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第一章
寝返り
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「父上。上様は何を御考えなのですか」
「宇喜多の事か」
「はい。殿が苦心して調略したのに、それを叱責されるなど、何を考えておられるのか分かりません」
「上様は、天下の形を考えておられるのだ」
「天下の形ですか」
「上様が天下布武を成し遂げられた後の天下の形だ」
「父上が何を申しておられるか分かりません」
「宇喜多は備前と美作を領する大大名じゃ」
「はい」
「そのような者を残せば、上様の作られる幕府の害になる」
「しかし御味方すると申しております」
「上様の幕府が不利になれば、また寝返るであろう」
「では、今は味方に加え、天下が定まってから誅されればいいのではありませんか」
「上様はそのような汚い事が嫌いなのだ」
「敵対しそうな者は、正々堂々と潰すと言う事ですか」
「そうだ」
「しかしそれでは、前線で戦う者は大変でございます」
「だがそれが上様だ」
「もしかして、それが殿の」
「口にするな」
「はい。申し訳ありません」
「上様は坊主共が政に口出すことを許されぬ」
「はい」
「だが兄者にすれば、毛利を討ち果たすまでは妥協して、毛利を叩いてから、改めて坊主共を叩けばいいと思っている」
「はい」
「その思いは、佐久間様も荒木殿も同じであろう」
「それは、まさか、父上」
「だが上様の御考えも分かるのだ」
「それは何でございますか」
「父が子を殺し、子が父を殺す世の中だからそこ、敵味方をはっきりさせ、一度信じて味方した者を裏切らないと言う事だ」
「上様は、味方した者を裏切ることはないと言われるのですか」
「先に裏切らない限りはない」
「では、殿と宇喜多殿はどうなるのですか」
「上様は、朝廷に働きかけて、殿に筑前守の官職を下さり、明智殿に惟任の名を与えられ、丹羽様に惟住の名を与えられた」
「はい」
「共に九州に所縁のある官職と名前じゃ」
「はい」
「上様が御考えになられる幕府では、功臣は九州に封じられるのであろう」
「あ。では、中国や四国はどうなるのですか」
「上様の御身内が封じられるか、蔵入り地になるのであろう」
「しかし、それでは、殿や明智殿の所領はどうなるのですか」
「御召し上げになるであろうな」
「そんな。武士にとって所領と名が全てです。それに殿には切り取り勝手と申されてではありませんか」
「だから、宇喜多の調略は認められるであろう」
「まことでございますか」
「だが上様の本意ではない事を忘れてはならん」
「はい」
「兄者には上様の理想は分かっている。分かっているのに、戦に勝つために違う形を願い出ているのだ」
「それは」
「上様と兄者との間にも、戦いがあると言う事だ」
「父上」
「楓を大切にするのだ。そして小六殿との絆を大切にするのだ」
「はい」
「宇喜多の事か」
「はい。殿が苦心して調略したのに、それを叱責されるなど、何を考えておられるのか分かりません」
「上様は、天下の形を考えておられるのだ」
「天下の形ですか」
「上様が天下布武を成し遂げられた後の天下の形だ」
「父上が何を申しておられるか分かりません」
「宇喜多は備前と美作を領する大大名じゃ」
「はい」
「そのような者を残せば、上様の作られる幕府の害になる」
「しかし御味方すると申しております」
「上様の幕府が不利になれば、また寝返るであろう」
「では、今は味方に加え、天下が定まってから誅されればいいのではありませんか」
「上様はそのような汚い事が嫌いなのだ」
「敵対しそうな者は、正々堂々と潰すと言う事ですか」
「そうだ」
「しかしそれでは、前線で戦う者は大変でございます」
「だがそれが上様だ」
「もしかして、それが殿の」
「口にするな」
「はい。申し訳ありません」
「上様は坊主共が政に口出すことを許されぬ」
「はい」
「だが兄者にすれば、毛利を討ち果たすまでは妥協して、毛利を叩いてから、改めて坊主共を叩けばいいと思っている」
「はい」
「その思いは、佐久間様も荒木殿も同じであろう」
「それは、まさか、父上」
「だが上様の御考えも分かるのだ」
「それは何でございますか」
「父が子を殺し、子が父を殺す世の中だからそこ、敵味方をはっきりさせ、一度信じて味方した者を裏切らないと言う事だ」
「上様は、味方した者を裏切ることはないと言われるのですか」
「先に裏切らない限りはない」
「では、殿と宇喜多殿はどうなるのですか」
「上様は、朝廷に働きかけて、殿に筑前守の官職を下さり、明智殿に惟任の名を与えられ、丹羽様に惟住の名を与えられた」
「はい」
「共に九州に所縁のある官職と名前じゃ」
「はい」
「上様が御考えになられる幕府では、功臣は九州に封じられるのであろう」
「あ。では、中国や四国はどうなるのですか」
「上様の御身内が封じられるか、蔵入り地になるのであろう」
「しかし、それでは、殿や明智殿の所領はどうなるのですか」
「御召し上げになるであろうな」
「そんな。武士にとって所領と名が全てです。それに殿には切り取り勝手と申されてではありませんか」
「だから、宇喜多の調略は認められるであろう」
「まことでございますか」
「だが上様の本意ではない事を忘れてはならん」
「はい」
「兄者には上様の理想は分かっている。分かっているのに、戦に勝つために違う形を願い出ているのだ」
「それは」
「上様と兄者との間にも、戦いがあると言う事だ」
「父上」
「楓を大切にするのだ。そして小六殿との絆を大切にするのだ」
「はい」
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