討ち取られてしまう」
「嫌です」
「楓を無駄死にさせるわけにはいかん」
「殿は子供を父無し子にする御心算ですか」
「何。子が出来たのか」
「はい」
「ならば、それこそ楓を死なせるわけにはいかん。生き延びて儂の子を産んでくれ」
「嫌でございます。死ぬも生きるも一緒でございます」
「楓」
「殿」
「御邪魔して申し訳ありませんが、ここは私が防ぎますので、与一郎殿と楓殿はこの馬に乗って御逃げ下さい」
「義伯父上。それでは義伯父上が討ち取られてしまいます」
「もしここで与一郎殿を見捨てて生き延びたとしても、藤吉郎に殺されてしまいますよ」
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「分かりました。何としても生き延びて見せますから、義伯父上も死なないでください」
「分かっています。私もまだ死にたくはないですから」
「殿急いでください」
「分かった。楓は馬にも乗れるかの」
「はい。任せて下さい」
「いや、だか、馬になど乗って腹の子は大丈夫なのか」
「馬鹿」
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